1. HOME
  2. 特集
  3. インターナショナルスクールのいま
  4. 英名門ハロウ校 日本初の系列校の校長が語る「日本の教育とかなり違うアプローチ」

英名門ハロウ校 日本初の系列校の校長が語る「日本の教育とかなり違うアプローチ」

World Now 更新日: 公開日:
ハロウ安比のミック・ファーリー校長
ハロウ安比のミック・ファーリー校長=2022年11月30日、岩手県八幡平市のハロウ安比、西晃奈撮影

――ハロウ安比を「全寮制」にしたのはなぜですか。

イギリスの本校のモデルを日本でも体現できることが重要です。安比という都心から離れた自然豊かなところで、全寮制で質の高い学び、いろんな活動ができる環境にあることが重要です。

我々ハロウはインターナショナルスクールとしてアジアで25年の歴史があり、東アジアで成功していると思っています。様々な国の生徒がすばらしい大学に進学し、責任ある立場で社会に貢献しています。アジアで培った経験と評判をもとに、日本でも本校を体現できるような学校を開いたのです。こういった学校はアジアでは初めてで、とてもユニークです。

――ハロウ安比にはほかの系列校にはない、独自のカリキュラムはありますか。

一つ目の特徴は、非常に語学教育に力を入れていることです。英語以外に中国語、日本語も学ぶことができます。他のハロウ系列校にないと言えば日本語を学べるのは安比だけです。

二つ目の特徴は、STEAM教育です。サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、一般教養、数学を使って複合的かつ革新的な解決策を見いだすための教育です。

生徒たちは一連のプロセスのなかで、どういった物がどのような思想でデザインされているのかを自らの手を使って見いだすので、創造性豊かな生徒に育つ。そのための施設も充実し、生徒たちがイノベーションを発揮できるような環境を整えています。

三つ目の特徴は、大自然に囲まれた環境で創造性が発揮でき、かつ地域社会に奉仕できるような環境を備えていることです。

私たちはホワイトシーズンとグリーンシーズンと二つの季節に分け、それぞれで創造性をかきたてる活動を幅広く展開しています。グリーンシーズンではスポーツアカデミーという形でゴルフ、テニスやマウンテンバイクを採り入れています。ホワイトシーズンにはスキーやスノーボードをやります。土曜の午前中に2時間授業として展開するだけでなく、希望者は土曜日の午後や日曜日もレッスンを受けられます。寮対抗のかまくら大会といった催しもあります。

上空から見た、ハロウ安比のキャンパス。12月になると、あたりは一面雪景色になる
上空から見た、ハロウ安比のキャンパス。12月になると、あたりは一面雪景色になる=岩手県八幡平市、岩手ホテルリゾート提供

――同じく日本で開校する英国に本校がある「マルバーン・カレッジ東京」は国際バカロレア(IB)教育を採用します。ハロウ安比はケンブリッジ式カリキュラムを採り入れています。その理由を教えてください。

ハロウはイギリスのインターナショナルスクールです。そこを追及するためにイギリスの学校を中心に世界中で普及している、ケンブリッジ大学傘下の教育機関が提供している国際資格「Aレベル」を選びました。

背景には、より専門性を重視した教育で、研究者が育つような仕組みになっているからです。「Aレベル」は国際的に認められた資格で、イギリスの大学だけでなく世界中の大学でも認められています。「Aレベル」は世界的に大学1、2年生の過程が終わっていると見なされます。大学に入りすぐに専門的な勉強ができます。

IBも非常に優れています。その中核には「クリエーティブアクション」があります。創造性と幅広い活動、社会奉仕、キャスト、知識の裏にある理論が核になっています。

ハロウ安比ではIBのキャストにつながる部分を「リーダーシップと奉仕」として取り入れ、アートやスポーツ、そういった活動を幅広くできます。社会貢献をすることもプログラムにとり入れています。また、個々の生徒の関心分野を掘り下げ、レベルを高めるためにメンターの先生について学習ができます。そうやって高校2、3年生で大学卒業レベルの専門性の高い学びができます。

――学費と寮費について、これまでの日本の教育では考えられない額で、「高額で富裕層向けだ」と言われることも多いかと思います。そうした意見についてはどのような考えを持っていますか。

確かに決して安くはありません。ただこの中には全寮制の学校としての様々な経費が含まれています。授業料に加え、生活費や寮費、食事、幅広いプログラムも展開し、先生が宿題の面倒もみる。それら全てが含まれています。

スキーレンタル代金やパス代金、インストラクター代金も含まれています。日本の学校と比べるのではなく、ほかの全寮制の学校と比べてほしいです。スイスの全寮制の学校と比べると6割ぐらいです。いろいろな生徒に入学してほしいと思っているので、その一助となるように奨学金制度も設けています。

――どのような生徒を求めているのですか。

我々の教育のいいところを全て吸収してほしいと思っています。

ですから、全寮制という環境のなかで、どういったことを得ることができるのか。その能力や好奇心をもった生徒を求めています。実際に入学すると、いろいろな機会に恵まれるし、その中でいい成績を残すことも大事です。そうした環境を、自分自身の成長の機会としてめいっぱい活用できるか。学業に加えて人としてどう成長できるのか。どう伸ばして行けるのか。生徒がどれぐらい好奇心をもって貪欲(どんよく)であるのか。そこを見ています。

――入学試験では、ファーリー校長が受験生全員と面接したそうですね。

はい。全員の生徒と面接しました。

面接は、ハロウの教育の一番よいところを得て欲しいと思っていますので、そのために生徒のデータを得ることが重要だと考えています。

学力のほか、どれぐらいのスキルをもっているか、それは特に英語を理解するプロセスになります。一方で、生徒自身が学校に何をもたらすことができるかもみています。音楽が得意とかスポーツが得意とかいろいろな才能を持っているかも重要です。

さらに学業面での能力や興味。たとえば数学者になりたいとか科学者になりたいとか。どういった性格の子なのか、面接をすることで多角的に見ようとしています。

ハロウ安比のミック・ファーリー校長
ハロウ安比のミック・ファーリー校長=2022年11月30日、岩手県八幡平市のハロウ安比、西晃奈撮影

――先日、生徒の保護者を取材した際、その娘さんは英語がほとんどできなかったのに入学できたと言っていました。英語力も必要だが、好奇心が最も大切ということでしょうか。

確かに好奇心や学ぶことへの貪欲さが重要です。

本校の先生たちは英語を第2外国語とする生徒に教える特別な指導法をもっています。生徒たちの教育を英語の授業だけでなく数学を通じて英語を教えることもできます。

母国語じゃない子どもたちにどう教えるかについてトレーニングされている先生たちなので、授業の中で英語を習得できます。また、全寮制なので24時間英語漬けになる環境にいます。授業、寮、週末の活動をふくめて英語に触れる機会はたくさんあるのです。

開校して13週目ですが、入学当時の英語力からは比べものにならないぐらい伸びている生徒もたくさんいます。英語は学校の中での共通言語なので、入学時点の英語力はそれほど問いません。ただし、英語の完成度は問わないが、試験の時点でもある程度の英語力は必要です。それ以上に可能性、どれぐらい伸びるかというのを見ています。

――日本人の生徒に多く入学してほしいという思いはありますか。もしくは、国籍を問わず、選考しているのですか。

私たちは日本の山あいに全寮制の学校を開校したことをとても誇りに思っています。

生徒がシンガポールであれ、仙台市であれ、出身地にかかわらずここで暮らすことになる。全寮制なので、日本だけではなく東アジアを中心に世界中から生徒を募ることができます。その結果、生徒の国籍は13の国と地域から集まっています。それは重要なことで、グローバルな視野を求めてここに来ています。それは素晴らしいことです。

実際に開校してみて、日本の保護者や生徒から関心を集めたと思います。コロナの影響もあると思いますが、質の高い教育を安全な環境で受けられることに魅力を感じているのではないでしょうか。3分の1が日本国籍、それ以外がアジアを中心とする世界中となるのが理想です。

実際は日本人が45%くらいです。数年かけて3分の1にして、海外の生徒を増やしていきたいと思っています。

ハロウ安比のミック・ファーリー校長
ハロウ安比のミック・ファーリー校長=2022年8月25日、岩手県八幡平市のハロウ安比、西晃奈撮影

――2003年から2009年まで6年間日本に暮らした経験から、日本の教育をどう思われますか。

日本の教育には敬意をもっています。

公共教育のレベルが非常に高く、識字率、数学計算についても高いレベルにある。ゆえに世界に影響を与える、創造性豊かな人物を輩出してきました。平均して生徒たちが一定の知識レベル、スキルを持てるという点で非常に優れています。

また、地域への貢献や責任感の育んでいる点は日本以外の国が大いに学ぶべきです。一方で個性を伸ばすような教育、考える過程のなかで創造性や刷新性を伸ばす点ではまだ伸びる余地があるのではないかと思います。

――日本の教育では足りない部分を、ハロウ安比ではどのように学べますか。

まず、教育に対するアプローチが日本の学校とはかなり違います。

いろいろな活動を通じて、創造性や根本的に個性を伸ばすことができます。創造性豊かな考え方を促す指導をしているので、そこは根本的に違います。また、人としてどのような価値観を持ち、どう行動を取るべきか、どう成長するかを包含した「全人教育」をしている。子どもたちが直面する課題にどう対応するか、繰り返し授業の中で学ぶことで自然と身につきます。

世の中が混沌(こんとん)として解決策がなかなか見つからないなかで、そういった問題解決能力は重要になってくるはずです。そうしたことが体系的に体得していける形になっています。