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アフリカゾウが民家の敷地に 「アボカド畑が道をふさいだから」ケニアで裁判沙汰に

World Now
ケニア南部アンボセリ国立公園内を歩くゾウの群れ。幼い子ゾウの姿も目立った=2021年8月6日、遠藤雄司撮影

■電気フェンスに囲われた農場

青くかすむアフリカ最高峰キリマンジャロ山のふもとを、10頭ほどのゾウの群れが悠々と歩いている。

近くではシマウマやヌー、ガゼルなどの草食動物が夢中になって草をはむ。その様子を、欧州からの家族連れの観光客が歓声をあげながらカメラに収めていく。約2000頭のゾウが生息圏とするケニアのアンボセリ国立公園では、日常的に見られる光景だ。

ケニア南部アンボセリ国立公園内を歩くゾウの群れ。幼い子ゾウも姿も目立った=2021年8月3日、遠藤雄司撮影

その国立公園を出て東に15キロ進むと、道路沿いに800メートルにわたって連なる電気フェンスが見えてくる。付近は低木が茂っているが、囲われた70ヘクタールの農場の内側は、木が伐採されつくしている。

奥の方には、くみ上げた地下水をためる銀色のタンク2基が並び、その先に6000本のアボカドの幼木が青々と育つ。ナイロビに本社を構えるキリアボフレッシュ社が昨年から農場経営を始めた。輸出用の商品作物のアボカドがゾウの生息地を脅かす、農業と生物保護が対立する象徴的なケースとして注目され、多くの国際メディアで報じられてきた。

ゾウやシマウマ、ヌーなどの野生動物は、水や食料を求めて季節の変わり目に移動する。アンボセリ国立公園周辺に暮らすゾウは約40キロ東にあるチユルヒルズ国立公園やツァボ西国立公園の間を動く。農場はこの間にあり、ケニア野生生物公社などに承認された生態系保全計画では、自然保護区にすべき場所に分類されている。

キリアボ社のアボカド農場を守る電気フェンス=2021年8月4日、ケニア南部カジアド郡、遠藤雄司撮影

地元NGO「アンボセリ・トラスト・フォー・エレファンツ」の研究者ヴィッキー・フィッシュロックさんは「国立公園は狭い。動物たちが園外も含めて自由に移動できなければ、生息地を奪われて数が減ってしまう。体の大きいゾウは広いスペースが必要で、そのスペースを確保することは他の種の生息地を守ることにもつながる」と指摘。「農業、特にアボカドは大量の水や農薬を使うため、下流の人々の生活も脅かす」と話す。同僚のカティト・サイヤレルも「農場に移動路を狭められたゾウが迂回した結果、民家の敷地に入りこむなど人間との衝突が増えている」と危機感を募らせる。

一方、農場のマネジャーのジェレミア・サラシュさんは「合法的に私有地を使っているだけだ。規模も小さく、ゾウの道をふさいでいない。周辺のホテルやレンジャー施設もフェンスで囲われているのになぜ我々だけが問題なのか」と憤る。

キリアボ社のアボカド農場を守る電気フェンス=2021年8月4日、ケニア南部カジアド郡、遠藤雄司撮影

現地報道によると、国家環境管理局は昨年8月、キリアボ社に営農のための許可を出したが、地元民や自然保護団体の反発を受けて翌月に営農の停止を指示。同社は指示を不当として裁判に訴えたものの今年4月に敗訴し、許可も撤回された。同社は控訴して争いは続いている。

■「野生動物の土地が失われる」

地元マサイ族の土地所有者らでつくるアンボセリ土地所有者環境保全組合によると、この地域の土地はもともと、マサイ族のコミュニティーが共同管理していたが、2000年ごろから843人に放牧地約24ヘクタール、農地約0.8ヘクタールずつを分けた。すると、広大な放牧地だった一帯が虫食いのように売られる問題が出てきたという。

そこで、これまで通り野生動物が放牧地を通ったり利用したりできるよう、まとめて保護区として守る運動が高まり、現在は土地所有者344人が参加している。それでも、豊富な地下水を求めてキリアボ社のように企業が高額で土地を買い取って農業を始める動きが出ている。

組合長のサミュエル・カーンキさんは「15年ごろに始まった野菜農場が問題の発端だ」と指摘する。キリアボ社の農場から西に約3キロにある240〜280ヘクタールほどのこの農場には、毎日6台の大型バスが地域外の労働者を乗せてきて、地元の反発を招いている。「キリアボはここの成功を見てやってきた。他の企業による現地調査もすでに6件行われた。キリアボ社を認めてしまえばアボカドを含む農業が一気に拡大し、野生動物の土地は失われる」と危惧する。

ケニア南部アンボセリ国立公園内を歩くゾウの群れ。幼い子ゾウの姿も目立った=2021年8月3日、遠藤雄司撮影

ケニアのアボカド生産量は世界6位。国連食糧農業機関(FAO)によると、同国には19年時点で約2万3000ヘクタールの農場があり、16年の約1万ヘクタールから3年で倍以上に急増した。ケニアアボカド協会CEOのムソミ・アーネストさんは「コーヒーや茶、小麦などより収益性が高く、世界の需要も伸びている」と話す。主な輸出先は欧州だが、「日本にも売り込みたい」と意欲を見せる。世界の投資家の視線も熱いといい、協会は8月にはペルーからの視察を迎えた。

そんな状況に、カーンキさんは「我々は農業に反対しているわけではない。農業はゾウの通り道の外でやればいいんだ。通り道の保全は、野生生物の多様性を保ち、家畜の放牧というマサイの伝統的な生活を守り、1200人分の地元の雇用を生んでいる観光業を守ることになる」と訴えた。(遠藤雄司)