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先読み世界経済

[第80回]エネルギー確保、技術革新で/資源偏在でも知恵は世界中に

ダニエル・ヤーギン Daniel Yergin 経済評論家・『探究―エネルギーの世紀』著者


中国やインドの経済成長で世界のエネルギー需要が急増している。この需要をまかなうエネルギー源は何か。日本の原発事故で、原子力をめぐる各国の足並みは乱れた。再生可能エネルギーの普及もまだ時間がかかる。過去の危機と同様、カギは技術革新だろう。先進国も新興国も一緒になって知恵を絞るときだ。



2004年ごろから、エネルギー需要のグローバル化とでも呼ぶべき国際環境の変化が起きている。エネルギー需要の担い手が米国や西欧、日本から新興国へと広がり、中国やインドがエネルギー市場や世界経済の動向に決定的な影響を及ぼすようになった。中国首相の温家宝が、ホルムズ海峡の封鎖をほのめかしたイランに対して「極端な行為」を慎むよう警告したのは象徴的だった。需要のグローバル化に伴い、エネルギー安全保障が先進国だけでなく、新興国にとっても重要な課題になったのだ。


第1次世界大戦の直前、のちに英首相になるチャーチルは、英海軍の燃料を石炭から石油に変える決断をした際、「石油の万全な確保のカギは、一に多様性、二に多様性だ」と述べた。チャーチルの言葉は、ほぼ1世紀がたったいまも輝きを失っていない。チャーチルが言ったように、石油の供給元の多様化はもちろんだが、さらに、多様な種類のエネルギー源を確保できるようにしておくことが、エネルギー安全保障のカギなのだ。


いま直面しているのは、世界がかつてないほど電気に依存している、という事実だ。インターネットやiPhone、パソコンも電気なしには動かない。少なくとも今後20年間、電気を生み出すエネルギー源を世界規模でみれば、石炭、原子力、天然ガスの三つが柱であり続ける。


電気をつくる手段として、最も重要度を増すのは天然ガスだ。米国で技術革新の結果、従来のガス田ではない地下の岩盤に含まれる天然ガス「シェールガス」が大量に取り出せるようになった。エネルギーの世界の革命といっていい。この数年で米国の発電に占める石炭の割合は55%から37%に減り、天然ガスに置き換わっている。近いうちに、米国かカナダ西部が、日本への天然ガス輸出で存在感が出てくるだろう。


原発比率、元に戻らぬ


福島第一原発の事故後の日本にとって、中心的な課題が原子力であることは明らかだ。日本の発電電力量に占める原子力の割合は、従来の目標としていた50%を目指すようなことはまずあり得ない。事故前の30%という水準も難しいだろう。ではどうするのか。簡単に答えは出ないが、常に、日本の経済競争力を保ち続けるための選択肢を考える必要がある。世界経済の一員である以上、日本が競争力を保つことは極めて大事だ。


2011年3月10日の時点では、世界の人びとは、原子力の価値を見直す「原子力ルネサンス」の夢を語っていた。3月11日を境に、世界は「原子力パッチワーク」の時代を迎えている。ドイツは原子力政策を直ちに大きく転換した。しかし、中国は中央政府主導で原発を推し進め、英国も推進の方針だ。米国も新設を進めている。まるでパッチワークのように、世界各国の原発をめぐる方針がちぐはぐになっているのだ。


近年、風力発電の規模が拡大し、太陽光発電のコストも下がっていることは注目に値する。こうした再生可能エネルギーも成長し続けるだろう。しかし、必要なエネルギーのなかで、どれほどの比重を占められるのかということは、現実的に考える必要がある。世界的な緊縮財政の波で、再生可能エネルギーを育てる予算も多くの国で減らされそうだ。


新興国の人材生かせ


世界の経済規模は2030~35年にはいまの倍になり、エネルギー消費は約35%増えるだろう。だがそのころでも、エネルギー源の選択肢は驚くほどには変わっていないだろう。新しい技術開発には長い時間がかかるからだ。


それでも、技術革新が止まると考える必要はない。「石油は人の頭脳の中にある」という有名な言葉がある。地中から掘り出される石油は、高度の科学技術と、絶えざる技術革新の結晶であり、つまるところ人間の想像力のたまものだ。石油に限らず、創意工夫の精神が、この250年以上、エネルギーの選択肢を示し続けてくれた。


シェールガスの開発により、米国で産出する天然ガスの40%近くがいまやシェールガスだ。多くの新規雇用も生んだ。今後は米国以外でも開発が進み、安価な天然ガスが手に入るようになるだろう。この技術を応用して採掘した軽質原油「タイトオイル」により、米国の原油産出量は08年より25%も増えた。


省エネ製品などエネルギー効率を上げる技術の分野では日本も世界をリードしている。


グローバル化がもたらす課題を解決するカギは、グローバル化の中にこそある。これまでエネルギーの研究開発を引っ張ってきたのは、米国や日本のようなわずかな国々だった。いまは違う。ほかの国々の優れた人材を巻き込んで技術革新に取り組むことができる。「技術革新のグローバル化」とでもいうべき時代に生きているのだ。


(構成 GLOBE記者 青山直篤)


ダニエル・ヤーギン

1947年生まれ。IHSケンブリッジ・エナジー・リサーチ・アソシエーツ会長。専門はエネルギー問題。92年、著書「石油の世紀」でピュリツァー賞を受けた。近著に『探究―エネルギーの世紀』(日本経済新聞出版)がある。

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