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「壁」にはどこかに抜け道がある(画像で紹介)

GLOBEシンポ「壁が世界を分断する?」をがっつり伝える (2)

特集「壁がつくる世界」が語る世界の現実

10月1日から3日にかけて東京で開かれた「朝日地球会議2017」(朝日新聞社主催)のうち、GLOBEが企画したオープニングセッションのシンポジウム「壁が世界を分断する?」の論議を5回に分けて紹介します。今回はそのうちの第2回です。米サザンメソジスト大学のジェームズ・ホリフィールド教授の講演に続いて、GLOBE編集長の国末憲人がGLOBE10月号特集「壁がつくる世界」の内容について紹介します。

東京・イイノホールで10月1日に開かれた朝日地球会議のGLOBEシンポジウム「壁が世界を分断する?」

国末:次に、お手元のGLOBE紙面について、私からご説明します。

 

GLOBEは、原則毎月第1日曜日に発行しています。今日が198号の発行日で、今回のテーマは「壁」です。


壁というのは昔からあります。有名なのは万里の長城、中国が外敵から守るためにつくりました。そして、ベルリンの壁は1989年に崩壊しました。しかしその後も、世界が平和になったかというと、そうではない。


これが今日のGLOBEの表紙の写真ですけれど、アメリカとメキシコの間の壁ですね。後ろに太平洋が見えていますけれど、ティフアナという、国境の一番西のところですね。トランプ大統領が壁をつくると言っているけれど、実は既にありまして、1990年から徐々につくられています。ここに写っている人々は、1日4時間だけ反対側と交流できるということで、壁際に来ています。赤い服の女性はベロニカさんという方ですが、いま姪っ子さんが3カ月で、米国側にいます。反対側にいると、こういう風に見える。こういう風に話もできるのです。


これを取材したのは、GLOBEの村山記者ですけれど、アメリカとメキシコの国境、3200キロあるのですが、すべてたどって報告したのがこの記事です。


これも同じようにティフアナです。向こう側とこっち側で交流できる、という風になっているわけですね。


米国とメキシコとの壁というのは、こういう風に一部川で隔てられ、一部壁があり、壁のないところもあります。太平洋近くのティフアナでは柵になっていますが、ところどころで切れてもいます。


ここはノガレスというところですが、ここまでくると、切れて、単なる車止めになっている。移民は、ここから入ろうとすれば入れる。壁というのは、きっちり止めるのは難しくて、刑務所のように囲わない限り、どこかに終わりがあるのが実態です。


それから、これは韓国と北朝鮮の間の「壁」です。アメリカとメキシコより、もっと厳しい管理をしている。イムジン川という川で隔てられているところもあるけれど、そうでないところもあって、フェンスもあります。GLOBEの神谷副編集長が現地に行って取材しました。


もうひとつ、ハンガリーとセルビアの間の壁です。シリアやイラクからの難民が押し寄せました。2015年がピークですが、そこでハンガリーが侵入を阻もうとつくったのが壁です。これを取材したのはGLOBEの浅倉記者です。


これが国境の壁ですね。有刺鉄線があって守られていると。上を乗り越えたり、くぐり抜けようとしたりする人はいる。


これは、壁の前に足止めになっているアフガニスタンからの難民です。シリアとかイラクからだけでなく、アフガンとか、最近はネパールとかから多いと聞きます。


この国境は、私も実は一度行きました。これはアシュトホロムという村の近くです。こういう風に壁が続いています。フェンスは二重になっていて、真ん中が道路になっていて、パトロールの車が通って侵入者がいないか見ている。本当の国境は、もう少し先のセルビア側に行ったところにあって、フェンスはハンガリー側にちょっと入ったところにある。近くで暮らすハンガリーの農民に話を聞きましたら、「難民が来なくなって、落ち着いて暮らせるようになった。安心感がある」と言っていた。


そこから少し東にクベクハザ村があります。このような平原に国境があるのですが、フェンスの手前がハンガリーで、向こうの森がセルビア、その左にある建物はルーマニアです。3カ国が交わっている場所です。セルビアとハンガリーの間にはフェンスがある。ルーマニアとセルビア、ルーマニアとハンガリーの間には何もない。難民もここまで来ると、ぐるっと回って入国できる。国境警備員は3人ぐらいいるのだけれど、夜は機能していません。ここが、「壁」の端っこなのです。


地元のモルナル・ロベルト村長に話を聴きました。「難民が来たら、もちろん温かく迎えますよ。共産主義時代には、自分たちが難民になったのですから」と言っているわけですね。こういうことを言う人もいるけれど、壁をつくったほうがいいと考える人も多いわけです。


実際に、欧州では右翼、ナショナリスト、ポピュリストの運動があり、難民、移民を排除する動きが出てきています。この写真は、ドイツのドレスデンで、「ペギーダ」という移民排斥、反イスラムの団体のデモです。ドイツの選挙でも、こうした考えの勢力はかなりの支持を受けています。


この写真は、フランスの政党「国民戦線」のルペン党首です。彼女は移民排除を公言している。壁をつくる背景には、そうした意識があります。


ブルガリアの政治学者イワン・クラステフさんが書いた「アフターユーロップ」(欧州以後)という本があります。これで彼は、移民を排斥する人々の意識を詳細に分析しています。特に旧東欧のハンガリーやポーランドでは、その国から米英に出稼ぎに行ったり移住したりする人がいっぱいいます。その結果、コミュニティー自体が非常に弱まっている。そこに難民が来て、自分たちのコミュニティーが崩されるのではないか、という不安が広がっている。そのような状況を彼は綴っています。


こうした問題が、日本と全く関係ないかというと、直接は関係ないかもしれませんが、大いに重なる面もあります。最後のオチとしていいますと、「壁」の背景には、安心を求める意識があるわけです。グローバル化への不安でもあるわけです。よく通勤電車の座席では、端っこから席が埋まっていきますよね。真ん中になかなか座らない。この端っこに座る意識と、壁を持とうとする意識は共通している、と心理学者は分析しています。


このおじさん、がらがらの電車の中で端っこに座っています。これは私なんですが(笑)、私も端っこが好きです。端っこに座ると守られるわけです。攻撃されても後ろは大丈夫と。それと同じようなのが「壁」であるということで、今日のGLOBEを読んでいただけたらと思います。


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