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先読み世界経済

[第117回]大災害で変わる再保険市場

リスク見極める人材をもっと

長沼聡史(英ロイズ・シンジケート1880 アクティブアンダーライター)






世界各地で起きる巨大災害が、保険市場に変化をもたらしている。動きが目立つのは、保険会社のリスクを分散させる再保険の市場だ。年金基金や投資ファンドなど新しい投資家たちが再保険の「売り手」として参入し、保険が投資商品にかわりつつある。日本でも、市場の変化に合わせ、新しい人材の育成が必要だ。




私の職場があるロイズは、ロンドンの金融街シティーで保険を取引する世界最古の保険市場だ。ルーツは17世紀後半。海上保険を売る保険引受人が、貿易商と海運情報を交換していたコーヒー店から始まった。引受人は、船の事故が起きる確率を判断し、掛け金にあたる保険料を受け取るかわりに事故時に保険金を支払った。常連の引受人が市場をつくり、今まで存続している。扱う保険の種類も海上保険から広がってきた。


いま取引に参加するのは、ロイズに登録した引受人(保険の売り手)と仲介人(ブローカー)だ。ブローカーが、事故や災害のリスクを減らしたいメーカーや、再保険の引き受け手を探す各国の保険会社など、保険の買い手にかわって、引受人と交渉する。引受人は、ブローカーが持ってきた契約書に署名をすることから、「アンダーライター」とも呼ばれる。ネット時代のいまも、ロイズでは両者が顔を合わせて取引することが大原則になっている。


1906年の米サンフランシスコ大地震では、保険各社が、契約での規定を上回る規模の災害だとして支払いをちゅうちょする中、ロイズが真っ先に保険金を支払い、世界的な信用を得た。当時の支払いは、いまの価値で約1000億円に相当する。ロイズは、テロや戦争、誘拐による大きな損害も扱い、保険市場で「最後の砦(とりで)」と言われる。


それでも、福島第一原発の事故のように、被害が数兆円を大きく上回る事故は、あまりに巨額で民間の保険業界で全てを引き受けるのは難しい。


いま、ロイズで実際に保険を引き受けているのは、102の「シンジケート」と呼ばれるグループで、保険会社や資産家などが出資している。各シンジケートが引受人を抱え、最終判断を下す引受人をアクティブアンダーライターと呼ぶ。ブローカーは約200社。200以上の国・地域から保険交渉を持ち込む。2012年にロイズで扱った保険の保険料収入は255億ポンド(約4兆3000億円)に及ぶ。


東京海上日動は、そのうち四つのシンジケートを運営するキルン社を08年に900億円余りで買収。私は日本人初のアクティブアンダーライターとして、そのシンジケートのひとつを代表している。



Naganuma Satoshi

1968年生まれ。93年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。2000年米コロンビア大ロースクールで法学修士を取得。13年から現職。ロンドン在住。



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