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米建国の父を非白人が演じる 異色ミュージカル『ハミルトン』脚本家の差別への視線

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Lin-Manuel Miranda is Alexander Hamilton and Phillipa Soo is Eliza Hamilton in HAMILTON, the filmed version of the original Broadway production.
ミュージカル「ハミルトン」で主役ハミルトンを演じるリン・マニュエル・ミランダ氏(左)。脚本や作詞作曲も手がけた=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.

――新型コロナウイルスの影響で世界が動きを止めました。この3カ月どう過ごしていましたか。

パンデミックですべてが休止したのは、初監督の映画を撮り始めて10日目のことでした。米劇作家の故ジョナサン・ラーソンのミュージカル『Tick,Tick…Boom!』を映画化しているところだったんです。最初の1カ月は、私たちの多くが思い描いていた一年の計画を忘れて、新しい現実に順応しようとしていたと思います。妻と2人の息子がいるので、遠隔授業や外出時のルールに順応したり、感染しやすい義理の両親を守ったりしていました。

そんな中で、制度的人種差別に対する抗議運動が起きました。この瞬間、みんな家で過ごしながら、このリセット期間にどんな問題を解決できるか思いを巡らせていると思います。私も同じです。新しい作品を作ろうとしてはいますが、(抗議活動にまつわる)報道が気になってしまうときもあります。

――「ハミルトン」では、「米国建国の父」である白人たちの役に、あえて白人ではない人種の俳優を起用しました。その意図を教えてください。

ミュージカルを作ろうとした当初からのアイデアでした。原作のハミルトンの伝記を読んだとき、二つのことにぴんときました。

一つは、複数いる建国の父たちの中でも、アレキサンダー・ハミルトンだけが移民の物語と呼べる背景を持っていたという事実です。ハミルトンはカリブ海の島出身で米本土で育ったわけではありません。貧困の中から、優れた知性と文才で出世しました。もう一つは、彼が貧困から抜けだす過程、英国との独立戦争に身を投じる過程、そして新政府作りを支援した過程を書き残したことです。

私から見れば、それはヒップホップ物語そのものに思えました。なぜなら、私の好きなヒップホップアーティストは、自分の生き様や苦闘を具体的に書き、同じ経験を持たない世界中の人にも共感を呼び起こすことができるからです。たとえば「ビギー」(1997年に早世した米国の伝説的ラッパー「ノトーリアス・B.I.G.」)は自らの人生を非常に具体的かつ見事に歌詞にしたので、私たちは歳月を経た今でも、彼の歌詞を互いに引き合いに出すことができます。私にしてみると、ハミルトンはビギーに結びつく存在だったのです。

だから、一番最初にハミルトンの伝記を読んだ時ですら、頭の中に描いた「建国の父」は白人ではありませんでした。どのヒップホップアーティストがハミルトンの熱量を表現できるか、どのR&Bアーティストが初代大統領ワシントンの熱量を表現できるかを考えていたのです。頭の中で『ジーザス・クライスト・スーパースター』(イエス・キリストの最後の7日間を描いたロックミュージカル)を想像し、有色人種による配役をしていました。彼らこそ、ヒップホップやR&Bを生み出した人々だからです。このアイデアは最初からずっと持ち続けていました。「建国の父」たちがみな白人の設定は、私にはまったく考えられなかったのです。

ブロードウェーミュージカル「ハミルトン」=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.

――「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命は大切だ)という運動が盛り上がる今、「ハミルトン」が世界同時配信されることは重要な意味を持つように思えます。世界中の視聴者に伝えたいメッセージはなんでしょうか。

作品自体は一つの独立したものですが、米国の起源と建国を取り上げた作品なので、唯一、本当に政治的な点があるとすれば、それは、米国という国が抱えるあらゆる問題、あらゆる矛盾、あらゆる闘争が建国時から存在していたということでしょう。

闘いは今も続いています。家族間のけんかになぞらえてみましょう。あなたが兄弟げんかをするとき、それはあなたが5歳の時、10歳の時、思春期の時にしたけんかが形を変えたものにすぎず、根本では同じなのです。「ハミルトン」でも存在感を放つ闘いが描かれます。それが閣僚同士の闘争です。(英国植民地の)州だった時、一つの国家になった時、他国の問題に巻き込まれた時、(外交政策で)孤立主義だった時というふうに。

そして、奴隷制の原罪もまた作品中に描かれます。作品の時代設定ゆえに、登場人物の誰もが奴隷制を実践したことでは「共犯」なのです。そしてその罪は、今の米国にも影響を及ぼし続けています。この作品で面白いのは、(史実では白人の)「建国の父」を黒色や褐色の肌の役者たちが演じることで、これは自分たちの国でもあるんだと私たちに教えてくれる点です。「建国の父」たちや彼らに似た容姿の人たちだけの国じゃない。私たちは皆、良きにつけあしきにつけこの国を受け継いでいます。だからこそ、私たちはこの国の未来を決める際に発言する権利があるのです。

建国当時を描いているがゆえに、米国内の議論がどう転じるかによって異なる部分が共感を呼ぶ点もまた興味深いと思います。トランプ政権時代とオバマ前政権時代とでは、「ハミルトン」は異なる受け止め方をされました。制度的人種差別や「ブラック・ライブズ・マター」運動の議論の中でも、従前とは違う風に受け止められるでしょう。自分の業績がどう後世に受け継がれるかを決められないという点はこの作品のテーマの一つです。あなたは自分のレガシーがどう定義されるか決められないし、人も作品もその運命からは逃れられません。だから、この作品が今の時代にどう共感を呼び起こすのか興味があります。

Lin-Manuel Miranda is Alexander Hamilton and Leslie Odom, Jr. is Aaron Burr in HAMILTON, the filmed version of the original Broadway production.
ミュージカル「ハミルトン」で主役ハミルトンを演じるリン・マニュエル・ミランダ氏(左)。ハミルトンの長年のライバルで決闘することになる第3代副大統領アーロン・バーは黒人俳優レスリー・オドム・ジュニア(右)が演じた=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.

――4年前、当選まもないマイク・ペンス現副大統領が「ハミルトン」を観劇にきた時、出演者が「この作品が米国の価値観を維持し、私たち全員のために働くきっかけになったと願う」と訴える手紙を舞台上から読み上げましたね。トランプ新政権下で米国の多様性が守られないのではないかという心配と不安を表明したわけですが、あれから状況は変わったでしょうか。

あの時のことで興味深いのは、大統領選のわずか10日後、まだ(トランプ)大統領も(ペンス)副大統領も就任していない段階で、私たちが権力に対して真実を述べたことです。

手紙の文言はたいして議論を呼ぶものではありませんでした。ざっくり言えば、あなたがたが恐れと分断を掲げて選挙戦を行ったので私たちは恐怖を感じている、どうか私たちを団結させて私たちみんなの代弁者になってください、という内容です。その結果、私たちは現大統領式のやり方を目の当たりにしました。起きたことをまったく違う風にとらえて、役者が自分たちに嫌がらせをしたと言いました。

私たちは嫌がらせをしたのではありません。劇場はそんなものとは無縁の安全な場所です。その後、私たちはこの大統領と事実との「軽い関係」を幾度となく目にすることになりました。

Daveed Diggs is the Marquis de Lafayette, Okieriete Onaodowan is Hercules Mulligan, Lin-Manuel Miranda is Alexander Hamilton, Leslie Odom, Jr. is Aaron Burr and Anthony Ramos is John Laurens in HAMILTON, the filmed version of the original Broadway production
ミュージカル「ハミルトン」で主役ハミルトンを演じるリン・マニュエル・ミランダ氏(中央)=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.

(「ハミルトン」の舞台が)現大統領の「脚本」の初期の挿話になったのは奇妙な気もしますが、役者の一人が手紙を読み上げてくれたことを誇りに思っています。とても立派だった。ただ言っておきたいのは、現大統領は、(自らの発言が)誰かを攻撃の標的にすると分かった上でやっています。私たちはあの後、劇場のセキュリティーを強化せざるを得ませんでした。彼のようなやり方で物事をとらえることは恐ろしいことです。本当にこわい経験でしたが、もう一度同じ状況に置かれたとしても、私たちは前言撤回せずに手紙を読み上げたでしょう。

――あなたの両親はプエルトリコ出身の移民ですね。多様性に富むニューヨークで育ったあなた自身も差別を受けた経験がありますか。

もちろんです。中南米からの移民が多く住む地域で育ちましたが、私自身にも、地元の誰しもにそれぞれに違った経験があります。2008年にブロードウェーで初演された「イン・ザ・ハイツ」が、ラティーノ(中南米系)戯曲家によるラティーノ俳優だけによる最初のミュージカルだったという事実が、すべてを物語っていると思います。私がいる「演劇業界」という世界のごく一角にすら、無意識の偏見や制度的人種差別が存在しているということなのです。

Lin-Manuel Miranda is Alexander Hamilton in HAMILTON, the filmed version of the original Broadway production.
ミュージカル「ハミルトン」で主役ハミルトンを演じるリン・マニュエル・ミランダ氏。脚本や作詞作曲も手がけた=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.

「イン・ザ・ハイツ」の制作チームに感謝していることがあります。制作の過程で、プロデューサーから何度も「作品は気に入ったが、ラティーノの移民街の話だろう。ドラッグや犯罪の要素はどこだ」と言われました。いまだに(移民系ギャング同士の抗争と悲恋を描いた1957年初演のミュージカル)「ウェストサイド物語」や否定的な固定観念をもとに判断されるのです。制作チームがそのたびに「そんな要素は必要ない」と一蹴してくれました。

「イン・ザ・ハイツ」は愛の観点から書きました。障壁を一緒に打ち砕く仲間がいてくれたことに感謝しています。もちろん、まだまだやるべきことはあるのですが。

――先日は、米国の演劇業界における人種差別に反対する公開状の賛同者に、非白人の演劇人の一人として名前を連ねましたね。新型コロナウイルス禍で演劇を取り巻く状況は困難もありますが、あなたが果たしていきたい役割は何ですか。

新型コロナウイルス禍での光明は、米国の劇場が普段通りに稼働していないことです。私が一座を率い、米国の演劇に関わっていく限り――私はそれをとても幸運なことだと思っているのですが――ハミルトンの出演者と同じくらい、観客や楽屋スタッフ、そして制作チームに多様性を持たせたいと思っています。通常公演ができない今だからこそ、この業界を作り直す時間とエネルギーがあると思います。週に8回公演を行う平時には、これほどの余裕はありません。この休止期間に、私は大きな望みを持っているし、可能性があると思います。黒色や褐色の肌を持つ俳優やスタッフが意識を向けさせてくれる(人種差別などの)問題に、「ハミルトン」一座やツアー公演の範囲ではありますが、向き合う時間が持てます。ですから変化は起こせると望みを持っています。

ミュージカル「ハミルトン」で主役ハミルトンを演じるリン・マニュエル・ミランダ氏(左)と初代大統領ジョージ・ワシントンを演じたクリストファー・ジャクソン=©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.