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「西洋」に終わりの予感 民主主義の危機、開放・平等で防げ

ジャーナリスト・ビル・エモットさんに聞く



英国の欧州連合(EU)離脱決定、移民排斥、トランプ現象——。繁栄を謳歌(おうか)してきた民主主義国が揺れている。「西洋」は終わりを迎えるのか。そんな問いに新著で向き合った英ジャーナリストに聞いた。



——「西洋」は終わりに近づいているのですか。


人びとは、暗い時代を予感しています。第1次世界大戦が終わり、欧州の帝国が崩壊し、世界恐慌を経て戦争への道を歩んだ1920~30年代のようにです。日本なども含めた、自由と民主主義の価値観を共有する「西洋」が終わってしまう。そんな危機感が確実に生まれています。どう防ぐかを考えなければなりません。


歴史は、楽観と悲観のサイクルのなかを進んでいきます。9・11同時多発テロやアフガニスタン・イラク戦争の後、2008年の世界金融危機が起きて、時代は大きな転機を迎えました。将来への不安が高まり、開かれた自由民主主義社会への疑念が広がっています。


——暗い時代の再来を防ぐ手立てはあるのでしょうか。


外の世界へと自らを開放する姿勢を保ちつつ、人びとの平等を守ることが欠かせません。


英国のEU離脱を考えてみましょう。世界金融危機で大きな打撃を受けた英国では、財政が悪化し、福祉は削られ、貧しい人びとの怒りが募っていきました。サッチャー首相以来の自由化路線への疑念が強まり、債務危機に陥った大陸欧州に対しての幻滅も広がりました。


トランプ氏を米大統領へと押し上げたのも、不平等への怒りをくすぶらせていた白人労働者たちでした。お金が国境を越えて自由に動かせるようになり、金融規制も緩和されて利益を得た「ウォール街」が世界金融危機を引き起こした。それなのに、打撃を受けたのは貧しい人たちでした。既得権層が政治を操り、民主主義をゆがめたことへの怒りが渦巻いていたのです。


——格差は広がるばかりに見えます。


民主主義の国々は危機に直面するたび、教育をしたり、就労支援に取り組んだりして、衰えた政治体制を立て直してきました。今回も同じことをすればいいのです。社会を開放すれば、豊かになる人がいる一方で、貧しくなる人がいます。その亀裂に対して、民主主義であればこそ、不満を和らげようとする働きが生まれます。


ただ、難しいのは、世界金融危機で各国の財政が悪化したことです。民主主義が持つ、社会の不満を和らげる手段が狭まってしまいました。タックス・ヘイブン(租税回避地)に企業や富裕な個人がお金を移し、政府が税を集める力も弱まっています。


危機を乗り越えるには、強い意思を持つ政治家の決断が必要です。例えば、富裕な高齢者の年金から若い人の教育へと、限られた資源を移していく。そんな極めて難しい判断が求められます。


——日本でも平等が崩れています。


日本はバブル崩壊後、大企業がリスクを避け、守りに入るようになりました。その過程で、人手の「調整弁」として使われたのが若い世代や女性を中心とした非正規社員でした。企業による人材への投資は進まず、その結果、生産性も高まらなかったのです。


平等の実現には財政再建が必要で、経済成長が欠かせません。正社員と非正規社員の二重構造を改革する必要があります。しかし、それを目指した「アベノミクス」の「第3の矢」はうまく進まず、若い非正規社員の可処分所得は増えず、内需も伸び悩んでいます。


守りの姿勢が限界に近づき、もう選択肢がなくなっていることは、希望でもあります。労働市場は完全雇用に近づき、企業は今まで通りでは人材を集められません。この「限界」が日本の硬直した仕組みを変え、人材への投資を進め、生産性向上につながるよう願っています。


(聞き手・経済部 青山直篤)


Bill Emmott(ビル・エモット)

1956年、英国生まれ。80年に英エコノミスト誌に入り、83年に東京支局長、93年から13年間は編集長を務めた。2017年7月、新著「『西洋』の終わり―世界の繁栄を取り戻すために」(日本経済新聞出版社)を出版。

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