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がんで余命宣告を受けた「時代の知性」、ラストインタビューで遺した言葉

Bestsellers 世界の書店から
李御寧(リ・オリョン)さん
李御寧さん(2014年撮影)

冬から春へ向かうころ、韓国ではこの先5年間を担う新大統領が、接戦の末に決まった。全国でコロナの感染爆発が起こった。そんな喧騒(けんそう)の中、「時代の知性」と呼ばれた李御寧(イオリョン)が2月末、88歳で亡くなった。各書店では『李御寧の最後の授業』がベスト10入りし、その後も売れ続けている。

李は22歳のとき、既存の文壇を鋭く突く評論で一躍注目を集めた。1980年代初めには日本に滞在し、日本語で『「縮み」志向の日本人』を書いた。帰国後は梨花女子大国文科で教壇に立つ傍ら、文芸誌を創刊し、複数の新聞社で論説委員を務めた。エッセーや戯曲、小説、詩集などの著作は100冊を超える。

著者のキム・ジスは月刊誌の編集者を経て、著名人のインタビュー記事の書き手として活躍する。3年前、余命宣告を受けた李の「ラストインタビュー」を朝鮮日報のオンラインサイトに掲載し、その後も週1度面談を続けて、本書にまとめた。

山本正樹撮影

やせこけても、キムの前に座る李は凛(りん)としていた。「知識の爆発を止めない、活火山のような人」とキムは評した。ニーチェやボードレール、古代ギリシャの哲人や聖書の言葉を引き、ときに興奮し長くせき込んだ。そして言った。対談者の役割は、水脈を探して井戸から水があふれるようにすることだから、聞いたままを書くのではなく、独創的に書け、と。

がんが腹膜から腸全体に転移したと知ると、抗がん剤治療を拒んだ。病院を往復する時間を惜しんで、書こう。きっと切実な、胸を打つような文章が書けるはずだと、李は考えた。

「ところが、書けない」と吐露する。頭の中は真昼のように真っ白だ。それならばと、夜中に肉声を録音してみた。真摯(しんし)に語ったつもりだが、朝起きて聞くと、平凡な話ばかりだった。

「それが死だ。私のすべての知識、すべての考えは粉々になった。がん細胞は、私の体の消しゴムだった」

それでも、めげない。「消しゴムで消しても消えない、小さく美しいもので、その空白を埋めようと、短い詩を書いている」

大衆文化からITや宇宙まで広範な関心を示してきた李は、ついに未知なる死と向き合い、痛みに涙する自らを客観視し、死を語る言葉を探し求めた。

「杖の助けを借りるようになり、支えてくれる人も現れた。しかし完全に依存したわけではない。そうやって『相互性』を感じている。杖に体の重みを任せて、完全なる独力というものはないんだなと、独り言をいいながら」

88年のソウル五輪では開閉会式を企画、盧泰愚(ノテウ)政権では文化相を務めた。大行事のたび為政者は李の英知を欲した。李は与えられた役目を楽しみながら、政治とは距離を置いてきた。

李のもとには最後の教えを乞う人々が列を成した。追悼文を書き始める人もいた。派手な葬儀パーティーを企画しようという者まで現れた。世間の喧騒を李はそのまま受け止めた。「混沌は私ののどの渇きだ。楽しいカオス。望みがすべてかなってしまえば、楽しみがなくなってしまう。私は意図的に、渇きを残しておく」

現世に残された者たちへの箴言(しんげん)を期待するキムに向かって、李はにやりと笑って見せた。「人は死ぬときに真実を語ると思うのか。違う。遺言はうそなんだ」

自らが死後を演出するかのように、自作の詩集やエッセーなど新刊が次々と出た。そこには、混沌を生き抜く処世術も、独特の痛烈な批判精神も、見当たらなかった。

■韓国のベストセラー(総合)
4月第1週 インターネット書店「インターパーク」より

1  파친코 1  パチンコ1
이민진   イ・ミンジン
『パチンコ上』(文芸春秋BOOKS)

この春、アップルTVでドラマ化されて人気の、在米コリアン作家による小説。

2  파친코 2  パチンコ2
이민진   イ・ミンジン
『パチンコ下』(文芸春秋BOOKS)

戦前から1980年代まで、4世代にわたる在日コリアンの生き様が描き出された小説。

3  아무도 흔들 수 없는 나라  だれも揺るがすことのできない国
문재인   文在寅(ムンジェイン)
新政権誕生前に現職大統領の本が売れるのは極めて異例。5年間に残した演説文を整理。

4  가불 선진국  仮払い先進国
조국   曺国(チョグク)
次期大統領に対峙(たいじ)する立場の著者が、慢性的な社会問題を解決する糸口を提示。

5  불편한 편의점  不便なコンビニ
김호연   キム・ホヨン
庶民の暮らしを題材にした心温まる小説。40万部突破記念で桜柄のカバーに。

6  운명을 바꾸는 부동산 투자 수업 기초편  運命を変える不動産投資授業 基礎編
정태익   チョン・テイク
月給取りでは一生、金持ちになれない。不動産投資で財を成すノウハウを伝授。

7  나에게 고맙다  『自分にかけたい言葉』(講談社)
전승환   チョン・スンファン
6年前に出て人気を博したエッセー。30万部を記念した改訂バージョン。

8  운명을 바꾸는 부동산 투자 수업 실전편   運命を変える不動産投資授業 実戦編
정태익    チョン・テイク  
不動産投資で知っておくべきことの数々。少額投資から始まる持ち家の夢。

9  이어령의 마지막 수업  李御寧(イオリョン)の最後の授業
김지수   キム・ジス
訃報直後の3月第1週は1位を記録。時代を代表する知性が残したメッセージ。

10  여름이 온다  夏が来る
이수지   イ・スジ
著者は今年3月、アンデルセン賞を受賞した。ビバルディ作曲「四季」の「夏」がモチーフ。