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「私たちの生きづらさ、政治と無縁じゃない」 気づいた3人の女性、踏み出した一歩

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昨年11月、女性の政治リーダーシップを育成する「パリテ・アカデミー」の合宿がオンライン上で開かれた。パリテ・アカデミーは2018年、上智大学の三浦まり教授とお茶の水女子大学の申きよん教授が共同代表となり、ジェンダー平等な政治の実現を目指して立ち上げた。政治リーダーシップを育成するための講座やシンポジウムを開催している。

11月の合宿は3日間にわたって開かれ、20人ほどが参加。特定の地域に参加者が立候補することを想定して、候補者、キャンペーンマネージャーなど役割を決めて選挙戦略を練るグループワークもあった。最終日には、グループごとに考えた演説内容や選挙戦略を、オンライン上で講師や他の参加者を前に発表した。

「私は、あなたです」
「おかしいと思っていることは、言って良い。あなたの代わりに、私が言います」

候補者役をつとめた津曲(つ・まがり)敦子さん(28)は演説の最後、そう語りかけた。声は少し震えていた。政治とは無縁だと思っていた数年前の自分に届けたいと思って発した言葉だった。

津曲敦子さん。取材はオンラインで行った

大学卒業後、日系メーカーに部品を供給する会社に入社した。学生時代に学んだ英語力を生かし、将来は国際的なビジネスにたずさわりたいと考えていた。

配属された営業部では、30人ほどの営業職のうち女性は津曲さん一人だけ。取引先との接待を推奨され、父親ほど年の離れた取引先におしゃくする。仕事後も上司との飲み会で「勉強になります」とあいづちを打つ。「10年働いて一人前」という雰囲気が強く、目標だった海外駐在は遠く感じた。そもそも女性のロールモデルが見つからない。

必死でついていこうとしたが、言葉にできない違和感がつのっていった。苦しいのは、「自分が仕事ができないせいだ」と思い込んでいた。ある日、女性というだけで「取引先のアポが取りやすくて、良いんじゃない?」と言われたとき、思った。

「私の仕事って何なんだ?」。

募る違和感に言葉を与えてくれたのは、男女の格差を生む構造的な背景やフェミニズムの歴史が書かれた本だった。なぜ結婚したら多くの場合、女性が名字を変えるのか、なぜ女性の管理職は少ないのか、なぜ派遣社員と正社員で給与の差があるのか――。

2年前、IT企業に転職した。どうすれば社会に自分が関われるか模索するようになった。たまたま見た雑誌でパリテ・アカデミーを知り、「次のアクションにつなげたい」と参加した。

■政治に目覚める女性たち

合宿には、実際に議員をつとめる人・目指す人のほか、これまで政治への具体的な関わりがなかったという会社員や大学生の姿もあった。パリテ・アカデミーの参加者の中には性暴力やシングルマザーなど女性を取り巻く社会の課題に強く関心を持っている人も多いという。

津曲さんの冒頭の言葉は、「生きるのに必死だった」という数年前の自分に向けたものだ。5人きょうだいの末っ子。大学には奨学金を借りて進学した。家族や友人、教員にも恵まれたが、経済的な余裕はなく、アルバイトで忙しく過ごした。「かつての私こそ、政治に向き合うべきだったと思った」

周囲の同世代は、政治への関心は高くない。最近、友人たちに「私、議員になるかもしれないよ」と言うようになった。政治家が近い存在になれば、無関心が少し変わるかもしれないと思ったからだ。「百発百中で笑われます。でも、思っていることを伝えたら理解してくれる友達もいる。これからも、私にできることを探したい」。

この春からは、地元・大阪に戻って政治参加を目指しながら、医療福祉を学ぶため専門学校に通う。

■男女のキャリアパス 30代で気づいた違和感

後藤さやかさん(34)も、11月の合宿の参加者のひとり。名古屋市の自宅からではなく、ホテルを取って参加した。当時子どもが3カ月になったばかり。夫は「集中して受けられるように」と送り出してくれた。

後藤さやかさん。現在暮らしているモロッコから、オンラインで取材に応じた

新卒で総合商社に入り、2年間のロンドン駐在を経験。忙しく働き、「女性だから」という理由で理不尽な思いをすることはあまりなかった。

「彼らの前にある道と、私の前にある道は、もしかしたら違う?」

男性社員とのキャリアパスの違いを感じたのは、30代になり、マネジメントに近い仕事をするようになってからだ。

ふと社内を見渡すと、意思決定層に女性は少ないことに気づいた。同世代の女性たちは、子育てやパートナーの仕事の都合で、会社を辞めていく。

そんな身の回りの状況と、圧倒的に男性が多い政治の世界が結びつき始めた。「男性基準で物事決まっていない?」

「自分に何ができるか知りたい」と、昨夏あったパリテ・アカデミーのオンラインセミナーに初めて参加した。

印象的だったのは、女性の政治家へのSNSでのバッシングについて話す機会があったことだった。SNSでは「女性だから」という理由だけで、政治家ら目立つ立場の女性たちに容赦ない言葉が並ぶこともある。後藤さんはそれまで、そこに不安感が大きかった。

「『怖いよね』とみんなで話せたことで、『そう思っていたのは自分だけじゃなかった』と少しだけ心が軽くなった」。政治の世界でも、政党や立場を越えて女性同士のつながりはある、と教えてもらったことにも勇気づけられた。

育休中のいまは、夫の母国のモロッコで過ごしている。女性差別や貧困の課題解決を、「人権意識の向上」という側面からアプローチしたいと、ベルギーの大学のオンラインコースで国際法や人権の講義を受講し始めた。

将来のキャリアに直接つながるかは見えていない。それでも「自分の中の好奇心を認め、やってみよう」と思えたのは、パリテ・アカデミーで「自分を演出するのではなく、自分らしく生き、それを伝えることが大事だ」と教わったからだという。

■手をたずさえることが力になる

パリテ・アカデミーでは、参加者は自分が課題だと感じていることを踏まえて、政治に参加する理由を言葉にし、みんなの前で発表する。フィードバックを受けて、さらに掘り下げる。そうした取り組みを重ね、「自分が何なのか」「社会とどう関わりたいか」を見つめていく。そこで大事になるのが、ありのままを認め、励ましてくれる仲間の存在だ。

同じ境遇の女性たちで手をたずさえること。その意味を、名古屋市の会社員、梅田知奈さん(35)は、これまでも身をもって感じてきた。

梅田知奈さんにもオンラインで取材した

一級建築士として、建設会社で設計の仕事をしている。建設業界は、男性が多い。梅田さんが新入社員だったとき、技術職の女性の先輩社員が産休を取った。復帰すると、復帰前と同じ仕事をしているのにもかかわらず、待遇が下がった。

「子どもを産んだことが理由で、こんな嫌な思いをするなんて」。

その先輩社員の状況が、他人事と思えなかった。「自分にできることはないか」。一緒に声を上げ、女性社員を集めて定期的に勉強会を開いた。産休制度を含め、女性をとりまく働き方の問題をひとつひとつ学んでいった。女性社員がどんなことに困っているか、アンケートを取り、声を集めた。積み重ねた知識とデータをもとに人事部と話すと、女性社員の働きづらさの解消に取り組んでくれることになった。

「声を上げれば状況は変わる」。その出来事は、梅田さんに大きな気づきを与えた。同時に、これまで声を上げてきた先輩たちの苦労も知った。自身も出産し、子育てしながら設計の仕事を続けている。男性が多い職場でその後も課題を抱えることがあった。だが、当時出会った仲間たちが力になってくれた。

パリテ・アカデミーの選挙戦略のグループワークでは、梅田さんも候補者役をつとめた。「あなたがあなたのままで良い街にしていきます」。そのキャッチコピーは、同じチームにいた参加者が作ってくれたものだ。

台湾に生まれて日本で育ち、子どもの頃は嫌な思いをすることもあった。男性が多い建設業界で、女性の声が通りにくかった。どんな境遇でも自分らしくいられたら良いのに――。ずっと感じてきたことを、言葉にしてくれたことがうれしかったという。

意思決定の場に女性が少ないがために生まれている社会のひずみはたくさんある。梅田さんがライフワークとしている防災活動では、避難所を運営する母体となる地域のコミュニティーに女性やマイノリティーの視点が少なく、避難所内のプライバシーの確保など課題が浮き彫りになっている。

子育てをしていても、無意識の差別を感じる。女の子が乗り物のおもちゃで遊んだり、少しやんちゃしたりすると「女の子なのに」と言われるのは、なぜなのか。女の子が乗り物で遊んでも、男の子が人形で遊んでも、それはどちらでも良いはずなのに――。

性別に関係なく、みんなが同じようにチャンスを与えられる社会にするにはどうすれば良いだろうか。こうした社会の課題を解決するため、政治への関心は持ちつつ、起業にも関心を持ち始めた。

「より良い社会を自分より若い世代や子どもたちに渡せるように、自分ができることをしていきたい」