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先読み日本経済

[第22回]

ダボス会議は「見に行く」ところではない 

石倉洋子 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授

 

住み慣れた場所を離れよう

最近、学生や若い世代が海外に行きたがらない。すぐ日本に帰りたがる。海外にいても心は日本に向かっていて気もそぞろ。そんな話を聞くことが多い。実際日本から外に出る留学生や研究者の数はしだいに減る傾向にある。
経営者クラスも心配だ。あるビジネスパーソンが、自社のトップにダボス会議への出席を提案したら「あそこは、組織じゃなくて、個人の力が見える場だ。自信がない」といわれたという。

いま、世界級の人材に求められている能力とは何か。特定の分野について最新の情報を集めることは、グーグルなど検索エンジンを使えば、高校生でもできる。必要なのは、いくつもの分野を横断的に俯瞰して判断すること、細部にとらわれず広い視点から考えること、断片的な情報から大きな構想をまとめること、全く別の分野からアナロジー(似た事例)を探して新しい解決案づくりのきっかけにすることである。

こうした能力を磨くためには、日本という故郷、住み慣れた場所を離れ、新しい場に行き、見知らぬ多くの人と直接意見を交わし、よりよい判断を求めて議論することが不可欠である。すると、今まで当たり前、常識と思っていたやり方や考え方が唯一のものではないこと、いろいろな見方、考え方をする人がいることが体感できる。情報技術がいくら進んでも、原体験を通してしか蓄積されない暗黙知の重要性は増すばかりだ。

ダボス会議は、世の中に世界の課題を指し示す役割は果たす。だが、一つの解決策で意見がまとまることはほとんどない。
課題に対しては、色々な考え方や解決方法がある。それを試行錯誤しながら実践している人や組織が会議に参加している。「見に行く」所ではなく、参加・発言する場である。正しい答えを探しに行く所ではなく、見方や考え方の広がり、視点の違いによる意見の違いを体感する所である。

日本国内だけで格差社会を論じるのではなく、環境技術、高齢化への対応など日本の強みが格差や貧困の解決にどう貢献できるかを、世界という広い場で考える。世界における日本社会・経済のパイを広げる必要性と可能性を実感する場である。

「世界級の実現力」を身につけよ

21世紀を形作っていく若い世代にダボス会議のような場を体験してもらい、自ら考え、発信する重要性に気づくチャンスを提供したい。そのひとつの試みが、2010年1月からアカデミーヒルズ(東京・六本木)で開かれるグローバル・アジェンダ・ゼミナール(GAS)で、私がメーンコーディネーターを務める。

GASでは、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが持つリポートや会議の記録など、豊富な経験や素材を活用し、貧困、人権、環境などの分野で世界を舞台に活動する若いリーダーから実態を聞く。ボードに意見やアイデアを書き込んでいって議論の流れを可視化する「ワークスペース」といった新しいディスカッション手法を用いて、参加者が自ら問題を定義し、課題を解決する方法を考え、それを発表する。

いま日本で必要とされている「世界級の実現力」を身につける「場」づくりへ一歩を踏み出すのがGASである。
こうした試みが日本全国に広がることで、世界に目を向け、アピールする若い力を伸ばし、世界における日本の存在感が高まることを期待している。

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