大妻女子大学人間関係学部准教授の山本真知子さん
大妻女子大学人間関係学部准教授の山本真知子さん

里親家庭の実子の気持ち 里親になろうとしているみなさんへ

里親の実子として多くの里子たちと生活をともにしてきた大妻女子大学人間関係学部准教授の山本真知子さん(39)は、里親に対する社会のイメージに困惑することがたびたびあったそうです。里親に関心がある人たちの中でも、実子の気持ち、受け止め方を知りたいと思っている人が多いのではないでしょうか。山本さんの経験は一つのケースですが、里親やファミリーホームがより普及していくために気をつけていくべきヒントがたくさんありました。


里親家庭での実子の立ち位置

山本さんは、自営業をしていた両親と姉の4人で生活していました。ただ、母親は結婚前に児童養護施設で働いていたことから、退職後もフレンドホームや施設を出た子どもなどを受け入れ、自宅で自立支援をしていました。多くの人が出入りする家庭で、初めての里子がやってきたのは、山本さんが小学1年生のときでした。それ以来、両親は、里親、複数の子どもを預かるファミリーホームを運営し、18人を養育してきました。

「子どもなりに、家族と暮らせない子どもたちがいることは知っていました。児童養護施設の子どもを週末受け入れるなどの交流があったので、突然、里子がやってきた、という感じではありませんでした。家業が自宅で自営業をしていたので、家に血のつながらない人の出入りがあることは自然なことでした」

里子ときょうだいのように暮らしつつも、山本さんは成長に伴い、自然と里親である両親をサポートする立ち位置にもなっていったそうです。

「外食に行くと、『この人たちいったいどういう関係?』みたいな目で見られることが多かったですね。みんなの注文をまとめたりする立ち位置を、私と姉がやっていました。里子同士の相性などもあるので、この子とこの子は席を離した方がいいとか、そういうことにも気をつかっていましたね」

「子育てに100%正解はなく、上手な子育てというものもないと思います。実子でも里子でも、うまく折り合いをつけることが大切だと考えています」(山本さん)
「子育てに100%正解はなく、上手な子育てというものもないと思います。実子でも里子でも、うまく折り合いをつけることが大切だと考えています」(山本さん)

実子が相談できるサポート機関があってほしい

里親研修を受け、児童相談所の担当職員とも面談をし、さまざまな研修や受け入れる里子に関する説明を受けたり、相談先があったりする里親。これに対し、山本さんは、子どものときの実体験として実子が悩みを相談できる機会がほとんどなかったと振り返り、今後の拡充を望んでいます。

「両親も里子の養育で悩んでいるところを実子は見ているので、自分の気持ちを両親になかなか話すことができませんでした。里親っていう役割は大事なこと、とわかってもいるので、いろいろな感情がある中で生活していました」

「ちょっとした発散なら部活動に打ち込んだり、美術や音楽にふれたりすることで救われますが、深刻になったときに話を聞いてくれる人が必要です。それがないとガスが抜けなくなって、里親制度の問題ではなく、自分の問題として抱え込んでしまうからです」

里親家庭をすることに対するサポートを具体的に知ってもらうことや、里親家族や里子への専門的ケアの拡充が必要だという
里親家庭をすることに対するサポートを具体的に知ってもらうことや、里親家族や里子への専門的ケアの拡充が必要だという

山本さんは子どものときも、もっと気軽に話せる人がいればよかったと振り返ります。里親で集まる会合やコミュニティーはあるものの、実子だけで集まる機会やコミュニティーはほとんどないそうです。また、学校や友人関係でも、実子という同じ立場で暮らす人が周囲にほとんどいないこと、里親制度について学校で学ぶ機会もないため、どこまで話せば理解してくれるのだろうかと躊躇(ちゅうちょ)してしまうからです。

両親に話せなかったこと

そのため、山本さんには、当時、両親に話せなかったことが多くあるそうです。

「両親は私がそこまで悩んでいることは知らなかったと思います。良い子になる、自分の思いは出さない、といったことを無意識にしている子でした」

「両親は里子のことで悩んでいるし、私は両親に迷惑をかけられない。私が両親にもし『里親をやめてほしい』と言ったとしたら、この子たちの暮らす場所がなくなることもわかっていました」

「里親には守秘義務がありますが、私たち実子はそういう説明を受けたこともなく、この人にこれは言っちゃいけない、どこまでなら言ってもいい、というのを自分で判断しないといけない。里親には研修がありますが、実子は生活の中で知っていくしかないんです。障害がある子どもを受け入れたときも、パニックになったときにはどう対応したらいいのか、知っていた方がいいと思うんです。もっと教えてもらえたらいいと思っている実子はいると思います」

山本さんは実子のためのサイトを立ち上げて実子が話せる機会を作っている
山本さんは実子のためのサイトを立ち上げて実子が話せる機会を作っている

里親制度が果たす大事な役割をわかっているのは、里親家庭の実子です。幼いころから寄り添ってくれる、関わってくれる人を増やし、長く関わってもらえるようにするためには、委託里親への訪問援助や相談、アドバイスなどの支援を行う児童相談所や「フォスタリング機関」などによる実子へのサポートの充実が欠かせません。

里親家庭は「特別な家庭」ではない

里親に対する一般的なイメージも、変えていかなければいけないと言います。

「『(里親をやっている)ご両親は素晴らしいですね』って周りからすごく言われました。『すごくいいことをしている』と言われてしまうと、ちょっとしたことでもネガティブなことは(人に)言い出せなくなってしまうんです」

大学院で学び直し、実子の視点からの里親制度を研究テーマにしている山本さんは昨年、いま里親家庭で暮らしている子どもたちが、なるべくつらい思いをすることがないように、との思いで、著書『里親家庭で生活するあなたへ 里子と実子のためのQ&A』(岩崎学術出版社)を刊行しました。

・ずっと施設で生活していたので里親家庭に来たくなかったです。この気持ちどうしたらいいですか?
・学校の友達に里子だと知られたくないです。どうしたらいいですか?
・里子と性格が合いません。何か良い方法はありますか?
・里子から秘密を打ち明けられました。親に言ったほうがいいですか?

この中には、山本さん自身が子どもだとしても知っておきたかったことが含まれているといいます。

里親家庭の支援機関はどのようなものがありますか?

「実子は里親制度の蚊帳の外に置かれがちですが、里子と同じ学校に通っている場合などは、学校も含めて親より長い時間一緒に過ごすことになります。里親家庭にとって、重要な一員であるのは間違いありません。大学生ぐらいになると実子というよりは養育者側の立場になりますし、チームの一員として認めてあげたほうがうまくいくという論文もあります」

これまでの経験から、山本さんが重要だと感じているのは、里親にも里子にも実子にも「本音で話せる相手が必要」ということです。

「現在の里親支援というと児童相談所の担当者が第一の相談先になりますが、里親の中には、実子がネガティブなことがあるといったら、里子に影響があるから児童相談所から良く思われないのではないかと不安を持つ人もいます。そういう不安を感じずに相談できて、うれしいことも報告できて、その子の成長を一緒に喜べる人が必要だと思います。私自身、辛いことや困っていることを言える人がいたらどれだけ楽だったろうかと思います」

本気で動こう

里親を増やしていくためにはどうすればいいのでしょうか。

「虐待死の事件などが起きると、SNSには『うちにくればいいのに』というコメントがあふれます。里親制度はあるのに、本気で動く人はまだまだ少ないですよね。保護される一歩手前にいる子たちが世の中にはたくさんいます。命を落としてから考えるんじゃなく、救える制度がいまあるんです。里親は専門的な知識が必要だと思っている人もいますが、そこは『きちんと支援があるから、ぜひ里親をやってください』と言える社会になってほしいですね」


やまもと・まちこ/1982年、東京都生まれ。日本女子大学大学院博士課程修了。大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科准教授。専門は子ども家庭福祉、社会的養護。2児の母。

やまもと・まちこ/1982年、東京都生まれ。日本女子大学大学院博士課程修了。大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科准教授。専門は子ども家庭福祉、社会的養護。2児の母。

本事業は里親制度広報啓発事業として実施しています(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
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