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ハイチの地震による大惨事で、あらためて浮かび上がったのは、気候変動も含めた自然災害で最も大きな打撃を受けるのは貧困層ということだ。日本も、英国もハイチに緊急援助を進めているが、災害対策から長期的な開発援助にいたるまで途上国をめぐる国際協力の重要性は増すばかりだ。

日本の新政権は、グローバルな開発問題にどのような対応を考えているのか――。昨年10月、東京を訪問し、日本の開発援助(ODA)関係者と意見交換した。日本のODA予算が圧縮される中、開発の重点について意見を聞くとともに、英国の考えを伝えた。
今、世界各国が経済と金融情勢の悪化に直面しているが、途上国の最貧困層に背を向けるべきでない。英国はそう強く信じ、開発援助を拡大する公約を堅持している。ODA予算は今年度(2009年4月から10年3月末まで)の70億ポンド(約1兆360億円)から、来年度90億ポンド(約1兆3320億円)近くに増やす予定だ。先進各国がODA予算を自国の国民所得の0.7%(英国は08年で0.43%、日本は0.19%)に引き上げるのは共通の目標だが、英国は13年までにこれを達成するつもりだ。恒久的な措置にするため、法案作りを進めている。
英国では今年、総選挙が予定されるが、こうしたODA予算の拡大は与野党の合意事項だ。英国民に開発援助の意見を聞いても、「貧しい国を助けるのは当然だ」と答える。だが、同時に「援助がどれくらい効果的なのか」という質問が返ってくる。
これに答えるためにも、英政府で開発援助を担当する国際開発省(DFID)は昨年、「世界の貧困撲滅:共通する未来の建設」と題した白書を作った。開発の最前線を国民に知らせるためだ。援助は道徳的に正しいだけでなく、援助国と被援助国がともに繁栄し、治安と安寧を享受することにつながる。英国民は、日本国民と同様に景気後退に直面し、失業は増し、社会保障コストはかさんでいる。だからこそ、援助に取り組む意味を白書で丁寧に示すことが必要だった。
DFIDは約2500人の職員を抱え、国連の「ミレニアム開発目標(MDGs)」達成を通して世界の貧困を減らそうとしている。
MDGsは2000年に国連ミレニアム・サミットで採択された。15年までに貧困人口や飢餓人口を半減させ、すべての子供を小学校に入れ、妊産婦や乳幼児の死亡率を大幅に減らすなど8項目の目標を掲げる。
過去10年間、少なからぬ成果があった。貧困率は世界人口の3分の1から4分の1に減った。援助拡大や途上国の債務帳消しもあり、学校に通える子供は世界で1400万人増え、エイズ治療が受けられる患者は世界で10万人だったのが300万人以上に増えた。援助が多くの命を救ったことは疑いない。
しかし、その一方で毎年900万人の子供が死んでいく。7000万人が学校に行く機会も断たれたままだ。世界の10億人が十分な食べ物もない。世界の指導者が宣言した目標の達成には、ほど遠い状態にある。
しかも、これまでの成果は、三つの脅威にさらされている。一つ目は世界的な景気後退だ。世界の貧困層が9000万人も増加する可能性がある。
(次ページへ続く)
1950年生まれ。74年に英国の国家公務員になり、国際開発省(DFID)とその前身の政府組織でアフリカ、アジア太平洋、中央アジア、中東、東欧、中南米の地域担当を歴任。世界銀行への出向などを経て、2008年から現職。92~97年は香港総督府に勤務し、中国返還までの間、当時のクリス・パッテン総督の顧問を務めた。