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先読み日本経済

[第2回]未曽有の経済危機 最大の障害は政治の貧困
野口悠紀雄 Yukio Noguchi 早稲田大学大学院教授

日本の輸出減少の基本的な原因はアメリカの経常赤字の縮小だが、これが簡単には終了しないことを考えれば、短期間で収束するとは思えない。今後数年間は、需要収縮が続く可能性がある。

「今回の経済危機はアメリカ発金融危機のとばっちりだ」という理解が多い。確かに、落ち込みの発端は、アメリカの消費支出の減少だ。これは、住宅価格バブルで膨張した消費者金融が引き締められて起きたことなので、金融危機の結果と言える。それがアメリカの輸入を減少させ、日本などの輸出国に影響するのである。
ただし、バブル膨張の過程に、輸出国も深くかかわっていたことに注意が必要だ。日本も、超低金利と円安によって輸出を増加させ、それによって生じた貿易黒字を対米投資でアメリカに還流させた。それがアメリカの住宅価格バブルを増幅させ、自動車などの耐久消費財の需要をさらに増やした。

だから、現在起きている需要急減は、バブル崩壊によるものである。バブルで支えられた輸出依存の景気回復が破綻(は・たん)したのだ。つまり、これは正常化に向かう過程である。日本は、アメリカのあおりを受けているのではなく、経済に内在する根本問題に直面しているのである。

産業構造転換が必要

日本経済の基本的課題は、円安に依存しない産業構造への転換だ。具体的には、輸出依存の大量生産型製造業からの脱却である。「アメリカ型金融資本主義が破綻した」と言われる。そのとおりだが、だからといって、日本の輸出立国モデルが生き延びられるわけではない。高度成長期から連綿と続いてきた「モノ作り経済」が、ついに機能しなくなったことをはっきり認識すべきだ。

転換は、1990年代から必要だったことだ。中国が工業化し、安価な工業製品を大量に生産することが可能になったため、日本が製造業中心の産業構造を維持できなくなったからである。日本が過去10年、20年の間に行うべき経済政策の本当の方向はここにあった。それにもかかわらず、現実には、金融緩和、円安政策によって従来の構造が温存されてしまった。本来必要な「構造改革」とは産業構造の改革であったにもかかわらず、それが閑却され、従来の構造のままで輸出に依存する景気回復がなされたのである。

現在の経済危機は、産業構造転換の好機ととらえるべきものだろう。ただし、将来の産業構造の具体的な姿は、あらかじめは分からない。高度成長期のように「政府が将来ビジョンを描き、それを官民協調で実現する」という時代ではない。具体的な姿は試行錯誤で探ってゆくしかない。多くの企てが失敗するだろうが、生き残ったものが将来の日本を作ってゆくと期待したい。

需要激減への対処

産業構造の改革は、長期的な課題である。当面の短期的課題は、有効需要の激減による未曽有の不況にどう対処するかだ。それを放置すれば失業と倒産が激増し、日本社会は深刻な不安定状態に陥る。これに関して、つぎの3点に注意しよう。

第一に、有効需要の落ち込みは、かつてない大規模なものだ。具体的な規模は、バブルで膨らんだアメリカの過剰消費が、どこまで、どのようなスピードで減少するかに依存する。「アメリカの経常収支赤字が現在の半分程度の水準に縮小する」ことが一つの目安になるが、それでも減少額は3500億ドル(31兆円)という巨額のものだ。中国の黒字減も日本の輸出減を引き起こすことになるから、そうした効果を加えれば、日本の輸出減はGDPの5%を超える規模になるだろう。

第二に、有効需要の刺激は、日本や中国のような輸出国において必要なことだ。輸入国であるアメリカが有効需要を増やすと、輸入が増え、問題の根本原因であった経常収支赤字が縮減できないことになる。オバマ政権の景気刺激策に期待する向きは多いが、アメリカが景気刺激することは、解決の先延ばしにしかならない。アメリカの消費減少と一時的不況は、問題の基本的解決のために避けて通れない過程である。

第三に、需要拡張の手段は、金融緩和ではない。先進諸国が利下げした結果、日本が金融緩和しても円安にはならない。また、仮にそうなっても、これまでの失敗を繰り返すだけのことだ。有効需要落ち込みの補填(ほ・てん)は、財政支出増大によって行われる必要がある。日本では都市・住宅インフラが不十分なため、それを整備する絶好のチャンスでもある。

ただし、問題は、財政支出を拡大しても、道路など地方の無駄な公共投資になってしまうのが、ほぼ確実なことだ。都市住民を代表する政治勢力が存在せず、利益の地元誘導しか頭にない政治家が圧倒的だからだ。現在の自民党にまともな政策構想能力がないことは明らかだ。民主党は、先の参議院選でのバラマキ公約を見ても明らかなとおり、「自民党より自民党的」である。政治の貧困が、原理的には解決可能な経済問題に対して、大きな障害になっている。それが日本の悲劇である。

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