矢作隆さん(左)、順子さん夫婦
矢作隆さん(左)、順子さん夫婦

障害の有無に関係なく子どもを迎える 2年半、家族で学び合って里親に

「里親入門講座に行ってから登録のための研修を受けるまで、2年半、家族で毎晩のように夕食を食べながら、里親家庭ってどういうものなのか、ネットで調べたことを話したり、こういう場合はどうしようかと相談したりしてきました」(矢作隆さん)

埼玉県川口市に住む矢作隆さん(54)、順子さん(50)夫婦、実子の3人で、自分たちの気持ち、考えを整理しながら里親になりました。社会貢献ではなく、子育てをもっとしたいという動機から始まり、里子の条件を設けず、障害の有無に関係なく子どもを迎えることまで整理したそうです。実子も含めて家族でゆっくり話し合い学んでから里親を始めるというスタイルがあることを教えてくれました。


小学生の実子含めて家族で話し合った大切な2年半

矢作さん宅のリビングには、家族4人の書き初めが飾られています。書き初めは矢作家の恒例行事。夫婦と、25歳になる長女、そして3歳のときに迎え入れた中学生の里子のものです。長女と里子は年齢差があるものの、自営業の両親に代わって、2人で動物園に遊びに行くこともありました。

「2人目の子どもがほしくて不妊治療をしていましたが残念な結果を重ねました。家族3人が落ち込みました。2カ月ほどしたある日、川口市の広報誌の里親入門講座の記事が目に入りました。参加してみて、里親をされている2人の方に聞いてみたんです。『実子がいると、里子に差別してしまうかもしれない。そういう人間には里親は無理でしょ?』と少し突っかかるように質問をしました。(里親の方には)『比べる必要があるの? ないよね?そうでしょ』と逆に同意を求められました。『里親、すごいな』と思っちゃいました」(隆さん)

すぐに里親になれるとは思わなかったものの、矢作さん夫婦が大切にしたのは、当時小学生だった長女も含め、里子と一緒に生活するイメージを共有し、課題と思われることとを一つ一つ話し合って家族としての考えを整理していくことでした。

「娘は『きょうだいが欲しい』という日もあれば、『やっぱりいらない』という日もありました。こういう場合はどうだろうと、(仮定の話を)たくさんしましたが、結局やってみないと答えが出ないね、ということになりました」(隆さん)

「家族3人で里親のことを学んでいった2年半は、私たち家族にとっては貴重でした」(隆さん)
「家族3人で里親のことを学んでいった2年半は、私たち家族にとっては貴重でした」(隆さん)

社会貢献ではなく、子育てをもっとしたい

2010年2月に児童相談所に里親登録のための研修を申し込み、6月に里親登録。その後、児童相談所の職員から委託の相談があった際、「子どもの発達に問題がありそうだけれどそれでもいいですか?」と聞かれても、夫婦は「(障害の有無は)関係ありません」と即答しました。

「(私たち夫婦は)残念な結果になった2人目の出産が難産で、医師から『障害が残るかもしれませんよ』と言われ、こちらも『障害があってもいいから助けてください』とお願いした経緯がありました。だから、私たち夫婦は、里子であっても『障害があるなら(里子として)受けません』とはならないんですよ」(隆さん)

順子さんも若いころは、幼稚園に勤務していました。「子育てをもっと経験したい」という気持ちがあったと振り返ります。

「私たち夫婦は、社会貢献のために里親になったのではありません。子育てが好きなんです。子育てをもっとしたいと思って里親を選んだんです」(順子さん)

「子育てって、子どもを育てながら、自分も育ててもらっている感覚なんです。子育てというより親育てみたいな感覚。喜びだし、醍醐味です。欲張りなので、それをたくさん経験したいと思っていました」(隆さん)

「子育ては得ることばかりな気がします。その喜びをたくさん経験したいんです」(順子さん)
「子育ては得ることばかりな気がします。その喜びをたくさん経験したいんです」(順子さん)

「ちゃんと学ばないと、この子を育てられない」

家族で話し合い、実子を育てた経験があっても、想定外のことが起こり、最初は戸惑うことばかりでした。バランス感覚に課題があったり、気づいたら道路に飛び出していたり……。十分理解していない人たちからは「しつけがなっていない」と言われることがあり、つらかったそうです。

夫婦は「ちゃんと学ばないと、この子を育てられない」と考えるようになり、「専門里親」の研修を受け、知識や経験を持つ専門家とつながる機会を得ました。

専門里親は、専門的な研修を受け、児童虐待などで心身に影響を受けた子ども、問題行動がある子ども、障害がある子どもを迎え入れ、養育に専念できる養育里親のことです。そのため、里親手当は通常の養育里親より多くなっています。

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「発達障害特有の問題行動とその心理状態を学んでいたにもかかわらず、理解が及ばず𠮟ってしまったこともあったので反省しています」(隆さん)

地元自治体が行っている、発達障害の子どもを持つ家族のスキル向上を目指した「ペアレント・トレーニング」(ペアトレ)にも通いました。ペアトレは、環境調整や子どもへの肯定的な働きかけ方を学び、養育者のストレス改善のほか、子どもの行動の改善を目的としたプログラムです。

「(小児医療センターの)専門医や作業療法士と出会ってから、大きく変わりましたね。ペアトレも同じような悩みを持つ親同士で一緒に学べたことは良かったです。市の保健師さんにもお世話になりました」(順子さん)

学校でつくった作品
学校でつくった作品

実子を育てたときとは別の喜び

適切な療育にたどり着いたことで、子どもも見違えるように変化しました。

「喜びはたくさんあります。こちらが思う以上に子どもの力は伸びます。昔は片足立ちができないほどバランス感覚がなかったのに、4年生になった頃には一輪車にも乗れるようになったんです。苦手なことがたくさんある子だからこそ、できるようになったときは感動しました」(順子さん)

学校は支援学級ですが、学童保育は普通学級の子どもたちと一緒。そこでいろいろな刺激を受けて、けん玉、コマ回し、ドッチボールで遊ぶようになりました。表情も豊かになっていきました。

「自分の知らない世界に飛び込んだことで、実子を育てたときとは別の喜びがありました」(順子さん)

「里親を始める前、自分は差別する人間じゃないかと自分を疑っていたけど、実際やってみたら同じ教育なんてできないし、比べようがありません。その子にとっての一番の養育というのは、一人ひとり違うから比べられないんです」(隆さん)

里子が寝た後に意識的に長女と3人で過ごす時間を作るようにもしました。

「なるべく話をして、問題が起きても出来るだけ早期に解決するように心がけました。ご飯を作る時間とかお風呂の時間など、長女と二人きりのときにいろいろ話しをしました」(順子さん)

「(真実告知をした後、里子に)『2人のお母さんがいて、私、ラッキーだね』と言ってくれました。正直に実親のことを説明する一方で、『ママがついているよ。大好きだよ』と声をかけることも忘れないようにしています」(順子さん)
「(真実告知をした後、里子に)『2人のお母さんがいて、私、ラッキーだね』と言ってくれました。正直に実親のことを説明する一方で、『ママがついているよ。大好きだよ』と声をかけることも忘れないようにしています」(順子さん)

「できることは何でもしたい」と心境変化

社会的養護が必要な子どもはいま、全国に約4万5000人います。里親になる人を少しでも増やしていくことが大きな課題です。矢作さん夫妻は、児童相談所が一時保護した子どもたちの受託もしています。「できることは何でもしたい」と思うようになり、これまで5人の子どもを短期で迎え入れてきました。隆さん、順子さんは、里親に関心がある人たちへ、このようなメッセージをくれました。

「安易に『ぜひ里親になってください』とは言えません。いろんな苦労があります。覚悟も必要です。やったらやっただけの喜怒哀楽があります。多くの人に興味関心を持って頂けたらと思っています」(順子さん)

「社会的養護に関心を持ってもらいたいです。いろんな事情から実親と暮らせず、育てのお父さんやお母さんがいたら助かる子どもたちがいるからです」(隆さん)


やはぎ・りゅう/1967年生まれ。埼玉県川口市生まれ。自営業。<br/>やはぎ・じゅんこ/1971年生まれ。埼玉県鷲宮町(現在の久喜市)生まれ。幼稚園勤務を経て、結婚後は自営業を手伝う。

やはぎ・りゅう/1967年生まれ。埼玉県川口市生まれ。自営業。
やはぎ・じゅんこ/1971年生まれ。埼玉県鷲宮町(現在の久喜市)生まれ。幼稚園勤務を経て、結婚後は自営業を手伝う。

本事業は里親制度広報啓発事業として実施しています(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
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