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日本は、まるで「優雅な衰退」を試みているようだ。人口減少と高齢化に伴う経済の縮小、つまり「衰退」は避けられないが、所得再分配により格差解消を図る「高福祉高負担」型の社会。その中で1人当たり国内総生産(GDP)を維持して「優雅さ」は失わないシナリオだ。

具体的にはこんなイメージだろうか。
大枠では資本主義、自由貿易路線を維持しつつ、中国を始め、アジア諸国との経済的な連携をさらに強化。自動車・電機などの輸出型製造業は、エコカー、太陽電池・蓄電池など「環境対応型製造業」として復活させる。
内需型産業では、医療、介護、育児、教育などのサービス業を効率化・高度化する。大規模法人化や農商連携で農業の再生を進め、食糧自給率の向上と地方経済の下支えに貢献する。
少子化対策で、人口減少には一定の歯止めをかける。育児・介護サービスや社会人教育の充実により、女性とシニアの就業率向上を通じて労働力減少を補う。
国民の多くが心地よく感じる「優雅な衰退」シナリオだが、実現は容易ではない。四つのハードルがある。
第一に、製造業が世界で稼ぐ力を取り戻せるのか。国内の低炭素化を急ピッチで進めれば、鉄鋼・化学などエネルギー多消費型の素材産業で海外移転が加速する。「環境対応型製造業」に大きな期待がかかるが、世界的な環境ブームで国際競争が激化する中で予断を許さない。
例えば、技術的には世界の先端を走ってきた太陽電池産業だが、2006年まで世界1位だったシャープの生産量は2008年に4位に転落。電気自動車も、内燃機関がモーターと蓄電池に置き換わる大変化の中、日本の自動車産業がリードを保てる保証はない。
第二に、内需型サービス産業の成長を実現できるのか。サービス業の実質労働生産性は、1991~2007年でわずか年率0.3%の改善に過ぎない。生産性向上には規制緩和が必須だが、市場原理に世論の逆風が吹く中で、新政権がどこまで腹をくくれるか。
第三に、子ども手当や高等教育無償化だけで、急激な少子化を止められるのか。少子化には、雇用の不安定化、晩婚化・未婚化、育児サービスの未整備、婚外子に対する社会的差別など、根深い問題が絡み合う。
仮に少子化対策や女性・シニアの労働力率向上に失敗すると、労働力人口は2017年に440万人、2030年には1070万人も減少、経済の大きな制約要因となる(07年、厚生労働省研究会報告)。
最後に、財政問題が重くのしかかる。GDPの2倍以上という公的債務を抱え、経済成長による税収の自然増が期待できない中で福祉を拡充するには、税や社会保険料の引き上げが不可欠。これが、経済の活力を奪う懸念は大きい。
(次頁へ続く)
1962年生まれ。86年、東京大学法学部を卒業後、日産自動車に入社。
マサチューセッツ工科大学(MIT)で経営学修士を取得後、経営コンサルティング会社、A.T. カーニーのニューヨーク事務所に入る。99年から東京に移り、07年1月から現職。
訳書に『ストレッチ・カンパニー』(東洋経済新報社)など。