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若き仏大統領 試される改革の本気度

失速ならポピュリズム再台頭の懸念も     

5月のフランス大統領選を制して39歳のエマニュエル・マクロン氏が大統領に就任し、率いた新党は6月の国民議会選(総選挙)でも圧勝した。フランスで何が起きているのか。史上最年少の大統領の下でどこに向かうのか。現代史に詳しいパリ第3大学のオリビエ・コンパニョン教授に政治の現状と展望を聞いた。





――大統領選の決選投票に左右の二大政党の候補が進まない異例の展開でした。マクロン氏の勝利は何を意味しているのでしょうか。

二つの点に注目したいと思います。まず、マクロン氏が40歳に満たないほど若く、これまでの大統領と比べると政治経験が乏しい人物だったこと。もう1点は、この半世紀ほどフランス政治を引っ張ってきた二大政党と袂を分かつ形で中道の新党を立ち上げ、1年足らずで大統領の座を射止めたということです。


これらはフランスで二大政党の代表制が深刻な危機に陥っていることを示しています。2002年の大統領選の決選投票に国民戦線のジャンマリ・ルペン氏が進出したことにより、二大政党制の存在感はすでに失われていたともいえるでしょう。これからは、マクロン氏の新党を軸とした勢力、ジャンマリ氏の娘で、今回の大統領選で決選投票まで進んだマリーヌ・ルペン党首率いる右翼・国民戦線、社会党左派を取り込んだ急進左派、右派の保守勢力の四つに集約されていくと思います。


――なぜ二大政党制が見放されたのでしょうか。

危機を招いた理由は様々ですが、左派の社会党も右派の共和党も、有力な政治家の腐敗が暴露されたことに加え、右派のサルコジ政権と左派のオランド政権が進めた政策に大きな違いがなかったことが原因ではないでしょうか。自由主義的な傾向があまりに強い欧州連合(EU)の緊縮策を承認し、偏狭な移民政策を進め、高等教育や研究への投資を縮小するような政治に対し、人々は嫌気がさしたのです。


――反EUや移民排斥を掲げるマリーヌ氏を大統領選で下したマクロン氏は、政治システムを維持する「最後のカード」との見方もあります。

英国のEU離脱決定と米国でのトランプ大統領誕生が相次いだこともあり、EUの統合推進を訴えたマクロン氏の勝利に多くの国々が安堵したことは確かです。国内でも、マクロン氏の新党は6月の総選挙で単独過半数を獲得しました。


ただ、国民がマクロン氏が掲げる政治改革を全面的に後押ししているわけではありません。今秋には大統領選の際にも公約した労働市場改革をめぐり、労組などとの厳しい交渉を迫られます。国民の反対が強い年金制度改革も控えています。抗議行動が相次げば、マクロン氏と新党への支持が急速にしぼむ可能性もあります。


――改革が頓挫して、人気が失速するとどうなるのでしょうか。

個人的には、マクロン氏は社会党と伝統的な右派の双方の折り合いがつく政策を進め、15年ほど前からフランス政治が取ってきた大方針を基本的に継承するのではないかと思っています。政権には、中道政党のリーダーや社会党の大物といった古いタイプの政治家を重用しました。フランスの政治を根本的に改革する、と訴えてきたマクロン氏の言説と行動にはすでに矛盾がでています。政権内には原発問題などについても路線対立があります。他国にも影響を与えるような大胆な政治改革を断行できるとは思いませんし、フランス社会の分断を和らげることができるかどうかも疑わざるを得ません。


マクロン氏が任期5年の間に政治の刷新を国民に印象づけられない場合、ポピュリズムが再び台頭し、国民戦線のマリーヌ氏が大統領に選ばれることを危惧しています。(聞き手・国際報道部 稲田信司)





オリビエ・コンパニョン  Olivier Compagnon

パリ第3大学教授


1969年、フランス北部サンカンタン生まれ。パリ第1大学で博士号取得(現代史)。現在、パリ第3大学・ラテンアメリカ高等研究所所長を務める。フランスや南米諸国の現代史に関する著作多数。



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