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アメリカの厳しい格差 元「隠れホームレス」の子役と映し出す~『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』


ベイカー監督には前作『タンジェリン』(2015年)の日本公開を控えた2016年12月にもインタビューした。詳しくはシネマニア・リポート[#30]にあるが、ちょうどドナルド・トランプ米大統領就任を翌月に控えたタイミングだっただけに、完成まで大詰めだった『フロリダ・プロジェクト』について、「トランプ就任後にますます大事な意味を持つ作品になる」と語っていた。そのことについて触れると、ベイカー監督は「手頃な住宅に住めない経済危機への取り組みは今もあまり進んでいない。米住宅・都市開発省は困窮する人たちに手を差し伸べ、ホームレスをなくす責務があるのに、資金が十分にゆきわたっていない。今作のプロジェクトを始めた2011~12年頃と今とで状況は変わっておらず、なお非常に重要でタイムリーな話だ。この映画の重要性は増している」と改めて強調した。

『フロリダ・プロジェクト』より © 2017 Florida Project 2016, LLC.

ベイカー監督は前回のインタビューで、「オバマにも取り残されたと感じ、クリントンも信用できず、何らかの変化を求める人たちがいかに絶望的になってきたか、映画界の特権層や富裕層は念頭においてこなかった。特に大手スタジオの作品は、そうした声を代弁してこなかった」とハリウッド批判も展開した。それから1年半近く、ハリウッドでは今まで以上に多様性を説く人たちが増え、「置き去りにされた層」を描いた作品も増えつつある。


「とりわけ映画やテレビで描かれるロサンゼルスは、偏っていて多様性を欠いている。それがエンターテインメントの都というものだし、そうしたハリウッド映画への国外の関心にこたえる形にもなっていた。僕はそれについてかねて落胆していたが、変化は出ている。昨年はトランプ政権に反発するような作品が出てきたし、今年はより多様な映画を見られるようになった。リベラルな業界として、変わりたい欲求はある。道のりはまだ長いけれど、今後2年ほどでどうなっていくか見ものだ」

ショーン・ベイカー監督=仙波理撮影

変化の一翼は、今作も担っている。米国のインディペンデント映画界ですでに評価の高いベイカー監督だが、大予算の大作がキャンペーンにしのぎを削るアカデミー賞に今回ノミネートされたのは画期的だ。周縁にいる人たちを映画で描く大切さが広く認識されてきたということだろうか。そう言うと、ベイカー監督は「まったくもってそう願う。こうした問題に光を当てることで、人が考えるようになり、社会の風景が少しでも変わればと思っている。ささやかな一歩だけれどもね」と言った。


ただ、ベイカー監督はオスカーにからむ監督になってもなお、大手スタジオには背を向け、インディペンデント映画の世界に居続けるつもりだという。「資金的にも大変だけど、この映画で描いた人たちの大変さに比べれば何てことはないよ。自分はとてもラッキーで、恵まれていると思う」

『フロリダ・プロジェクト』より、ウィレム・デフォー © 2017 Florida Project 2016, LLC.

ベイカー監督は今作を見た観客から、「この問題で自分に何ができるだろうか」と問いかけられることがあるという。「隠れホームレス」は米国だけの問題ではなく、英国など欧州でも起きている。日本も格安の宿泊施設に住む日雇いの方々は昔からいるし、都市部を中心にネットカフェを寝所とする人たちが「ネットカフェ難民」と呼ばれるようになって久しい。


「僕は政治家でも政策立案者でもないドラマ作家。だから、撮影に協力してもらった地元のNPOの人に『自分に何ができるかと問われたら、どう答えるべきだろう?』と聞いてみた。すると、『住まいは基本的な人間の権利だという、ひょっとしてみんなが忘れているかもしれない点を広めることがいかに大事か』『ホームレスをなくすため取り組む必要がある』といったことを言われた」

筆者の取材に答えるショーン・ベイカー監督(右)=仙波理撮影

ベイカー監督はそう言ったうえで、こう懇々と説いた。「隠れホームレスは、気づいていないだけで、みなさんのすぐ近くにもいるかもしれない。誰にだってできることはある。必ずしも慈善的な寄付をする必要はなくて、支援活動にかかわったり、ボランティアをしたり、この状況について広めたりすることもできる。これが僕らが伝えたいメッセージだ」





藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞(be編集部 兼 GLOBE編集部)

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。著書に『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi






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