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パンダの住まいも5G対応、何のため? 中国ファーウェイが目指すもの

World Now
ファーウェイのシンポジウムで記者の質問に答える徐文偉・ファーウェイ取締役兼戦略研究所所長(中央)

成都中心部から車で約1時間。「成都ジャイアントパンダ繁育研究基地」で、ファーウェイ主催の記者見学会が開かれたのは、冒頭のフォーラムの翌日のことだ。約100ヘクタールの広大な敷地で170頭以上のパンダが飼育され、専用の病院や産室などが立ち並ぶ。この世界最大級の規模と実績を誇るパンダ繁殖の研究拠点に今、ファーウェイの技術を使った「5G対応のパンダ舎」の建設が進められているという。

中国の成都ジャイアントパンダ範育研究基地。パンダは早朝と夕方以外は寝ていることが多いため、朝早くでも多くの観光客が訪れていた

計画では、パンダ舎内の状況をリアルタイムに認識できる通信環境を備えることで、パンダの鳴き声の音声データを常時記録。そのデータを、過去のパンダの鳴き声の特徴などを大量に学習したAIが読み解いていく。施設の内部を映す360度のVR(バーチャルリアリティー)カメラも開発中で、専用の眼鏡をかけると、まるでパンダ舎の中にいるような感覚でパンダを観察できる同時中継設備も整備しているという。

記者の質問に答えるファーウェイの徐文偉取締役兼ファーウェイ戦略研究所所長(左から2人目)。後ろには、パンダをあしらった画像が映されていた

当日は「研究中の段階」として、各国の記者30人は外観すら見られなかったが、基地は9月25日、成都周辺で計3カ所、3500ヘクタールに及ぶ巨大な「パンダの惑星」計画を発表。2035年をめどにプロジェクトを加速させていく見込みだ。

黒と白の可愛らしい見た目が大人気のパンダは、中国の「国宝」だ。中国以外では、日本の10頭をはじめ17カ国で58頭(2018年現在)が飼育されているが、ほぼ全頭が繁殖研究のための「レンタル」で、子が生まれても、その所有権は中国にある。レンタル料は上野動物園の場合、オスとメスのペアで年1億円ほど。野生のパンダは生息域の減少などで、一時は1100頭ほどまで減り、絶滅危惧種に。中国は、国の威信をかけて保護活動を進めている。

タケをむしゃむしゃ食べるパンダ。パンダは食事をするとき以外はたいて寝ていることが多いという

ところが、パンダの生態は謎が多く、繁殖は至難の業。基地のガイドは「メスのパンダが受胎できる期間は1年のうち春先のほんの数日のみ」という。妊娠させるには、その数日を見極めて同じく短い発情期を迎えるオスと引き合わせるのが必須だが、パンダは「単独行動を好み、繁殖期以外にオスとメスが出会ってもけんかになり、大きなけがを負うこともある」からやっかいだ。

そんな中、繁殖のカギとしてにわかに注目されるのが「鳴き声」だ。時によって、羊のように「メエエエエエエエ」と鳴いたかと思えば、「ワンッ」と犬のようにほえるというパンダ。その鳴き声の分析で交尾の成否を予測できる、という論文が2018年に英国王立協会発行の「王立協会オープンサイエンス」誌に掲載。オスが比較的長く「メエエエエエエ」と鳴くのは繁殖に適した時期で、交尾の成功率が格段に上がるというのもわかってきた。

そこで基地は、ファーウェイの協力でパンダ舎内に5Gの環境を整え、鳴き声を常時モニタリングしてデータ化することを考えた。AIに鳴き声を分析させて、数日しかない発情期に、交尾の成功を予測したら、オスとメスをマッチングさせる。これで繁殖の成功率を上げれば、パンダの数を大きく増やすことができる、というわけだ。

パンダ舎でくつろぐ家族のパンダ

一方で、希少な動物だからこそ、繁殖予測が大きな意味を持つのも確かだ。国際自然保護連合(IUCN)は16年にパンダを絶滅危惧の中では最も危険度が低いカテゴリーに引き下げている。もし予測の成果が出て、どんどん子を産むようになったら、どうなるのか。

「パンダ外交」などの著作がある東京女子大准教授(中国近現代史)の家永真幸は「中国はこれまで希少性を利用してきたが、増えたら増えたで科学力をアピールする材料になる」とみる。

中国の「パンダ外交」に詳しい東京女子大の家永真幸准教授

「むしろ世界の人がいつまでパンダをありがたいと思い続けるかが問題です」。1930年代ごろまでは、中国の奥地を探検してパンダを狩り、標本を持ち帰るのが欧米の上流階級の「名誉」とされていた。「見た目がかわいいと愛でる価値観は、ここ80年くらいのこと。これがいつ変わるのかが、一番予測がつかないところです」