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世界報道写真展から

世界報道写真展から——/その場にいたのは偶然だった

[第2回]ブルハン・オズビリジ



その場にいたのは、ただの偶然だった。


昨年12月、トルコ・アンカラで開催中の写真展で、ロシア大使が地元の警察官の男に射殺された。ベテラン写真家のブルハン・オズビリジが会場に足を運んだのは、この写真展を見に行くという友人に会うためだった。


展示のテーマは「トルコから見たロシア」。会場に着くと、ロシア大使のスピーチが始まった。「いずれ何かの記事に使えるかも」と、壇上に近づいて大使の写真を撮っていると、いきなり銃声が響いた。


大使は床に倒れ、その横で、拳銃を握った男が左手を突き上げて叫んだ。「アラー・アクバル!(神は偉大なり)」。 無差別テロの可能性が頭をよぎった。


観衆がパニック状態で泣き叫んで逃げる声が背後から聞こえた。男の前に立っていたのは、気付けば、自分だけだった。撃たれるかもしれない。だが、これは歴史的なニュースだ。心の声が聞こえた。「恐れるな。撮り続けろ」


「シリアを忘れるな」。男は政治的な主張をまくし立てていたが、その言葉より動きに集中し、慎重にレンズを向けた。「他の場面も必要だ」と考え、会場の隅にしゃがんだ人々に目をやった。殺されるかもしれない恐怖におびえ、凍りつく人々。素早く2枚だけ撮ると、男に向き直った。「彼の動作を注視し、心を読み、私が何をすべきで、すべきでないか、判断する必要があった」


一連の写真は大賞に選ばれた。だが、母国では「政情不安を考えると展示は危険」と、写真展の開催そのものが見送られた。


シリアをめぐるロシアとトルコ 


2016年12月19日、駐トルコ・ロシア大使のアンドレイ・カルロフ氏が、現地の警察に勤務する22歳の男に射殺された。シリアでロシア軍の支援を受けたアサド政権が、反体制派の拠点だったアレッポを制圧した直後。犯行後に射殺された男は「アレッポを忘れるな」などと叫んだという。


シリアをめぐり、トルコはもともとロシアと対立関係にある一方、自国から分離独立をめざすクルド人の関係組織がシリアで勢力を拡大することを懸念し、ロシアとの関係修復も探る。出口の見えないシリア内戦の犠牲者は数十万人とされるが詳細は把握されていない。全人口の4分の1ほどにあたる500万人超が難民として国外に逃れ、うち約300万人をトルコが受け入れているという。


(GLOBE記者 浅倉拓也)

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