TOPへ
RSS

先読み日本経済

[第25回]

2010年が最後のチャンスだ
「国鉄」の轍を踏まないために

細谷英二 Eiji Hosoya りそなホールディングス会長

国鉄は、今後の日本の経済成長や財政の行く末を占う先行事例ではないか。私が1960年代から勤めた国鉄(旧・日本国有鉄道)は「ミニ国家」だった。その運営が、ずるずると危機に陥っていく感覚を、私は肌で知っている。

細谷英二氏

国鉄と日本の共通項は何だろうか。
まず、慢性的な赤字体質だ。自動車や航空機との競合などを背景に、国鉄は64年に赤字に転落。71年には減価償却費を除いたベースでも赤字に。運転資金さえ、運賃収入で賄えない状態で、運行するほど赤字が膨らむ。財政投融資資金に加えて、債券発行や金融機関からの借り入れにより、つじつまを合わせ続けた。
国の財政も、75年度に初めて赤字国債を発行している。「運転資金」が税収だけでは賄えない時代に入っていた。

もう一つは、甘い将来見通しである。70年代前半までのような高度成長が続けば、80年代半ばにはトラックの運転手も足りなくなり、鉄道貨物は復権する。新幹線も伸びるし、旅客は減らない。運賃の値上げも続けられる――。国鉄では、こんな右肩上がりの収益計画を立て、政府に提出していた。いくらカネを借りても、将来の増収で返せるというわけだ。

現実的なシミュレーションをすれば、借金残高が増え続け、いずれ限界がくる。21世紀に健全な鉄道を残すためには、一刻も早く手を打つ必要があると若手の改革派は訴えた。
だが、経営陣はとにかく今の国鉄を守り、特殊会社の地位を維持しようとした。労働組合は、雇用が保障される国有維持が最優先だった。
そこに、もう一つの限界が重なった。国鉄最後の10年間、8回の運賃値上げを繰り返し、利用者にこれ以上の負担をお願いすることができなくなったのだ。「重税国家」の末路を想起させる。

衰退途上国にならぬために

日本は「予防的再建」が非常に不得手である。予見できる将来に向けて、前倒しで改革をし、次世代にツケを残さないように行動するのが苦手なのだ。
これまで政府は、日本経済全体の貯蓄超過をよいことに、放漫な財政運営を続けてきた。ところが、まもなく国と地方の借金が国内総生産(GDP)の2倍の1000兆円規模になろうとしている。それだけの借金返済を賄う税収を確保するシミュレーションはあるのだろうか。

収入と支出のバランス回復しか処方箋はない。経済成長による税収増と歳出の抜本的見直しがなければ、医療を含むサービスの大幅低下、年金給付の削減、さらには大増税は不可避だ。ハイパーインフレによる事実上の債務の帳消しという「悪魔の選択」も現実味を帯びる。

ところが、民主党政権は、財政支出の恩典を被る「受益者」との対話には熱心だが、経済成長の担い手である企業の声には必ずしも十分に耳を傾けていない。

先月、東京や香港、シンガポールで、りそなの投資家説明会(IR)をした。年4、5回、海外投資家と意見交換をしているが、ここ2、3年、日本に対する関心の低下を肌で感じる。
日本株や日本の金融セクターを専門に見る担当者が年々減り、「ついで」に日本をみている担当者が増えてきた。

最近、欧米では「NDC」(Newly Declining Country=新しい衰退途上国)と、日本を揶揄する声すら聞こえる。
アジアの発展途上国のような急成長を日本に求めてはいない。しかし、その成長を取り込む形で、日本が安定的な成長を遂げられるのか。そこに多くの投資家が疑念を持っている。

(次ページへ続く)

 

細谷英二

1945年生まれ。68年、東京大学法学部を卒業し、旧日本国有鉄道に入社。
経営計画室計画主幹などを務める。
87年の国鉄の分割・民営化にも尽力した。JR東日本では投資計画部長や経営管理部長などを歴任した後、2000年から副社長兼事業創造本部長に。
02年から経済同友会副代表幹事も務めた(現在は幹事)。
03年6月、りそな銀行への公的資金注入を機に、りそなホールディングスとりそな銀行の会長を務める。

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ