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人間をまもる

[Part3]福島・千葉・東京/生かすべきか死なせるべきか

 

 

建物から、元気な犬の鳴き声が聞こえてきた。福島県三春町の「福島県動物救護本部 第2シェルター」。昨年3月の東日本大震災の後、福島第一原発から半径20キロ圏内に置き去りにされていた犬や猫を一時的に保護し、獣医師が健康を管理する施設だ。


福島市にある第1シェルターと合わせ、昨年暮れまでに約400頭が、飼い主の元へ戻るか新しい飼い主に譲渡された。この日は、人のほとんどいない飯館村で7カ月を生き延びた猫が、新しい飼い主にもらわれていった。


「えさがなくてカエルを食べていたようです」。獣医師の渡辺正道(52)が、猫に薬をやった経過を説明していた。設置したのは地元自治体と県獣医師会、県動物愛護ボランティア会。目的は「被災動物の愛護」だ。これまで約9000万円の運営費は、日本動物愛護協会など4団体の基金と一般からの寄付でまかなってきた。


田中亜紀

運営には、獣医師の田中亜紀(38)の助言を採り入れた。施設内での動物の「群管理」を意味する「シェルターメディシン」を米国で学んだ専門家だ。新しい獣医学の領域なのだ。


雑多な動物が集まる一時保護施設では、感染症などの病気が起きやすい。動物を保護するとまずワクチンを接種する、犬と猫を別のケージにしてストレスを減らすなど、健康にする工夫をして、新しい飼い主に選ばれやすくする。


特に第2シェルターは、田中の助言を参考に、動物がゆとりを持って暮らせる設備を導入。犬棟に78ある個室は高さ2メートル、幅1.2メートル、奥行き1.5メートルほどで、人間のシャワー室ぐらい広い。猫棟の個室では、猫が箱に隠れてリラックスしている。


ただ、米国流を全面的に採用しているわけではない。米国では、感染症や重いけがの動物には殺処分という「安楽死」を選ぶことが多い。これに対し、担当獣医師の渡辺は「安楽死はすんなり受け入れがたい」と悩む。「治療を尽くしたら見切りをつけることも必要なのだろうか……」


生かすことと、殺すこと。そのはざまで仕事をしている獣医師は多い。


全国の自治体には、保健所や動物愛護センターに併設した動物の引き取り場所が約1200カ所ある。飼えなくなった犬や猫、自治体が保護した野良犬などが集まる。殺処分をやめた自治体もあるが、日本でも、数日以内に飼い主や譲渡先がみつからないときは、二酸化炭素ガスや麻酔注射で殺処分するところがほとんどだ。環境省によると、2009年度は23万匹の犬や猫が処分された。


野平幸也

千葉県富里市の県動物愛護センターに昨年末、60代の女性がやってきた。「病気の猫を飼えなくなった」という。センターの獣医師、野平幸也(56)は、最後までみとるよう10分以上かけて説得を試みたが、飼い主は考えを変えなかった。「あなたに動物を飼う資格はありませんと言いました。怒りが湧いて」。野平にとっては、毎日のことだ。


犬猫に新しい飼い主を見つける地元ボランティアのおかげで、殺処分される犬猫の数は06年度と比べ半減した。それでも、もらい手がいない動物は、保護から5日後に二酸化炭素ガスで処分される。10年度は、千葉県下から集まった犬と猫、計約7000匹が殺処分された。「嫌ですよ。動物を飼うときの一番つらいところを任されている」と野平。


運ばれてくるのは、病気やけがをした犬猫が多い。飼い主に連絡をとっても、けがをしていると知った途端、「自分の犬ではない」と言い張る人もいる。


野平はいう。「ここでの仕事は、犬猫を通して人間が見えてしまう」


田向健一

田園調布動物病院(東京)の院長、田向(たむかい)健一(38)は、子どものころからとにかく動物が大好きだった。現在は、爬虫(はちゅう)類や両生類、タランチュラ、アリクイ……と、珍しい生き物の治療も引き受ける「珍獣ドクター」として有名になった。どこにでもいるようなアマガエルを手術したこともある。野菜にくっついてきたのを小さな子どもが飼っていたものだった。


しかし、田向には「ペットを飼うのは、所有したい、手なずけたいという人間のエゴイスティックな欲の現れにすぎない」との思いもある。中学生になってイグアナを飼い始めたのは、ただ「怪獣みたいでかっこいいものが欲しい」という一心からだった、と振り返る。


「動物は口をきかないので、人間の勝手な感情を投影しやすい。だが、動物は人といて本当に幸せなのだろうか。動物と生きることの『業(ごう)』に、人がどこまで気づけているのか、と思う」

 

(鈴木暁子、青山直篤)

 

(文中敬称略)

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