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増え続ける「胃袋」をどう満たすか? 

アフリカ@世界 更新日: 公開日:
記者時代にウガンダで

私が初めてアフリカの大地を踏んだのは、26年前の1991年2月のことだった。大学の探検部員だった私は仲間と6人で、サハラ砂漠の南側に位置するニジェールという国を訪れ、首都ニアメから遠く離れた半砂漠の村にテントを張って住み込んだ。井戸水をすすり、砂にまみれ、下痢やマラリアに悩まされながらも農作業や祭りの様子を映像に収め、帰国後にテレビ番組を制作した。

どこへ行っても人、人、人の日本から抜け出した我々は、広大なアフリカの大地で開放感を満喫した。当時のニジェールは、日本の3.35倍の国土に、大阪府の人口より少ない約817万人が住んでいたに過ぎなかった。首都ニアメの人口は確か50万程度だったと記憶している。都市と都市、村と村の間に人の姿はなく、サバンナが地平線のかなたまで続いており、車は幹線道路でも30分に1台見かけるかどうかだった。

当時のアフリカ全体の人口は約6億4900万だった。日本の80倍の広さの大地に、日本の5倍程度の人間が住んでいたに過ぎなかった。日本の街の暮らししか知らなかった若造にとって、アフリカはどこまでも広かった。

その後、私は大学院修士課程でアフリカ地域研究を専攻し、毎日新聞社で南アフリカ・ヨハネスブルク駐在特派員(2004~08年)を務め、14年からは現職場でアフリカの政治経済情勢の分析に携わっている。
そんな私は数年前から、アフリカの様々な国に出張するたびに、「昔とは何かが違う」と感じる機会が増えた。ひと言でいえば、初めてアフリカを訪れたころのような開放感がないのだ。特に都市部では目に見えて人が増え、しばしば日本以上に過密なのである。

「過密」なアフリカ

人口が急増するコンゴ民主共和国の首都キンシャサ

車も激増し、各大都市の交通渋滞は、手の施しようがない水準に達している。04年9月にケニアの首都ナイロビに行った際、夕方のラッシュの時間帯でも街の中心から郊外のジョモ・ケニヤッタ国際空港まで車で30分だった。それから10年後の14年9月、同じ時間帯に空港へ向かったところ2時間半かかった。

いま、サハラ砂漠以南のアフリカ49カ国国(サブサハラ・アフリカ)では、かつて人類が経験したことのない勢いで人口が増えている。国連が15年7月末に公表した世界人口予測によると、15年7月1日現在、世界人口は推定約73億4947万で、このうちサブサハラ・アフリカは9億6229万だった。私が初めてアフリカを訪れてからの四半世紀で、ほぼ倍増した計算だ。

注目すべきは人口増加率の高さである。10~15年の世界の増加率が年平均1.18%だったのに対し、サブサハラ・アフリカは2.71%だった。世界の他の地域を見ると、アジア1.04%、欧州0.08%、ラテンアメリカ1.12%、北米0.78%に過ぎない。

戦前の日本がそうだったように、社会福祉制度が未発達な社会では、ヒトは子供を多く残し、自らの老後に備えようとする。さらに、たとえアフリカの最貧国でも、予防接種の普及や栄養状態の改善で死亡率は低下しており、平均寿命は延びている。こうして「多産多死」だったサブサハラ・アフリカの社会は、徐々に「多産少死」の社会に変質している。

この結果、国連は、今の高校生が50歳を迎える2050年の世界人口を97億2515万、このうちサブサハラ・アフリカを21億2323万と予測する。さらに2100年の世界人口を112億1332万、このうちサブサハラ・アフリカを39億3483万と予測する。ここに至って人類の、実に3人に1人以上がサブサハラ・アフリカの住人になるのだ。

2100年には、世界の人口上位10カ国の半分をサブサハラ・アフリカの国(ナイジェリア、コンゴ民主共和国、タンザニア、エチオピア、ニジェール)が占める見通しだ。かつて私が開放感を満喫したニジェールは年率4.0%で人口が増え続け、現在約2000万の人口が2100年には2億933万に達すると予測されている。
まさに史上空前の「人口爆発」と形容するほかない。

人口が爆発するサブサハラ・アフリカは、食糧、若者の雇用機会、エネルギー、土地や水資源などの環境への負荷など様々な課題に直面するだろう。とりわけ対策が急がれるのが、人口爆発によって増え続ける胃袋を満たすための農業の改革である。

「胃袋」をどう満たすか

モザンビーク北部のメイズ畑

サブサハラ・アフリカでは、人口のおよそ54%が農民だ。多くの国でメイズ(トウモロコシ)、米、小麦の3大穀物を主食として生産している。三つ合わせた生産量は毎年およそ1億2000万~1億3000万トン。だが、これだけでは足りず、毎年3000万~3500万トンをアフリカの外から輸入している。

人口の半分以上が農業に従事しながら主食穀物を輸入しているのは、サブサハラ・アフリカの農業生産性が著しく低いからだ。サブサハラ・アフリカの1ヘクタール当たりの穀物生産量(14年)は約1.6トン。これは世界平均の約3.9トンより著しく低く、インドの約3.0トン、タイ約3.1トンなどと比べても低い。農業先進国の米国、フランスはともに約7.6トン、日本は約6.0トン、中国は約5.9トンだ。サブサハラ・アフリカの村々で行われている農業は、灌漑設備もなく雨水頼みで、化学肥料や農薬もほとんど投入されていない。これでは生産性を上げることはできない。

現状の生産性の低い農業を継続していたのでは、急増する人口を養うことはできず、食糧輸入が増加し続け、やがて世界中の穀物を輸入して食べ尽くすことになりかねない。なにせ33年後には世界の5人に1人、83年後には世界の3人に1人はサブサハラ・アフリカの住民になるのだ。サブサハラ・アフリカの農業を改革し、少なくとも主食穀物の自給率を向上させることは、アフリカの人々のためだけでなく、世界全体にとって重要な課題なのである。

さて、今回は、サブサハラ・アフリカにおける人口爆発について書いてきた。しかし、周知の通り、人口問題はアフリカの人々だけの問題ではない。それどころか、アフリカとは反対に、これから人口減少に見舞われる日本に住む我々こそ、人口動態についてよく知っておかなければならない。
そこで次回は、人口爆発するサブサハラ・アフリカと、人口が減り続ける日本とが、これからどのような関係を構築していけばよいかについて考えてみたいと思う。