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先読み世界経済

[第97回]日本企業、加速する海外M&A

各国の独禁規制に警戒を

ケン・シーゲル Kenneth A. Siegel







日本企業が海外企業の合併・買収(M&A)への積極姿勢を続けている。企業業績の回復を背景に、円安の逆風下でも勢いは衰えていない。ただ、中国やインドが独占禁止法を導入するなど、各地で投資に伴う手続きが複雑化している。国際法律事務所の立場から傾向を紹介したい。



モリソン・フォースターは米サンフランシスコ発祥の法律事務所で、米国を中心に世界16拠点で1000人以上の弁護士を擁する。東京では提携する日本の法律事務所に所属する弁護士約50人を含め130人の弁護士を抱え、国際的M&Aへの助言、特許侵害訴訟や国際的な価格カルテル事件への対応など幅広い業務で企業を支援している。


米英の法律事務所では2008年のリーマンショックと11年の東日本大震災で大幅に業容を縮小したところもある。我々は富士通、東芝、ソフトバンクといった大手日本企業を含め幅広い顧客層に支えられ、堅調に事業を続けてきた。


私が来日した1980年代は、日本企業が絡むM&Aといえば、10億〜20億円規模の戦略的提携に関連するものが一般的だった。それがここ最近は1年以上、毎月のように1000億円規模の案件を扱っている。最近ではソフトバンクによる米通信大手スプリント・ネクステルの買収提案(約200億ドル)などにかかわってきた。


助言会社レコフが集計している日本企業による海外企業の買収・出資件数は昨年、22年ぶりに過去最高だった。 しかも、日本企業はM&A市場で売り手企業から好評だ。長期的な戦略投資を狙って比較的高値を許容し、公表後に方針を撤回したり、買収先の経営陣をすげ替えたりする例が少ないからだ。


中国の規制が統合の壁に

しかし、国際的な取引をめぐる法的な手続きが複雑化、高コスト化している点に日本企業は注意する必要がある。 この数年、中国とインドが相次いで独占禁止法を制定した。たとえば昨年、日立製作所がハードディスクドライブ(HDD)事業の子会社を、米HDD大手ウェスタン・デジタル(WD)に売却し、株式を使った取引に伴って日立がWDの筆頭株主となった。その際、我々は日立に助言をする立場だったのだが、中国は独占禁止を理由に、1年たってもWDと日立子会社の中国での事業を統合させてくれない。


中国はこの独禁規制に続き、国家安全保障の観点からの審査も随時導入する計画だ。これは、米国で、中国資本が米軍基地近くの風力発電会社を買収しようとして米政府が待ったをかけた案件を含む一連の政治的な動きへの対抗措置のようだ。国境を越えた取引には、政治的な介入のリスクもついてくる。


法的手続きの関連コストもばかにならない。たとえば、1兆円規模の大手メーカー同士の統合だと、独禁規制審査に関連する費用だけで両者で100億円規模になったと思われる。特に、その業界でごく少数の企業が市場を支配しているような場合に、費用が高くなる。


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