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加速する技術進歩、懐旧は禁物その先にあるのは悲劇の未来じゃない

シンギュラリティ大学のCEO・ロブ・ネイルさんに聞く


人の知性を凌駕する人工知能(AI)の登場や遺伝子を自在に組み替えるゲノム編集など、加速度的な技術進歩に驚かされる機会が増えている。この変化はわたしたちの社会になにをもたらすのか。米シリコンバレーを拠点にする教育・研究機関、シンギュラリティ大学のCEOに聞いた。



——ロブ・ネイル─人工知能(AI)やゲノム編集など、最近の技術進歩には目を見張ります。現状をどう見ていますか。 

私たちはいま、技術革新のうねりの中にいます。様々な技術が加速度的に進化し、暮らしや社会のあり方に、根源的な変化を起こそうとしています。こうした指数関数的な進歩は、大きな可能性を秘める一方、人々が変化の速さに追いつけず、分断や混乱も引き起こしています。 加速度的な進化は半導体から始まりました。性能(集積度)が「18カ月で2倍になる」というムーアの法則が、ほぼ半世紀続いており、これがコンピューターの性能に同様な進化をもたらすことになりました。


——18カ月で2倍とすると、3年で4倍、6年で16倍、50年では、ざっと100億倍ですね。 

重要なのは、この技術の加速がいま、人工知能、ロボット工学、ナノテクノロジー、遺伝子解析、神経科学、創薬など、様々な分野に広がってきたことです。それぞれのデータや情報をデジタル化することで、進化の恩恵を得ているわけです。こうした技術を組み合わせれば、エネルギーや水・食料など、これまで希少だったものが潤沢につかえる、豊かな時代がやってくると思います。


——いいことずくめのようですが、一方で混乱や分断が広がっているというのはなぜですか。 

問題は、現状のシステムやインフラ、そして私たち自身の考え方がまだ、技術進歩が直線的でゆるやかな変化をしていた時代のままだという点です。指数関数的な進歩は、最初こそ直線的変化よりもゆっくりですが、加速段階に入ると一気にスピードアップし、直線的な進化のイメージとの乖離がどんどん広がってしまいます。 こうした変化に直面すると、将来の姿が見通せないことに不安が高まって、過去の安定した時代に戻ろうという気持ちが強まります。トランプ米大統領の当選や英国の欧州連合(EU)からの離脱決定は、その実例でしょう。長い目でみたら良いことはないと思いつつ、昔を懐かしむシンプルな、しかし空虚な発想に陥ってしまうのです。


——どうしたらいいですか。 

加速する技術進歩を前提としたものの見方や、新しい仕組みに切り替えていくことです。そうすれば、ハリウッドのSF映画にあるような悲劇的な未来ではなく、貧困問題など地球規模の課題を解決する道筋が見えてくるはずです。シンギュラリティ大学では、企業や政府のリーダー、技術者、起業をめざす若い世代に、加速度的進歩がもつ意味と、その未来の姿を考えてもらうことを目的としています。新しい技術やシステムを生み出すために、ロボット、人工知能、ナノテク、生命工学など、広範な分野を統合した学際的な視点から様々な研修やシンポジウム、起業家支援などを行っています。


——囲碁AIの打つ手はいまや、プロ棋士にも理解できません。私たちは「シンギュラリティ」(人間の生存の形を変えるような技術的特異点)の入り口にいるのでしょうか。 

いや、まだまだです。囲碁AIの登場は、汽車が馬車に取って代わり、汽車がトラック輸送に切り替わったのと同じようなもの。人間の知性そのものを上回るには、もっと複雑なシステムが必要です。 ただ、これからも様々な場面で、機械が人間を上回るようになるでしょう。どうしたらいいか。20年前、コンピューターに敗れたチェス王者、カスパロフはその後、人とAIがタッグを組むことで、AI単体の能力を超えられることを示してみせました。進化した技術や機械を使いこなす術を身につけていけば、進歩に振り回されずにすむはずです。


(聞き手・科学医療部 田中郁也)


Rob Nail(ロブ・ネイル)

シンギュラリティ大学CEO

カリフォルニア大学デービス校を卒業後、1999年に生命工学ベンチャーのベロシティー11を共同創業し、CEOに就任。レイ・カーツワイルらが08年に創業した非営利の教育機関、シンギュラリティ大学に参画し、グローバル・ソリューション・ディレクターを経て、11年から現職。

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