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最前線から見る「脱炭素化」の現在地

PR by 三菱商事
三菱商事の矢作彰悟氏、高納規彰氏、奥村龍介氏、北島シェリー氏、原田雅暉氏

米国4都市からメンバーが集結

──本日は、米国の各都市から、Breakthrough Energy Catalyst(以下BEC)のプロジェクトを推進している皆さんにお集まりいただきました。

奥村 私は、南部テキサス州ヒューストンで、三菱商事のBECプロジェクトチームの統括をしています。BECのプロジェクトは、東京を司令塔に、首都ワシントンD.C.や西海岸シアトル、さらに欧州とも連携しながら進めていますが、今日は米国4都市からメンバーに集まってもらいました。まずはそれぞれから、自己紹介と勤務地についてお話しさせていただきます。

矢作氏、北島氏、高納氏、原田氏、奥村氏

矢作 私は奥村と同じヒューストンでバイオマス由来の航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)のプロジェクトチームに所属しています。ヒューストンは「世界のエネルギーの首都」と呼ばれているように、欧米石油メジャーを含む世界有数のエネルギー企業が拠点を置く街です。石油・ガス産業で栄えてきた場所ということで、近年の脱炭素化の潮流に複雑な反応も少なからずありますが、一方で、今後それを超えていくだけの技術や力のある企業がそろっているとも思っています。

高納 私は三菱商事の電力事業子会社、Diamond Generating CorporationDGC)に在籍し、東海岸マサチューセッツ州ボストンで勤務しています。皆さんのイメージ通り、ボストンエリアといえば、最先端のエネルギー関連技術をリードするMIT(マサチューセッツ工科大学)があります。大学・研究機関などのアカデミアと、数々のスタートアップといった産業が融合する街で、コンパクトながら刺激的な空気の中で働いています。

原田 私は西海岸カリフォルニア州のシリコンバレーで、脱炭素に特化したビジネスの探索をしています。シリコンバレーはDXのイメージが強いかもしれませんが、それのみならず、「EX」(エネルギートランスフォーメーション)についても、イノベーションの震源地だと感じます。スタートアップはもちろんのこと、ベンチャーキャピタルや、テクノロジーの基礎を支える大学・研究機関が充実しており、サステイナビリティーに対する市民や州政府の意識も非常に高い。やはりそれが根底にあってこそ、脱炭素社会への移行は進むと肌身で感じます。シリコンバレー支店には、各営業グループからイノベーション担当が派遣され、グループの垣根を超えた新しいバリューを作るために、日々奮闘しています。

北島 私はニューヨークにあるMCA(北米三菱商事会社)本社のコーポレート担当として働いています。ニューヨーク在住9年目になりますが、世界の金融の中心地であり、多くの「フォーチュン500」(米『Fortune』誌が毎年発表する米企業番付上位500社)入りする企業の本社があるニューヨークには、やはりヒト・モノ・カネ・情報が集まることを実感します。また、国連本部がある場所でもあり、脱炭素化をはじめとする国際的な枠組み・ルールがつくられる場所、新しい議論の最先端にキャッチアップできる場所だと感じます。

データによる「見える化」で、目的地を明確に

── 三菱商事が参画しているBECに関して、皆さんが具体的にどのような業務にあたっているのかお聞かせください。

原田 脱炭素の新規技術はコストが高いためにいまだ広く使われておらず、また、広く使われていないからコストが下がらない、いわゆる「ニワトリと卵」のジレンマに対して、いま一度大きなネスト(巣)を作ろう、というミッションが根底にあります。我々が実際にやっていることは、まずは新規技術の導入を企図する案件の精査です。いま、BECのサポートを受けたいという膨大な数の案件の応募が、欧米を中心に集まって来ています。そこで、BECとしてどの案件を支援すべきかを、最新の技術動向や政府の規制・支援状況、製品バリューチェーン、需要家との連携といった様々な情報を総合的に把握した上で、他のパートナーと活発な議論を重ねて判断しています。そして、そこで得た経験を元に、三菱商事としての新規事業を構想しています。

── 脱炭素という大きな目標は一致していても、具体的にどこを目指すのかという話になると、プレーヤー間で意見のズレや考えの相違などが出てきませんか?

原田 おっしゃる通りです。そこで、ビル・ゲイツ氏が大切にしているBECの哲学として、「すべてを科学とデータに基づいて行う」というものがあります。

BECでは、プロジェクトに対する出資・寄付・グリーン製品の引き取りなどの資金提供を行いますが、それらの支援による将来的なインパクト、つまり「温室効果ガスをこれだけ減らせる」「生産コストはこれだけ削減できる」といった可能性をデータで科学的に分析し、定量化します。 

この「見える化」が、いつ、どのプロジェクトに、どのように資金提供するのがインパクトを最大化しうるか判断する道しるべとなります。また、そのようなインパクト測定の手法が世の中で認められ、スタンダードになっていくことで、官民足並みをそろえた新たな投資が呼び込まれるという好循環を目指しています。 

これまでにない野心的なアプローチですので、私自身も当初はやや懐疑的でしたが、多くのステークホルダーと議論をする中で、今はその意義と可能性を再認識しています。

原田氏

新技術を開発し、アジアとの架け橋に
─SAF(持続可能な航空燃料)─

── 航空業界の脱炭素化のカギとされているSAFについて、現状を教えてください。

矢作 持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF)は、バイオマスや廃食油、グリーン水素などの再生可能エネルギー源から生産されるジェット燃料のことで、従来のジェット燃料に混ぜて使うことで、CO₂排出量を大幅に減らすことができます。航空機は電化・水素化が難しいため、このSAFへの置き換えが、航空業界のカーボンニュートラル達成に大きく寄与すると期待されています。

SAFは、BECが支援対象としている四つの領域の中でも最も社会実装が進んでいる分野ですが、今日のSAF導入量はまだジェット燃料の1%未満。各国の本格的なSAF導入に向けて、量産体制を整える必要があります。

── そのためには膨大な量のSAFの原料が必要になりますよね。原料調達やコスト削減の課題には、どう挑みますか。

矢作 より多くのバイオ原料の導入、それに必要な新技術の実装が必要となることは確実です。SAFには大きく四つの製造方法があるのですが、植物油やエタノール、水素やCO₂リサイクルなど色々な技術や原料が重なり合っている領域でもあります。食品産業グループ、石油・化学ソリューショングループ、電力ソリューショングループ、天然ガスグループといった三菱商事の各グループを巻き込んで、さらに世界各地のパートナーとも協力しながら、新たな技術モデルを作り上げていきたいと考えています。 

さらに、石油業界と連携しながら国産SAFの導入を実現させること、そして将来的には、アジアでの大型生産、社会実装につなげるための架け橋的な役割を担っていきたいと考えています。 

矢作氏、北島氏

現場の知見を生かして、真の社会実装を
─クリーン水素とLDES(長期エネルギー貯蔵)─

── クリーン水素製造や長期エネルギー貯蔵も、BECの重点領域ですね。

高納  私は、クリーン水素長期エネルギー貯蔵(Long-duration Energy Storage:LDES)のプロジェクトチームに参加しています。ご存じの通り、太陽光や風力を利用する再生可能エネルギーは、天候次第という間歇(かんけつ)性を伴うため、再エネを主力電源化するには電力を電気エネルギーまたは別のエネルギー形態で貯蔵して、必要な時にもう一度電気に変えて使うという「長期エネルギー貯蔵」の技術が大規模に必要とされます。また、再エネ由来など製造時に排出されるCO₂量が少ない「クリーン水素」は、今後さらに広いエネルギー用途に使っていくことが求められています。 

どちらの技術も脱炭素社会を実現させるうえで不可欠であり、米エネルギー省も非常に注力している分野です。三菱商事でも、2020年に再エネを主力とするオランダの総合エネルギー事業会社Eneco(エネコ)への資本参画を進めるなど、より付加価値を高めていくための取り組みを進めています。

── ひと言で「脱炭素事業を進める」といっても、国や地域によって、経済構造も法制度も違いますよね。一筋縄でいかないことも多いのではないですか。

高納 まさにその通りです。水素やLDESといっても、ヨーロッパに合う水素とアメリカに合う水素は違いますし、同じアメリカ内でも州ごと、さらに細かく言えば電力会社の管轄区によっても事情は違います。そうした地域の事情を加味して進めることも、脱炭素事業には求められます。

私は入社以来、様々な現場で経験を積ませていただきましたが、持続するビジネスには、プロジェクトが所在する現地の人間がしっかりとコミュニケーションをとって地域との関係性を築き、雇用を作り、許認可を取り、建設をし、さらに継続的に地域と対話をしながら運営していくことが、本当に大切だと感じています。

これができなければ、どんな最先端の技術も実際に役立ててもらうことはできません。そういった現場での実行力、そして多様な産業知見というのは、三菱商事がBECから期待されている点であり、私としてもぜひ貢献したいと思っているところです。

北島氏、高納氏

接地面積の広さが市場勃興の強みに

ダイレクトエアキャプチャー

── ネットゼロの「切り札」といわれている技術が、ダイレクトエアキャプチャー(DAC)ですね。

原田 2050年ネットゼロに向けて、いま話に出てきたSAFやクリーン水素・LDESは当然必要です。ただし、実は「それだけでは足りない」というのがIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の共通見解です。つまり、2050年ネットゼロを達成するためには、プロセス全体で排出する温室効果ガスの量よりも吸収する量が多い「カーボン・ネガティブ」にすることも求められているのです。 

そのためには、CO₂を大気中から除去して固定する・地下に貯蔵するといった技術が必要であり、その切り札になるのがDAC(Direct Air Capture)という、空気中からCO₂を回収する技術で、私はそのDACプロジェクトチームに参加しています。 

DACは、ネットゼロに向けて果たす役割が大きい一方で、現時点では収益化が難しいという課題があります。昨今、CO₂削減の価値を「クレジット」と見なすカーボン・クレジット(排出削減効果を取引可能な形態にしたもの)の売買が活発になっていますが、植林などの自然・植生系の方法に比べて、DACをはじめとするテクノロジー由来の手法は、まだコストが高く、それを賄うだけのクレジット収益を確保する必要があります。

── 温室効果ガスの排出削減効果を取引するカーボン・クレジットは、クレジットの買い手の存在がカギとなりますよね。

原田 カーボン・クレジット市場の中でも、テクノロジーによる炭素除去を用いた分野はまだ黎明(れいめい)期ですが、三菱商事は先駆的なプレーヤーとして、バイヤー候補をはじめ様々なステークホルダーとのネットワークを築いています。三菱商事には、エネルギー関連業界はもちろん、コンビニなどのリテール業界、自動車・モビリティー業界など様々な産業との接地面積がありますが、そのような現場のプレーヤーと「どういう条件ならクレジットを購入いただけるか」「どういった契約上のイノベーションが必要か」「なぜテクノロジー由来のクレジットが必要か」といった議論を日々重ねています。そこで得られたビビッドな知見は、DACの社会実装に貢献しうる価値の大きなものだと思います。 

また、DACにはCO₂を有効活用する用途もあります。メタネーションと呼ばれる、CO₂と水素(H₂)から、天然ガスや都市ガスの主成分であるメタン(CH₄)を作る技術を用いることで、都市ガスのパイプラインなど既存インフラを活用しながらガスを脱炭素化するという提案も、BECプロジェクトチーム内で行っています。このような、日本やアジアの地域特性を踏まえた施策の提案も、三菱商事だからこそできる貢献だと思っています。

「無理」ではなく「どうすればできるか」への意識改革

── BECでの活動を通して得られた、新たな気づきや視点はありますか。

奥村 ビル・ゲイツ氏が設立したBreakthrough Energyという組織はもともと、科学者や起業家、それらを支援するベンチャーキャピタル、そして篤志家という、私たちとは属性・バックグラウンドの異なる方々が、「ネットゼロ」という一つのミッションのもとに集ったネットワークです。この理念のもと、新規技術の導入プロジェクトへの投資活動や政府との折衝を担っているBECもまた、ミッションドリブン(使命主導型)な組織であり、それゆえの強さというものはひしひしと感じます。 

というのも、私自身、長らくエネルギー分野での経験があるため、ネットゼロ実現へのチャレンジの重要性はよく分かりますが、一方では「決してエネルギー資源に恵まれた環境にはない日本で本当に実現できるのだろうか」と思うことも正直あります。ですが、このミッションドリブンな体制に身を置くと、そういう考え方ではなく、「どうすれば達成できるのか」、「課題があるのなら解決策を見つけよう」というモードに切り替わります。実はこれはとても新鮮な感覚で、Breakthrough Energyとの関わりの中で大きく影響を受けている点だと感じています。おそらく三菱商事以外のBECパートナーも、同様の感覚を得ているのではないでしょうか。

奥村氏

北島 ミッションドリブンの話は、私も同感です。付け加えるなら、BECに携わっている人たちの熱意がすごいという点でしょうか。各業界の専門家が一堂に会して、一つのミッションに向けて議論すると、「1+1=」の答えが2どころか、3になったり4になったりする状況がよくありますよね。

高納 確かに「本気度」がすごいですよね。抱えている悩みやぶつかっている壁自体は、私たちと似ているのですが、絶対に達成しなければという強い思いがあるから、堂々と困りごとも打ち明けるし、とことん掘り下げて解決しようとします。そういう姿を見ていると、BECに集まっている企業は、いずれ本当にネットゼロを実現するだろうし、その時の立ち位置も「後部座席」ではなくて「運転席」になるだろうと思います。我々も本気でソリューションを見つけにいかなければ、という危機感は常に持っていますね。

座談会後編[Vol.3]では、BECの今後や脱炭素社会の展望について取り上げます。