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本名明かさず、それでもフォロワー265万 インスタグラマー「D」の力、本人に聞いた

Breakthrough 突破する力

佐賀県の田舎で生まれ育った。地元で高校まで通い、そのまま大学に行くものだと、両親は思っていた。だが、高3の三者面談で突然こう切り出した。「ファッションの専門学校に行く」。テニスに打ち込んでいたが、高校最後の大会を目前に足を大けがした。落胆する中、元気をくれたのがファッションだった。

両親は面食らった。すでに大学の推薦枠もあり、母(52)は猛反対。だが、決意は固かった。納得してもらえるように毎週のように専門学校のオープンキャンパスに通い続けた。生き生きとしたDの姿を見て、母も受け入れた。「小さいときから頑固で、自分の思ったことを曲げない。言っても聞かない子だった」

進学してファッションを学ぶうちに、世界的なショーが持つ影響力に衝撃を受けた。「パリコレに行きたい」。そんな目標が芽生えた。ただ、コレクションにはショーを催すブランドからの招待状がないと原則参加できない。セレブやメディア関係者でもない自分が招待を受けるには、ファッションブロガーのように、多くの人にショーの様子を届けられる発信力が必要だった。

そこで目をつけたのが、当時はやり始めたインスタだ。

■人気者とは対極 だから考え抜いて発信

でも、自分はなにを表現できるのか。小学生のときからずっと、いじめを受けてきた。周りにあわせるのが苦手。わいわい群れるより、自分の時間がほしいと考える子だった。何かを命令されるのもイヤ。なびかないのが気にくわなかったのか、暴力も受けた。

当時、インスタの中心はセレブばかり。「人気者とは対極」の自分が自身を表現しても見てくれる人は少ない。それならファッションで輝いている人を投稿していこう─。シンガポールのウェブマガジンでインターンなどをしながら、街に出ておしゃれな人に声をかけては写真を撮らせてもらい、投稿していった。

問題は、どうやったらより多くの人に投稿に気づいてもらえるか。まず着目したのが言葉だった。日本語だけで発信しても、見てくれる人は限られる。だったら、より多くの人がいる世界に発信したほうがいい。英語、中国語、インドネシア語……。ネットの翻訳機能を使って少しずつ数を増やしながら、さまざまな言語で投稿していった。「ボウリングでも1本のピンを倒すのは難しい。でも10本あれば何かに当たる。10人に一人でもいいから興味を持ってくれるアカウントにしようと思いました」。いまでは知らない国や読めない言語の返信もいっぱいある、と笑う。

ただ、それだけでフォロワーが増えたわけではない。はじめは、まったく反応がなかった。人気のインスタグラマーのやり方を、徹底的に研究した。人は何に興味があり、どんな言葉にひかれるのか。めざす世界観は?見てもらえる時間は?投稿する写真一枚一枚にこだわりぬき、データを分析して試行錯誤を繰り返した。「起きてから寝るまで、四六時中、インスタのことばかり考えていました」

一貫しているのはフォロワーとのコミュニケーションを何より大事にする、ということだ。「いいね!」やコメントを寄せてくれた人にはすべて返信を心がけた。「SNSはコミュニケーションのツール。それは今も昔も変わらない」と話す。アカウント開設から2年。ついにパリコレに乗り込んだ。現地で感じた興奮を投稿すると、フォロワー数も一気に増えた。いつしか、プラダやアルマーニといった老舗ブランドからも招待状が届くようになった。

■犬猫保護への情熱

パリコレクションで撮影。コロナ禍の前まで毎年渡航し、現地の様子を発信してきた

各ブランドが渾身(こんしん)の作品を発表するショーを、最前線でじかに体験できる機会は刺激的だった。一方で回を重ねながら、気持ちの変化が生まれた。時代は変化し、いずれ新しいプラットフォームも出てくる。「変化しないと、成長できない」

改めて考えた。自分が本当に情熱を傾けたいことは、なんなのか。思い浮かんだのは二つだった。海外の人たちに、自分も大好きな日本のアニメや漫画の魅力を伝えたい。もう一つは、猫や犬の殺処分をなくしたい─。

沖縄県で犬の保護活動をする団体を訪問したDさん。「犬や猫が犠牲になるのは、人間のエゴ。早くなくしたい」と語る(本人提供)

海外の人とやりとりしながら、日本には和食や温泉など、さまざまな魅力がある中で、ダントツで関心が高いのはアニメや漫画だと感じた。自身、幼いころから大のアニメ好きで、生き方にまで強い影響を受けてきた。

「コロナが収束した後、海外の人に日本に来てもらうきっかけづくりがしたい」と、好きなアニメの紹介のほか、飛行機の中で着られる服といったアニメとコラボした商品の企画などに携わる。

猫や犬の殺処分は、子どものころから許せなかった。「人間が邪魔だと思えば平気で殺す。そんな社会でいいのか」。ただ、「かわいそう」だけでは活動は続かない。猫のキャラクター「渋谷忠猫ニャン公」を共同で創作し、このコラボ商品を賛同した企業とつくり、売り上げの12%で保護活動をする団体を支援する仕組みをつくった。

犬や猫の殺処分をなくすため、共同で作ったキャラクター「ニャン公」(右)とコラボした商品を集めたイベントを開催。売り上げの一部を保護活動に寄付している

4月下旬の昼。東京都内のレストランで、この支援モデルを発展させる構想を熱心に話すDの姿があった。相手は、ハローキティなどのキャラクターで知られるサンリオの元執行役員で顧問の山口英雄。スタートアップ企業の支援をしてきた山口は数年前、知人から「おもしろい子がいる」と、Dを紹介された。以来3カ月に一度ほど、Dから連絡を受けてはランチを共にしてきた。数々の起業家に助言してきた山口は、Dは他とはタイプが違ったという。「D君の夢はビジネスじゃない。目標が全然違う。『とにかく自己主張して自己実現するんだ』という起業家がごろごろいる中、彼はそんな目立ち方をいやがった。不思議な子です」

Dは言う。「一番がんばっている方が困らないような社会になればいいと思って。そういう人たちを応援する立場になりたい」。一人ひとりと向き合い、積み重ねた265万人が、Dに新たな可能性をもたらそうとしている。(文中敬称略)

■Profile

  • 1995 佐賀県で生まれる
  • 2013 高校でテニスに打ち込むが、高校総体直前に足を大けが。ファッションに元気づけられる
  • 2014 福岡県の服飾専門学校に入学。インスタグラムのアカウントを開設
  • 2015 シンガポールのウェブマガジンでインターンシップに参加
  • 2016 自分でお金をためて、初めてパリコレを観覧。専門学校を卒業して、上京。当時のフォロワー数は十数万人
  • 2017 初めてミラノコレクションを観覧。このころ、フォロワー数が100万人に
  • 2019 テレビ番組製作会社などをへて独立。このころ、フォロワー数200万人に
  • 2020 苦手な英語を克服するため、フィリピンに3カ月間、語学留学。猫キャラクター「渋谷忠猫ニャン公」を共同でつくる。初イベントを東京・渋谷で実施
  • 2021 ニャン公の2回目のイベントを東京・表参道で実施

日々の習慣こそが突破する力に…「何かをすれば、劇的に変わりますよ」という、うたい文句は信じない。必要なことを毎日継続して、習慣化することこそが、「突破する力」になると思っている。いまの日課は、朝起きると、まず読書。その後、ストレッチ、瞑想(めいそう)、運動をしてから仕事に取りかかる。食事も無農薬や有機野菜を中心にして、心身のケアに気を配っている。


インスタコンサルの落とし穴…「SNSで力を貸してほしい」との相談も受けるが、いま監修の契約をしているのは数組に限っている。できるだけ応えたいという思いはあるが、「責任をもってきちんと結果を出す」には時間がかかるからだ。近年、インスタのコンサルティングをする企業も見かけるようになったが、実績もないのに高額の料金を請求する事例もあり、「注意が必要」という。