里親に関心を寄せながらも、「里親としてやっていける?」という疑問は付いて回るもの。実子がおらず子育て経験がない、あるいは今までこどもと関わってこなかったという人は、なおさら不安に感じることもあるでしょう。そんな人をサポートする制度や、迎え入れたこどもとの向き合い方について、社会的養護におけるこどもたちの生活の改善に力を注ぐ上鹿渡和宏教授にうかがいました。

「里親」と一口に言っても、迎え入れ方や環境はさまざま

上鹿渡さん

「“里親=親になる”と思っている方も少なくないのですが、里親のすべてがそうではありません」と、上鹿渡教授。聞けば、里親は英語で「foster carer(フォスターケアラー)」と言われるように、あくまで“代替養育を行う養育者”と考えるのが良いそうです。

たとえば「養育里親」は、実親がいるこどもを預かって育てるというもの。こどもが安心・安全に暮らせる環境が整えば、できるだけ早い段階で親元へ返すことを前提としています。

「この場合、代替養育を行っていると意識することが、とても大事です。赤ちゃんや小さなこどもの場合、特定の人との間に安心・安全を感じる愛着関係(アタッチメント)を結ぶことが必要とされています。親元に返すときは別れが辛く大変かもしれませんが、それでもしっかりかわいがって、安定した愛着をつくる役割を担っているのだと理解することが、養育里親に求められることだと思っています」

一方、将来的に養子縁組をして法的に親子関係を結ぶことを前提とし、里親としてこどもと一緒に生活していくのが「養子縁組里親」です。

さらに、「季節・週末里親」といって、施設で暮らすこどもを長期休暇や週末に養育する形もあります。こちらは一人のこどもがひとつの家庭に継続して通えるほか、平日に都合の付きにくい里親にも対応できるのが特徴です。

「施設で養護されているこどもの中には、休みの日でも自宅に帰ることができない子もいます。そんなケースを補うのが季節・週末里親です。いきなり長期で預かるのは難しい、という里親さんにも向いていますね」

さらに最近、見られるようになったのが「ショートステイ里親」なのだとか。

「これは、まだ親と分離されていないこどもを短期で預かって養育するのが特徴。たとえば親が病気や育児疲れで精神的にギリギリの状態のときなどに、数日から1週間ほどの短い期間、こどもを預かる形です」

ショートステイ里親は、里親が支援機関のサポートを受けながら行います。期間が決まっている短期での預かりなので、初めての里親やその家族にとっても取り組みやすいと思います。まだ導入されていない地域もありますが、取り組む自治体は徐々に増えているそうです。

「何より、親子分離を防ぐ予防的な観点からも重要な取り組みです。里親と支援機関のサポートがあれば始められるので、たとえば各校区に1人そのような里親がいれば、虐待などの予防につながります。こどもが泊まりがけでいないだけで、親の負担はずいぶんと軽くなりますから。こうした予防的な支援は今後、さらに広がっていくことでしょう。何よりもこどもと親にとって助かる方法であり、取り組みを始めたばかりの里親やその支援者にとっても良い制度です。これまでショートステイの主な受け入れ先とされてきた乳児院や児童養護施設が地域になく、心配なこどもと親を支える具体的な手立てのなかった市町村の方々も助かると思います」

上記の通り、里親の種類はさまざま。初めてこどもを迎え入れるなら、どれを選ぶのが良いのでしょうか?

「ごく短期のショートステイ里親は、最初の一歩になり得ると思います。ただ、自治体によって状況は異なるので、迷っている場合は実際に里親をしている方に話を聞くのが良いでしょう。里親はあくまで親ではなく“養育者”ということと、さまざまな種類があることを理解したうえで、どんな子がいるのか、どんなことが起こり得るのか、どのような支援があるのかなど具体的に聞いてみてください」

上鹿渡さん

こんなとき、どうすればいい?「育て方、接し方」に自信がない人へ

里親としてこどもを迎え入れたなら、良好な関係を築いていきたいもの。やはり、実子に対する気持ちと同じように接して行くのが良いのでしょうか?

「乳幼児の愛着関係を結ぶ時期は特に、実のこどもと同じ気持ちで接していただきたいですね。ただ、実子の子育て経験のある方がそのままの方法でやろうとすると、うまくいかないこともあります。虐待にあったことのあるこどもだと、普通の家庭ではあり得ない経験をしているので、たとえば大人の大きな声に怯える、お風呂を拒否するといった反応を見せることも。それを知らずに接してこどもに拒否され、“自分のやり方が悪いのでは”と自信を失ってしまうこともあると思います」

こうしたケースを回避するには、児童相談所と連携し、こどもに関する情報を事前に細かく把握しておくことが大事なのだとか。

「こどもはこれまでの経験に適応した反応や行動をします。どんな経験をしてきた子であるかわかっていれば、起こり得ることを想像することができますし、対応に必要な知識を深めることもできます。これなら、対応がブレたり混乱したりすることもありません。これは赤ちゃんでも同じ。ネグレクトで抱っこされずにいた赤ちゃんは、その状況に適応してしまい、抱っこを望んでいないように見えることがあります。それで自信を失ったり、他の子と違うと落ち込んだりせず、少しずつその子のペースで抱っこに慣れさせていけば、そのうちうれしそうな反応を見せてくれるはず。そこから可愛いと思う気持ちが生まれ、自分にとってのやり甲斐にもつながっていくことでしょう。いずれにしろ、年齢にかかわらず、その子の経験してきたことを理解し、その子の立場になってどのような世界に生きているのか想像してみることが大切です」

このほか、里親の情報を集める中でよく聞かれるのが、“試し行動”です。大人の気を引いたり、自分への愛情を測ったりするためにとる問題行動を指しますが、このときはどんな対処をすれば良いのでしょうか?

「私は“試し”と言うより、こどもがそうするしかなくて起こした行動だと思っています。こどもには試す余裕なんてない状況でしょうから。この場合は、こどもがなぜその行動をとったのか、こどもの目線でその意味を理解して対処することが必要です。また、こうした行動が起こりうると理解しておけば、自分を責めることもありません。こどもとの関係がうまく築けずにギブアップしてしまうと、こどもは施設に戻ることもあります。里親さんがいなくなればこどもは傷付き、今後も“どうせいなくなるんだ”と考えるようになる可能性もある。反対に、大変なことがあってもいなくならず、変わらず一緒にいてくれる人はやがて信頼できる大事な人となり、こどもを力づけることができます。里親さん側も同じ経験をした里親さんに相談するといった解決法も覚えておきましょう」

上鹿渡さん

こどものことをみんなで見て育てていく“チーム養育”とは

こうしたこどもを迎え入れ、養育していくために必要なのが、「里親認定前研修」の受講です。内容は自治体によっても異なりますが、基本的には里親制度やこどもの発達など基礎知識を学ぶ座学と、乳児院などの施設へ行く実習などが行われます。これに対し、上鹿渡教授は「まだまだ足りていない」と指摘します。

「長い間、同じ内容・形式のままで新しい里親制度に対応できていない自治体も多いと思います。グループワークを取り入れている現場もありますが、これだけで里親について理解するのはなかなか難しい。また、こどもが委託された後の研修も足りていない状況です。委託中の研修はとても重要です」

ただし、そんな状況も近年は変わりつつあるのだとか。

「2016年にイギリスから『フォスタリングチェンジ・プログラム』という里親がこどもを委託されている間に受講する研修が導入されました。こどものさまざまな行動の意味を理解し的確に対処する方法や、その前提として里親とこどもの関係を良好に築く方法など、スキルを体系的に学べる場ができたんです。3時間の講習を12週連続で受ける内容ですが、非常に好評で、出席率は概ね90%ほどで皆さんとても積極的に参加されています。また、グループで受講するうちに仲間との信頼関係が生まれ、良い相談相手ができるという利点も。参加者からは“もっと早く受ければ良かった”“すべての里親に受けて欲しい”といった感想も聞かれます」

さらに、里親制度自体も、現在は変わりつつある時期だそう。

「2016年、児童福祉法が大きく改正されたことで、里親養育の支援を包括的に一貫して行うフォスタリング機関が新たに作られ、チームの形でこどもの養育を一緒に見ていくことになったんです。これまで、里親のリクルート(募集)はこちら、こどもを委託された後の支援はあちらと、バラバラになりがちだったものをワンチームとして実施することになりました。里親希望者が支援者と出会い、研修を受け、登録され、こどもとのマッチングを経て、こどもが委託され、サポートや助言を受け、委託解除(こどもとの別れ)とその後の喪失感のフォローまで、包括的に一貫してチームとしてこどもの養育を行うことになりました。全国でこのような養育を目指したさまざまな取り組みが展開されています。

フォスタリング機関の財政的な不安定さも課題でしたが、昨年の法改正で国がしっかりとした基盤を準備したので、チームによる里親養育を全国で実現するチャンスです。フォスタリング機関は各自治体で整備され、来年4月より『里親支援センター』として機能していくことになります。これまで、里親が困ったときに児童相談所へ相談するのは “ここで弱音を吐いたらこどもを引き揚げられるかもしれない”という不安を感じる方もいて、なかなか足が向きにくかったのが実情でした。里親支援センターが里親にとっていつでも頼れるチームの一員としての役割を果たせるようになれば、里親はこどもが親元へ帰るか、自立するまで、こどもと一緒にい続けることができるようになると思います。こどもが必要としているのは一緒に生きてくれていると思える人の存在です」

これらの支援がますます充実していけば、多くの里親が自信を持って社会的養育に取り組むことができるようになるでしょう。最後に、社会的養育に取り組むうえで心がけるべきことを、上鹿渡教授に聞いてみました。

「“こどものために”で終わらせずに、“こどもとともに”を意識することです。こどものためにと思って行動したことが、こどもからすればあまり良い結果につながっていないということがあります。教育虐待はその典型ですね。そうではなく、こどもの声と客観的な評価を確認しながら接していくことが大切。チームに支えられながら里親がこどもに寄り添い、こどもが“一緒にいてくれている”と感じられたら、里親はその子の人生に大きく影響を及ぼす大切な存在になります。里親家庭にいる間だけでなく、家に帰ったり、自立した後もそのこどもの将来を守っていくことにもつながりますので、とてもやり甲斐のあることではないでしょうか」

※これからの社会的養育や里親などに関する情報は、上鹿渡教授が所長を務める早稲田大学の『社会的養育研究所』でも読むことができます。気になる方はぜひチェックしてみてください。

上鹿渡さん

上鹿渡さん

かみかど・かずひろ/早稲田大学 人間科学学術院 教授、児童精神科医。児童心療科の医師として児童相談所に勤める中で、社会的養護のこどもたちの現状を知り、変革を決意。京都府立大学大学院で博士(福祉社会学)を取得。 その後、信州大学、長野大学を経て現職に就く。2019年には、社会的養育に焦点を当て、現場・自治体・国をつなぎ、研究・実践・施策の連動を促すべく早稲田大学 社会的養育研究所を設立。里親を筆頭に、こどもを取り巻く環境の改善を目指した取り組みを行っている。