
![]()
![]()
民間主体の医療保障は、意図した結果ではない。「偶然の産物」によって強大な既得権益が形成され、改革を阻む要因になっていることを、まず理解する必要がある。

第2次世界大戦の終盤、米政府はインフレを抑え込むため厳しい賃金統制を企業に求めた。代わりに、従業員が民間保険に加入する際の保険料を雇用主が負担しても、賃上げとは見なさないことにした。このため、職場を通じて民間医療保険に加入する労働者が一気に増加した。
だが、職場単位の保険に加入できない人たちが個人で民間保険に加入しようとすると、保険料が高すぎたり、既往症を理由に加入を拒否されたりした。大量の無保険者が生まれたゆえんだ。
「無保険者」の問題を何とかしたいと考える米国人は多い。だが、そのための医療改革には年間1000億ドル(約9兆1000億円)規模という巨額の財源が必要と推計されている。
安定した職場で医療保険の恩恵をすでに受けている中産階級以上の人々にとって、しょせん他人である無保険者のために、自分たちには何ら恩恵をもたらさない負担増を受け入れさせるのは難しい。経済危機による景気低迷の中ではなおさらだ。
では、医者や病院への支払いを減らせるかというと、これも難しい。 診療報酬や薬の代金は、日本などの国では公定価格だが、米国では民間保険会社が支払う場合、それぞれ病院と交渉して決めている。しかも、企業秘密として開示されない。
これを政府が統制しようとすれば、今度は医師会や病院、製薬会社、保険会社が猛烈な反対運動を始めるだろう。
私が考える唯一の道は、とにかく、なるべく多くの人を保険に加入させる仕組みをつくってしまうことだ。オバマ大統領は9日、議会への演説で「改革しても、財政赤字は増やさない」としたが、いずれ借金頼みになるとしても断行するしかない。
制度を導入して4~5年もたてば、財源不足は限界に達するだろう。だが、いったん保険に加入した人たちを「財源不足だから」と再び無保険に追いやることはもはやできまい。その時初めて、国民の支持を背景に医療費を抑制するという真に困難な改革に着手する機が熟する。
夏の休会が明けて、議会では関連委員会それぞれが作成した法案のすり合わせが始まる。
建国の理念を背景に、米国では政府が民間の自由な活動に介入する法案をつくることには厳しい制約が課されている。国民の負担と給付に直結する医療保険改革は、まさにその対象だ。大統領は外交政策について大きな裁量権があるため外国の人は誤解しやすいのだが、こと内政に関してはクリアすべき連邦議会のハードルは高い。
だが、民主党は11月までには、統一した法案を出せるだろうと見ている。そうなれば、年内に議会を通過し、オバマ大統領が署名する見通しもつく。
妥協を重ねた結果、改革は「無保険者の問題を解決した」というほどに抜本的なものにはならないかもしれない。
しかし、94年、クリントン政権と民主党は、改革への期待をさんざんあおった末に何も生み出せなかった。今回、同じ轍を踏めば、来年11月に予定されている中間選挙で深刻なダメージを受けることになるだろう。
(訳・構成 GLOBE副編集長 浜田陽太郎)