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インドで魚屋を始めた日本人弁護士

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
グルガオン市内の中心部では高層ビルやショップが並ぶ(西野さん提供)

【私のON】

グルガオン市内の中心部では高層ビルやショップが並ぶ(西野さん提供)

インド・ニューデリー近郊のグルガオンにある法律事務所で働いていましたが、退職し、2016年11月から魚屋を開業しました。インドには生魚を食べる習慣がなく、魚屋にはハエがたかっていることもあり、刺身を食べることができません。

もともと弁護士としての仕事の幅を広げたいとの思いでインドに来たのですが、インドの弁護士資格を持っていないため、インド人弁護士と日本のクライアントの橋渡し的な仕事しかできません。弁護士業の妙味は問題解決の立案ができること。それなら起業し、自分ですべてをやるビジネスに挑戦してみようと発想を変えました。

著しい経済成長を遂げているインドには、日本人だけでなく韓国や台湾、欧米の人々が多く住んでいます。新鮮な魚は売れる、と思いました。

新鮮な魚を常時入手できるように流通ルートをいかに確保するか。まずは信頼できるインド人のビジネスパートナーを探すことから始めました。

インド南部のポンディシェリで魚をとる地元漁師のムトゥさん(左)とアンドリューさん(西野さん提供)

インド南部・旧フランス領のポンディシェリの海ではアジやシイラ、マダイ、クエなどが取れます。五つの船で計15人のインド人の漁師をトレーニングし、彼らの監督チームもつくり、炎天下に放置されることがないよう空輸以外の輸送ルートはすべて自前でやるようにしました。鮮度を保つため、血抜きや内臓取り除きだけでなく、日本人のすし職人から神経締めも指導してもらいました。

最初は魚が1匹しか取れず、大赤字からのスタートでした。安心・安全を第一にしているため、インド人が売る魚の4倍ほどの値段になってしまいます。煮魚や焼き魚用の魚であれば、お客様にインド人の魚屋で買うように勧めることもあります。

4キロ取れても刺身として使えるのは1キロしかないこともあります。廃棄ロスをできるだけ減らすためにコロッケやハンバーグなど魚の加工品やお弁当販売も始めました。

インドでビジネスをする際に重要なのは、「こだわらない」こと。日本人はこだわって、この技術をインドに伝えたい、と挑戦したがる傾向がありますが、インド人は日本車以外は「日本ブランド」にあまり関心がないようです。インドの市場に合わせて商品・サービスを変える柔軟性が必要です。

一方で、ビジネスの実績がなくても、取引相手として話を聞いてくれ、ビジネスを始めるハードルが低いとも思います。面白ければ、すぐに一緒にやりましょう、となる。魚屋を軌道に乗せ、いずれはすし店などのレストランやIT企業の経営も手がけられればと考えています。

【私のOFF】

ポンディシェリで捕れた魚の刺身(西野さん提供)

休日も漁師やスタッフとの打ち合わせでつぶれることが多いです。でも、いまは仕事が楽しいので、ストレスは感じません。休みの日もメニューを考案し、実際に試食し、お客様を招いて試食会を企画します。

自分の普段の食事も、商品開発をかねて刺身や煮魚、焼き魚などを食べています。インド料理は塩分が多く、脂っこいので苦手意識もあります。和食はとにかく健康的。インド人にも和食の良さを広めていければと思っています。

時間があれば、いろんな人に会い、ビジネスのネタを探し、スタッフだけで解決できない問題にだけ関わるように心がけています。できるだけ自分が実働する時間を減らすことがビジネスの基本だと考えているからです。

グルガオン

ニューデリー近郊の新興都市で、人口約88万(2011年)。自動車産業の中心地として知られ、日系の大手自動車メーカーや自動車部品メーカーをはじめ、商社や銀行の進出がめざましく、日本人駐在員も多く住む。

Yoshikazu Nishino

にしの・よしかず/1980年、千葉県生まれ。2011年に弁護士登録。日本の法律事務所で勤務後、14年からインドに移住。16年に「ニシノ・ソリューションズLLP」を設立し、魚の刺身や加工品の販売を始める。

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