1. HOME
  2. LifeStyle
  3. 新型コロナウイルスの流行で露わになった「世界の人種差別」

新型コロナウイルスの流行で露わになった「世界の人種差別」

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 

コロナウイルスが世界で猛威をふるっています。中国国内の感染者数は2万4300人以上、中国以外の感染者数も300人を超え、中国では900人以上の死亡者が確認されています。コロナウイルスの流行が終わることは誰もが望むところですが、今回はこのウイルスの流行をきっかけに各国であらわになった排他主義や人種差別に目を向けてみたいと思います。

差別対象がどんどん広がる

ウイルスの発祥地として当初、武漢という特定の町の名前が出てきたときから嫌な予感はしていましたが、案の定、数日後には温泉地の箱根で「中国人お断り」と貼り紙を掲げる駄菓子店が登場したり(現在、貼り紙は外されました)、札幌市でも「中国人入店禁止」の貼り紙を掲げたラーメン店が物議を醸しました。いうまでもなくこれらの貼り紙は人種差別的であり、場合によって民法の不法行為が成立する可能性がありますし、国連の人種差別撤廃条約にも違反しています。

それにしても興味深いのは「中国国内では武漢出身者が差別され」「日本国内では中国人が差別され」「ヨーロッパではアジア人が差別されている」という点です。つまり地域によって、差別される対象の人々はどんどんひろくなっていっており、もはや合理的なウイルス対策とはいえない類の「対策」が目立ちます。例えば、イタリア・ローマにあるサンタチェチ―リア国立音楽院は「すべての東洋人へのレッスン中止」を発表し物議を醸しました。

筆者の母国のドイツでは、よく知らない人であっても、相手がクシャミをすると、“Gesundheit“(英語のBless youに該当。直訳すると「お大事に」という意味)と声をかけてコミュニケーションを図る習慣があります。ところが、コロナウイルスが登場して以来、クシャミをしても、“Gesundheit“と声をかけてもらえるのは主に白人で、東洋人がクシャミをすると、周りがスーッといなくなる様を中国系ドイツ人のジャーナリストであるMartin Ku氏がユーモアたっぷりに書いています。同氏がパンダの赤ちゃんの取材のためにベルリンの動物園に行き、動物園の職員から話を聞こうとしたところ、職員の人が後ずさりをし、明らかに遠ざかろうとしたエピソードがドイツのTagesspiegelに書かれています。彼はその後、同園の別の職員に話しかけるも、その人は返事をせず無言で立ち去ったそう。Ku氏は動物園で職員同士が「お前はやっぱりコロナが怖いのか」とからかうような口調で会話している様子も目撃しています。

このようにコロナウイルスの登場によって、ヨーロッパではアジア人への差別行為が起きていますが、前述のMartin Ku氏は記事を「中国人に見えるからといって、中国人だとは限りません。また中国人であっても、直近で中国を訪れた人ばかりではありません。尚、実際に中国を訪れた中国人であっても、全員が感染しているわけではありません。やはりコロナウイルスの対策として一番有効なのは手洗いとデリカシーです」と皮肉たっぷりに締めくくっています。

問題は「元からあった人種差別」

この流れを見ると、コロナウイルスのせいで人種差別が起きていると思ってしまいそうですが、欧州での東洋人への人種差別は元からあったものです。

コロナウイルスの流行を受けて、フランスでは地方紙の「クーリエ・ピカール」が表紙に「黄色いアラート」というタイトルをつけ、批判を浴びましたが(同誌は後に謝罪)、とっさに「黄色」という言葉が出てかつ印刷してしまうのは、元から東洋人に対する人種差別的な考えがあったと考えて良いでしょう。

そんななか、フランスでは #JeNeSuisPasUnVirus (私はウイルスではありません)というハッシュタグがSNSで多く使われるようになり、ドイツ語#IchbinkeinVirusやイタリア語#NonSonoVirusでの投稿も目立ちます。先週フランス旅行をした筆者の日本人の知人は、現地のタクシーで乗車拒否をされたそうです。日本へ帰国してから「日本で『外国人には家を貸さない』としている大家さんについて報道があっても、今まで他人事だと思っていたけれど、コロナが流行っている時期にフランスを旅行して、国や出身で差別されることがどんなに理不尽なことか身に染みて分かった」と話していたのが印象的でした。

東洋人への差別意識は欧州の社会に元からあるものでしたが、現在は「コロナウイルスという大義名分のもと」堂々と差別行為が行われているというのが現状です。ただ「大義名分」に関しては、日本においても「元から中国人を快く思っていなかったところを、コロナウイルスという大義名分ができたから堂々と中国人をお断りするようになった」という側面もあるようです

歴史に学ぶべきこと

日本政府によるチャーター便で、武漢在住の日本人が4回に分けて帰国しました。チャーター機の第4便には、日本人と共に中国人配偶者や中国籍の子供も乗っていましたが、インターネットでは「なぜ中国の人も、日本政府のチャーター機に乗せるのか」という声も多く見られます。しかし人道的観点から家族なら一緒に行動をするのは当たり前です。単なる「ネットの声」だとはいえ、国籍を理由に「家族であっても、引き離すべき」と考える人が少なからずいるということは、社会として危険な兆候ではないでしょうか。

日本では大正12年9月1日に起きた関東大震災の際「朝鮮人が井戸に毒を入れている」などと噂が飛び交い、これを真に受けた住民たちが自警団を結成し、多くの朝鮮人や中国人が殺されました。14世紀にヨーロッパでペストが流行した際にはドイツなどで「ペストが流行っているのは、ユダヤ人が井戸に毒を入れていたからだ」との噂が飛び交い、これが各地でユダヤ人のポグロム(殺戮、虐殺)へと発展しました。国と時代が全く違うのに、自然災害が起きた時や病気が流行った時に、それをマイノリティーのせいにし、「彼らが井戸に毒を入れたからだ」という展開になるのはなんとも恐ろしい偶然です。

いつの時代も、どの国でも人間の本質はあまり変わらないのかもしれません。だからこそ「博愛精神は平常時や平和な時だけ」なんていうことにならないように、非常事態の際の人間性が問われているのではないでしょうか。でも、何もそんなに難しく考えることはありません。ウイルスを憎んで、人を憎まず、ということです。