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中村哲さんの遺志どう生かす 佐賀の中学生、アフガン人留学生らに聞く

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アフガンの干ばつ被害地図を掲げ、記者会見するペシャワール会の中村哲医師(中央)=2018年11月16日、福岡市中央区、佐々木亮撮影

「本校生徒が彼らにインタビューをすることになりました。本校・東京・埼玉・アフガニスタンをZoomでつないだリモートのかたちで行います」

昨年11月、GLOBE+編集部に早稲田佐賀中の英語教師、石井誉典さん(51)から1本のメールが届いた。

筆者は昨年5月、朝日新聞GLOBE+で「中村哲先生の思いは、私たちが受け継ぐ 日本で学んだアフガニスタン人留学生が帰国」という記事を書いた。石井さんは道徳の授業で中村さんについて取り上げ、記事を教材として使ってくれたという。その後、石井さんが国際協力機構(JICA)と連絡を取り、記事に登場したアフガニスタンに戻った元留学生と、日本で勉強を続ける2人の留学生とのオンラインインタビューが実現した。

昨年12月、オンラインでのインタビューをのぞかせてもらった。

「日本よりも高い農業技術を持った国がありますが、なぜ留学先に日本を選んだのですか?」。和田凰玉(こゆ)さん(15)は、アフガニスタンにいるグラブ・グルブディンさんにそう聞いた。グルブディンさんは昨春、東京農業大学の博士課程を終えてアフガニスタンに帰国し、中村さんが活動していた東部ジャララバードにあるナンガルハル大学で農業を教えている。

アフガニスタンとつないだオンラインインタビューで、英語で質問する和田凰玉さん=ZOOMの画面から

「私の国では、日本の技術はとても高く評価されており、いつか日本を訪れてみたいという考えがある。ただ、私たちが中村さんのプロジェクトを訪れた時、勤勉で、お互い協力し合い、尊重し合う人々を見た」。グルブディンさんはそう話した。グルブディンさんは大学で農業を勉強していた2006年、中村さんが関わっていた用水路の工事現場で中村さんと初めて出会った。その時の体験を通じて、「奨学金を得て、日本で高等教育を受けたいと思った。それが日本を選んだ唯一の理由です」と答えた。

アフガニスタン東部ジャララバードからインタビューに応じる、グラブ・グルブディンさん=ZOOMの画面から

和田さんは、中村哲さんのことは事件で知った。「一人でアフガニスタンに行って、感心した」。和田さんはインタビューの後、「外国に興味があり、いつか外国で勉強したい。日本人はまじめ、勤勉と言われているとよく聞くが、日本のすばらしさ、すごさを聞きたかった」と話した。

鹿子嶋太一さん(14)は、埼玉大学大学院の修士課程で地震工学を研究するエスマトゥラ・スルタニさんに、男女の教育格差について聞いた。「アフガニスタンでは、治安などの理由で女性が活発な役割を果たせないことを知りました。状況はどう改善できると思いますか?」

アフガニスタンとつないだオンラインインタビューで、英語で質問する鹿子嶋太一さん=ZOOMの画面から

スルタニさんによると、2001年のタリバーン政権崩壊後、教育機会は改善したものの、一部の地域では女性は男性より不利な状況にあるという。

「女性が重要な意思決定に参加したり、社会で活躍したりできる状況が少ない。唯一の理由は教育です」。スルタニさんはそう話した。「私の村では、40%の女性は学校に通っており、私の妹も数カ月前に高校を終えることができた。誇らしいことで、大学に行くように励ましている。もしみんなが教育を受けられたら、男性だけでなく女性も社会で活躍できるようになる」

鹿子嶋さんは「ニュースや新聞で見るより、リモートでも対面して話すことで、思いがより深く伝わってきた」という。

埼玉大学大学院の修士課程で地震工学を研究するエスマトゥラ・スルタニさん=ZOOMの画面から

■コロナで寮生が地元へ

いまではオンライン授業で海外ともつながるようになった生徒たちだが、昨年2月末に政府が全国一斉の休校要請を出した直後、教師たちは対応に追われた。

早稲田大学系属の同校は、中学、高校あわせて約千人の生徒がいる。その約3割は関東地方の出身者で、6割が親元を離れて寮生活をしている。北は青森、南は沖縄から生徒が集まってきているという。同校は2月末に寮生を実家に帰し、オンライン授業に切り替えた。その後3カ月ほどは遠隔授業が続き、対面の授業が再開できたのは6月だった。

遠隔授業が始まった頃は、授業の動画を録画で配信したり、質問を電話で受け付けたりするなど、手探りの対応が続いた。だが、オンライン会議システムを使ううちに、教員の石井さんは「これ便利じゃんと気づいた」という。

昨年10月、地域の人を取り上げる授業で、中村哲さんについて取り上げることにした。関連記事やテレビ番組などを教材に使ったが、どうしても限界があった。「もっと聞けるんじゃないか」「(オンラインで直接本人に)聞いちゃう?」などと生徒らと話して、アフガニスタンとつなぐオンラインインタビューをやってみることにした。

早稲田佐賀中の英語教師、石井誉典さん=ZOOMの画面から

■リアルのありがたみも

奥田愛菜さん(15)は、東京農大で勉強するアルヤン・シャフィクラさんに「わざわざ日本にまで勉強しにきて、学んだことをどう生かすのか」と聞いた。

アルヤンさんは「日本で卒業した後、母国に戻ってナンガラハル大学の教師に戻る。私が日本で学んだアイデア、知識を学生に共有したい。人々が食べるための十分な食料を得て、生きるための平和を得ることが私の希望です」と応じた。

アフガニスタンについて、奥田さんは「道路もしっかりしていないような、発展していない国」という漠然とした印象しかなかった。オンラインで話を聞いて、アフガニスタンの女性の就学率が低いことに驚いたという。「日本では女性が学校に行かないことはないが、他国ではそれが当たり前でないことを知った。女性の進出が難しい状況が、どう解決していくのか見ていきたい」と話した。

奥田さんは東京出身で、テレビの仕事に興味があるという。「将来は面白い番組の制作にかかわりたい」

コロナ前にはなかったリモート授業で、海外とつながる機会も増えた生徒たち。それでも、リアルの授業の良さもかみしめているようだ。奥田さんは「ズームでうれしい面もあったけど、友達と対面した方がいい。復習でわからないところも学校で聞ける」と話した。

当初の計画では、生徒たちは2月、フィリピンのセブ島に語学研修にいくはずだった。だが、コロナの感染拡大が続き、計画は中止に。代わりに、オンラインで海外とつなぐ他のイベントも検討している。

「コロナの影響で色々な計画が頓挫したが、唯一良かったことはリモート授業が身近になったこと。これからも様々な可能性にチャレンジしていきたい」。教員の石井さんはそう話す。それでも、「海外に行って実際に人と会って、うまくいかないことを経験することで学べる。実際は、本当の交流ができればいい」と願っている。