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先読み日本経済

[第21回]
危機後の「新世界」に生きる
アジアがなすべきこと

アヌープ・シン Anoop Singh 国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域局長

 

昨年来の深刻な世界金融危機から、アジアは急速に回復している。危機の当初は大半の国で、震源地である米国などよりも生産が落ち込んだが、いまや不況からの脱出で世界をリードしている。その理由は、どのように説明できるのだろうか。

また、アジアの政府にどんな課題が待ち受けているのだろうか。
アジア以外では生産が低迷しているため、エコノミストの中には「アジアは他の地域と切り離されて成長する」という「デカップリング」論を再提起している人もいる。最近公表した国際通貨基金(IMF)の「アジア太平洋地域経済見通し」は、この仮説を検証したが、現実は全くその逆であった。

 

実際、アジアの景気が回復してきたのは崩壊した世界の貿易と金融が、正常な状態へ戻ってきつつあるからである。輸出頼みだったアジア経済は打撃が大きかった分、回復が最も早かったのだ。(グラフ参照)
各国政府が、強力で包括的な危機対応策を迅速に実行したことも、アジアでの景気回復を後押しした。多くの国において、財政の健全性、金融政策の信頼性、企業と銀行の財務の健全性が保たれていたことが、大幅な金利引き下げや大規模な財政刺激策を採る余地を生んだ。結果的に、民間需要は弱いにもかかわらず、国内需要は驚くべき回復を見せた。

日本の景気も最悪の時期は脱し、輸出に牽引されて回復してきた。政策対応も下支えしている。これまで公表された財政刺激策の規模は、今年、来年とも国内総生産
(GDP)の2%近くに達するとみられ、G20諸国の平均を大きく上回る。日銀の各種対策も銀行システムの安定と信用仲介の維持に役立っている。

待ち受ける二つの課題

ただ、「地域経済見通し」で詳細を記したように、2010年は景気回復が続くと見込まれるが、勢いには欠ける。

アヌープ・シン

アジアの来年のGDP成長率は5.8%と、過去10年の平均の6.7%を大きく下回るだろう。G7各国の消費がしばらく弱含んだままで、アジアの輸出品への需要が伸び悩むからだ。
来年のG7各国の生産は対前年比1.25%ほど伸びるが、09年に減少した分(同3.5%)の半分も埋められない。要するに、民間需要が危機の後遺症で伸び悩んでいるのだ。
景気後退時の資産価格の暴落で莫大な富が失われた結果、まずはバランスシートの回復を優先するため、家計は消費を増やせず、銀行も融資を拡大できない。米国ではGDPに匹敵する14兆ドルの個人資産の目減りが起こり、この傾向が著しい。
日本は財政出動と在庫調整に支えられ緩やかな回復が予想される。しかし国内民需、特に設備投資は弱いままで、失業率は高止まりするなど、景気回復は緒についたばかりである。
アジア全体でみると、各国政府はこの先、二つの大きな課題に直面する。短期的には、十分に景気が回復するまで刺激策を続けると同時に、インフレと財政破綻の懸念を生じさせない必要がある。この二つをバランスさせるのは難しい。
ただ、やるべきことは明らかだ。政府は、公共部門の需要を減らした場合、民間需要がそれを埋め合わせられるか、よく見極める必要がある。これまでのところ、アジアでも他の地域でも、民間需要は弱いままで、見通しは全く楽観できない。しばらくの間、政府による支援を維持する必要があるだろう。

(次頁へ続く)

アヌープ・シン氏の略歴

1950年生まれ。
インド・ボンベイ大を卒業後、英ケンブリッジ大、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の大学院を経て、IMFに入る。
南・東南アジア、東欧、南米などの地域についてマクロ経済分析や政策監視を担当。
90年代のアジア通貨危機では、タイやインドネシア、マレーシアで対応にあたった。インド中央銀行総裁や世界銀行アジア地域副総裁のアドバイザーを務めた経験もある。2008年11月から現職。
11月2日に東京で開かれる「地域経済見通し」の関連シンポジウムのため来日。

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