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eスポーツのプロ野球、臨場感は本物だった eBASEBALL観戦ルポ

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「SMBC e日本シリーズ」の優勝決定戦で点を取り、ガッツポーズするソフトバンクの代表選手ら=藤原伸雄撮影

■NPBとKONAMIのコラボ

福岡ソフトバンクホークスは、「日本一」まであと1勝にせまっていた。横浜DeNAベイスターズを相手に5対3のリードで迎えた八回表の攻撃、2死二塁の好機に一気に勝負に出た。

代打バレンティン。前の試合でも本塁打を放っている。

実況のアナウンサーが「ここで来ましたか。一塁が空いているんですけどね。ピッチャーはどうしますか」。解説で東京ヤクルトスワローズ元監督の真中満(50)は「次の打者に柳田がいますからね。やっぱり怖いですよね。ここは勝負に行きますよね」。コメントが終わらないうちに快音が響く。センターバックスクリーンに突き刺さる特大の2ラン本塁打。ホークスはそのまま逃げ切り、7対3で悲願の初優勝を果たした。

3月6日、東京都内のコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)本社にいた。同社と日本野球機構(NPB)が、2018年から共催するプロ野球eスポーツリーグ「eBASEBALLプロリーグ」で20年シーズンの頂点を決める「e日本シリーズ」を取材するためだ。

「eBASEBALL プロリーグ 2020シーズン SMBC e日本シリーズ」優勝決定戦でプレーする球団代表選手たち=藤原伸雄撮影

使われるのは、実際のプロ野球12球団の選手データを反映したキャラクターが登場するKONAMIの人気野球ゲーム「実況パワフルプロ野球(パワプロ)」。この日、同社内の特設会場で日本一をかけてゲーム対戦したのは、ホークスとベイスターズから4人ずつプロゲーマーとしてドラフトされた球団代表選手たちだ。

「SMBC e日本シリーズ」の優勝決定戦で点を取り、ガッツポーズするソフトバンクの代表選手=藤原伸雄撮影

2勝先取の3試合制で、1試合9イニングを3イニングごとに選手交代して戦う。コロナ禍で会場は無観客となったが、試合の様子は実況、解説をまじえて無料配信された。別室の特大画面で観戦したが、バレンティンの本塁打には思わず大きな歓声をあげ、得点圏に走者がいるときなどの緊迫したシーンではハラハラドキドキ。リアルな野球中継を見ているのと変わらない臨場感に、興奮がおさえられなかった。

優勝し、喜ぶソフトバンクの球団代表選手ら=藤原伸雄撮影

■狙いは野球の「通年化」

サッカーのクラブチームやテニスの国際大会が単発のeスポーツイベントをすることはあるが、プロスポーツの統括団体がeスポーツのプロリーグを主催するのは世界的にも珍しい。実際のプロ野球を統括するNPBがeプロリーグをKONAMIと共催することには目的がある。

プロ野球閉幕後の冬から春にかけてeプロリーグを展開し、通年にわたり野球を楽しんでもらう。ネット空間から新規ファンの掘り起こしをねらい、野球振興につなげる。NPB事業推進部主任の酒本昇尚(36)は「今後は収益化をはかれるよう、コンテンツの価値を高めていきたい」。配信視聴の有料化や放映権、グッズ販売などを通じたビジネスモデルの構築をめざす。

「SMBC e日本シリーズ」優勝決定戦でプレーする球団代表選手=藤原伸雄撮影

リアルもバーチャルも「野球は野球だ」と位置づけられるNPBの考え方は柔軟だった。セ・パ12球団にeスポーツ担当者がいることも驚きだ。球団代表選手たちには、試合出場に伴う報酬が支払われ、個人タイトル獲得などに応じた別枠の報酬もある。それだけで生活するには難しいが、「彼らはプロプレーヤーなので、プロとしてふさわしい報酬を払ってあげたい」と酒本。そのためにも、今後の収益化が大きなかぎとなる。

■観客を巻き込むビジネス

「SMBC e日本シリーズ」で使用されたゲーム機のコントローラー=藤原伸雄撮影

eプロリーグの主役は選手たちに限らない。KONAMIのプロモーション企画本部の吉岡裕美が強調する。

「eスポーツは、『選手として参加する』ほかにも、『会場で応援する』、『映像で視聴する』といった、さまざまな楽しみ方があり、新しいゲームの魅力だと考えています」。まさにゲームとeスポーツの大きな違いが、競技を視聴する観客の存在なのだという。

この違いはゲーム開発にあたる企業マインドも変えている。ゲームをする人だけを顧客としてきたこれまでとは異なり、大会の視聴や選手の応援という形で新たな顧客層が誕生した。「ゲームとの関わり方や楽しみ方が増えていますので、プレーヤーの皆様だけでなく、プレー映像を視聴するオーディエンスまでがお客様であるととらえて、商品・サービスを企画制作しています」と吉岡は説明した。

「eBASEBALL プロリーグ 2020シーズン SMBC e日本シリーズ」優勝決定戦。元プロ野球選手らが実況席に座り、白熱する試合となった=藤原伸雄撮影

1球団4人、12球団で計48人のプロプレーヤーを代表選手とするeプロリーグだが、前シーズンから各球団が維持できる選手は2人だけというルールになっている。そのため、毎年のシーズン開幕前に必ずプロテストが行われる。合格してプロ認定を受けると、その後はeドラフトで各球団が代表選手2人ずつを選び、前シーズンから維持した2人とあわせて、そのシーズンの代表選手計4人を固める。

eペナントレースでは、プロ野球同様、セ・パ両リーグでレギュラーシーズンを戦い、上位3チームによるeクライマックスシリーズでリーグ優勝、e日本シリーズで日本一を決める。まさに、もう一つのプロ野球なのだ。

点を取られ悔しがるeプロ選手ら=藤原伸雄撮影

e日本シリーズ終了後、解説をつとめた真中に話を聞くと、「パワプロを通じて解説をやらせてもらって、初めてeスポーツという世界があるのを知った」。「eBASEBALLプロリーグ応援監督」という肩書で、この取り組みを支援してきた真中だけに、戦略面をよく見ていた。「特殊能力機能があるので、そこを理解した上で打順を組んだり、選手交代をしたり、様々な知識と技術が必要になる。采配については実際のプロ野球に負けないくらい、細かく考えて選手たちはプレーしていると感じる」。

「SMBC e日本シリーズ」優勝決定戦で解説を務めた、eBASEBALLプロリーグ応援監督の真中満=藤原伸雄撮影

自宅に帰って、さっそくパワプロをプレーしてみた。打撃でボールをバットの芯にあてるのは難しいし、守備では飛球の落下位置がよく分からない。技術を磨いた一流選手の集まりだからこそ、臨場感あふれる試合ができるのだと実感した。ならば視聴に徹しよう。観戦で得られる興奮もeスポーツの大きな魅力なのだから。

「eBASEBALL プロリーグ 2020シーズン SMBC e日本シリーズ」の優勝決定戦=藤原伸雄撮影