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拉致問題は日本の「9.11」 朝鮮半島との関係史から読み解く

米ニューヨーク大学大学教授ロバート・ボイントンさんに聞く




北朝鮮による拉致が行われた理由について、日本と朝鮮半島の関係史から読み解く著書を、2016年に初めて英語圏で出版した。核やミサイル開発をめぐってトランプ政権が北朝鮮との対決姿勢を続ける中、米国人ジャーナリストは日朝関係をどうみるか。



――拉致問題の取材を始めたきっかけは。


2002年10月、拉致被害者5人が24年ぶりに日本に帰国したとの新聞記事を読んだのが始まりでした。あまりにも信じがたい話だと驚き、興味を持ちました。前年9月11日の同時多発テロ事件で米国社会から自由が失われ、気が滅入っていたこともあって、日本社会を劇的に変えた拉致事件の取材にのめり込みました。


日本の友人から「02年に北朝鮮が拉致を認めたことで日本は、米国が『9.11』に遭ったときと同じような衝撃を受けた」と聞いたが、最初は意味がわかりませんでした。そのうち、日本人も米国人と同様、安全と思い込んでいた世界が実は冷たく敵意に満ちた危険な場所と知った、ということなのだとわかってきました。


――近著「『招待所』という名の収容所」には、帰国した拉致被害者に直接取材した貴重な証言も多く盛り込まれています。


日本語も韓国語も話せない中、我ながら無謀な取材だと思いましたが、私が米国人という部外者であるため、かえって自由に話せる人もいたようです。曽我ひとみさんの夫のジェンキンスさんは新潟県佐渡市の観光施設では人気者でしたが、英語で自由に話せる相手が近くにあまりおらず、会いに行くたび歓迎してくれました。


――米国の読者の反応は。


ある日突然、家族が姿を消すことの「喪失感」は伝わったと思いますが、なお「小説のようで信じられない。なぜ拉致するのか」といぶかる人が多い。スパイ養成のためだと説明しても、なかなか納得してもらえません。米国人のアジア・中東への関心はイラクやアフガンに集中し、北朝鮮について知る人は少ないのです。


――米国社会は拉致問題をどう見ていますか。


核やミサイルの問題とからめて議論されることはありません。ただ昨年、米国人青年が北朝鮮に拘束され、帰国後死亡した事件がありました。国連で北朝鮮の人権状況についての報告書が提出され、米国でも北朝鮮の問題が意識されつつあります。


――トランプ大統領も国連総会で拉致問題に言及し、来日して拉致被害者家族と会いましたね。


大統領が私の本を読んだとは思えない。安倍晋三首相が上手に伝えたのでしょう。拉致問題には被害者の命がかかっており、政治的な得点稼ぎに利用されてはいけない。日本の指導者の責任は重いといえます。


――拉致問題の経緯を伝えるため、近代の日本と朝鮮半島の関係の歴史から説き起こしていますね。

日本人と朝鮮人は文化的にも人類学的にも共通点が多いのに、なぜ互いに敵視しあうことがあるのかが不思議でした。「拉致は日本による植民地支配への道義的な報復だ」という見方もありますが、そこにとどまらず、さらに長期的視点で考えたいと思ったのです。


――北朝鮮が日本と国交がなく、今も戦争状態が終わっていないことが拉致の遠因との見方もあります。


日本は戦争状態になく、たまたま被害者にされた側面もあります。北朝鮮は南北統一を究極の目標に、工作員を養成して韓国に侵入させ、社会を混乱させるための手段の一つが拉致だった、ともいえそうです。

 

――平昌五輪を機に南北朝鮮が対話を再開しました。


安倍首相が「対話のための対話には意味がない」と言う一方、トランプ大統領が「話し合うのはいいことだ」と言い出す。日韓や米韓の同盟にくさびを打ち込みたいというのが北朝鮮のねらいでしょう。


(聞き手・編集委員 北野隆一)


ロバート・ボイントン Robert S.Boynton

1963年生まれ。雑誌記者を経て大学でジャーナリズムを教える。拉致問題の取材では2008年に初来日し、日韓両国で約100人に話を聞いた。妻は韓国系米国人。

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