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同性婚の合法化は基本的人権だ――市民が立ち上がり、政治を動かす

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——台湾では同性愛者への偏見はないのでしょうか。

 基本的に同性愛者にフレンドリーな社会で、ほとんどの場合、カップルが親密な様子で過ごしていても差別を受けることはないと、私は感じています。性的少数者への理解を求めるパレード「LGBTプライド」は10万人近くが参加し、異性愛者も一緒に歩きます。若い同性愛者たちの「カミングアウト」の場となっています。

——その背景には何があるのでしょう。

 

 一つは、女性運動の進展と関係があると思います。この30年間で家族法改正による男女平等や、夫婦別姓などの権利を勝ち取ってきました。女性の権利がまず認められました。2004年には性別平等教育法が成立し、教育現場での性的差別が禁止されました。台湾の国際映画祭でもLGBTを題材にした映画が多く上映され、大勢の人がこの問題に関心を持つきっかけとなりました。

——憲法解釈を担う司法院大法官会議が5月、同性婚を認めない現行の民法について、「憲法が規定する婚姻の自由や平等権に違反する」との判断を示し、2年以内の法改正などを求めました。


 昨年の蔡英文(ツァイインウェン)総統誕生の影響が大きかったと思います。彼女は総統選の最中にフェイスブックで「同性婚を支持する。全ての人は愛の前には平等であるべきだ」とビデオメッセージを流しました。ただ、大法官15人のうち蔡総統が任命したのは7人、残り8人は国民党の前総統による任命です。司法制度が行政府や立法府から独立し、判断を下してくれたと思います。

——同性婚に反対する人はいないのですか。


 世論は二分されました。主にキリスト教団体が反対したのですが、同性愛者が異性愛者と同じ権利を持つことを好ましくないと思う人がいるのも事実です。また、与党の政治家の中にも同性愛嫌悪者が多くいます。蔡総統も、当選後は沈黙を続け、具体的な行動を起こさなかったのでがっかりしました。おそらくキリスト教団体からのプレッシャーが強かったのだと思います。

 アジア的な家族観も影響していると思います。反対派は、同性婚は西側から来た価値観なので、伝統的な家族観を壊さないためにも認めるべきではないと主張しています。でも、実際は違います。台湾では1986年以降、当事者が同性婚を認めるよう政府に求めてきました。オランダが世界で初めて同性婚を認めたのは2001年。明らかに、西側から来た価値観ではありません。

——市民運動など「社会的」な活動、同性愛者の権利を守る「法的」な素地、政治家による「政治的」な動きの三つが重なり、同性婚が認められたのですね。


 あなたがマジョリティーの一員なら、民主主義の過程で多くの権利を簡単に手にすることができるでしょう。例えば異性愛者は、同性愛者が結婚できようができまいが、当然のように結婚できます。しかし同性愛者が結婚したいと思ったときには、異性愛者に了解を得なければならないなんて、おかしいと思いませんか。同性婚の可否は社会的合意ではなく、基本的人権に基づき決められるべきです。

——五輪憲章は性的指向による差別を禁止していますが、五輪を控える日本では、対策が遅れています。


 台湾では司法判断の後も、様々な問題について闘いが続いています。日本でも、もっと市民が立ち上がり、行動すべきです。それが政治家や学者、影響力のあるセレブリティーを動かします。若い世代を巻き込み、多くの戦略やビジョンを共有していくべきでしょう。

(聞き手・特別報道部 岡崎明子)

許秀雯(シーシュウェン)

台湾伴侶権益推動連盟理事長、弁護士

1972年、台湾生まれ。台北大学を卒業後、フランスで学び、2009年に台湾伴侶権益推動連盟を設立。LGBTの権利に関する問題のほか、先住民の土地の権利問題や、環境問題にも取り組む。