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10年たったら、ガソリン車はEVに勝てない。自動車評論家・国沢光宏の未来論

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日産自動車のEV(電気自動車)リーフでラリーに出場した自動車評論家の国沢光宏さん(左)

EVやFCVは「エコ」なだけでなく、走る喜びもある、と国沢さんは語る。普通の車は重いエンジンを車体の前方に積むが、例えばEVは重いバッテリーを中央に置くため、前後の重量配分がいい。人間も、重い荷物を手に持つより、リュックに入れて体に密着させた方が走りやすいのと同じ理屈だ。「カーブを走るスピードはエンジン車と同等以上。加速もよくて運転して楽しい」と国沢さん。

自動車評論家として30年以上活躍する国沢さんが衝撃を受けた車がある。2010年、日産自動車から発売されたEV「リーフ」だ。運転すると、パワーがあって乗り心地もいい。次の世代を引っ張るぐらいのパワーユニットになるんじゃないかと思った。「この世の中、エンジン車が電気に変わってもおかしくない。それぐらいの勢いを感じた」と言う。

97年にトヨタ自動車がHV(ハイブリッド車)のプリウスを発売したことろから、それほど環境に負荷をかけない車もできるんだと思った。ただ、リーフ発売の3年前や4年前では、また、実用性の高いEVが出てくるイメージさえなかった。それだけに、「生きている間に、こんなEVが出るとは想像していなかった」と振り返る。

国沢光宏さんは、海外のラリーにも積極的に出場している

すぐにリーフを購入し、13年からラリーに出場。15年にはトヨタのFCV「ミライ」に乗り、ドイツで開かれた世界ラリー選手権(WRC)でコースチェック役として走った。その後の全日本ラリー選手権では、トヨタの技術者がサポートしながらデータを収集。「(昨年12月発売の)新しいミライにかなり生かされていますよ。モータースポーツの厳しい環境ではトラブルがたくさん出るから、開発が進むんです」

エンジン車からの転換は、プロペラ機からジェット機、蒸気機関車から電車へのように避けられないものと考えている。「飛行機に例えると、第2次世界大戦が終わったぐらいがリーフが発売された時で、いまは朝鮮戦争ぐらいじゃないですか。プロペラ機が全盛だったけど、新しいジェット戦闘機も登場し、適材適所で活躍するぐらいですよね」

トヨタの燃料電池車「ミライ」のラリーカー=中川仁樹撮影

ジェットエンジンは急速に開発が進み、その後、空の主役となった。EVも世界のメーカーが技術開発でしのぎを削っており、「あと10年もすれば、ガソリン車はEVに勝てない」と見ている。「エンジン車が売れなくなれば、F1もラリーもEVやFCVに行くしかない。やっぱり未来を見てマシンをつくらないといけないので。HVじゃ未来にならない」

特に期待するのがFCVだ。レースでは音も魅力の一つ。EVと違い、観客が楽しめる音を出せるからだと言う。確かに国沢さんのミライはキーンという甲高い音を鳴らして疾走し、ラリー会場で注目を集めた。FCVは水素と酸素の反応により発電して走る。「空気を吸って吐いているので音が鳴り、パワーが出ると大きくなる。管楽器みたいにいろんな音を出せれば、お客さんも楽しめる」と真剣だ。パワーを上げても水しか出ない。

国沢さんが運転する燃料電池車ミライは、「キーン」という甲高い音を出して走り、ラリーファンの注目を集めた=中川仁樹撮影

しかも電気自動車は、充電設備にもよるが、80%程度を充電するにも30分程度かかるのに対し、燃料電池車なら水素の充塡は数分と、ガソリン車並みだ。

それでも、やっぱりエンジン音がないと物足りない気がしませんか? 国沢さんは言う。「そんなのは、じじいの哀愁。じじいの中にも、いろいろな種類があって、エンジン車に燃え尽きていない人は欲しがるんだろうけど、僕みたいに、新しいものを試したくなるタイプの人もいるわけじゃないですか。僕なんかは、古いのは散々、遊んだんで、もう新しい方が楽しいです」

国沢さんは様々な自動車のイベントにも登場し、ファンを楽しませてきた=2010年4月、中川仁樹撮影

さらに、今の若い人は、意外と車好きだとも感じているという。「10代や20代は新しいパワーユニットにすごい興味がある。モーターの車ばかり出てきても、ここが好き、あそこが好き、が始まるはずです」