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アメリカによる北朝鮮に対する「限定的予防戦争」

軍事社会学者 北村淳 #18



前回の本コラムで紹介したように、トランプ政権が北朝鮮への軍事攻撃に踏み切った場合、「アメリカに対する核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)攻撃能力を壊滅させる」という戦争目的に限定した「限定的予防戦争」が遂行される可能性が極めて高い。



ICBM関連装置への攻撃

アメリカによる「限定的予防戦争」は、この戦争の主要目的を達成するために北朝鮮軍のICBMとその発射関連装置の格納施設に対する先制攻撃により開始される。先制攻撃は完全な奇襲でなければならない。北朝鮮側の不意を突かなければ、北朝鮮軍による韓国、日本、そしてグアムに対する報復攻撃を最小限に押さえ込むことができなくなるからだ。


北朝鮮軍のICBMはいずれも地上移動式発射装置(TEL)から発射され、発射の直前までは敵の監視衛星や偵察機から発見されにくい山腹の洞窟や地下式格納施設に潜み、準備態勢を整えている。


TELに搭載され攻撃態勢を維持しているICBMが格納施設から発射場所に移動してミサイルが発射されるまで少なくとも30分程度の時間を要すると考えられている。そのため、地上に姿を現したICBMを攻撃する機会がないわけではない。


とはいうものの、365日24時間にわたって常時北朝鮮周辺上空に攻撃機を空中待機させていなければ、30分程度の時間枠内にICBM上空に接近して攻撃することは不可能に近い。


また、北朝鮮軍が保有する全てのICBMが時を同じくして格納施設から引き出されるわけではない。もし格納施設から引き出されたICBMの破壊に成功したとしても、その瞬間に奇襲ではなくなってしまい、他のICBMによる対米報復攻撃が実施されることになってしまう。


したがって、奇襲攻撃によって北朝鮮軍ICBM能力を一気に殲滅(せんめつ)するには、ICBMとその発射関連装置が格納施設に収まっている段階で全てを破壊する必要がある。地下式軍事施設を破壊するためには、地中貫通爆弾(GBU-28:最大で厚さ6メートルのコンクリートを貫通した後に爆発する)あるいは大型貫通爆弾(GBU-57:最大で厚さ60メートルのコンクリートを貫通した後に爆発する)による攻撃が考えられる。


ただし、ICBM関連施設は、通常の弾道ミサイルよりも強固な地下式施設であることが予想されるため、一撃で完全に葬り去るためにはGBU-57による攻撃が必要となる。


巨大なGBU-57を搭載することができるアメリカ軍爆撃機はB-2ステルス爆撃機とB-52戦略爆撃機だけである。しかし、いくら北朝鮮軍の航空戦力や防空態勢が脆弱(ぜいじゃく)とはいえ、奇襲攻撃にB-52爆撃機を投入することは危険に過ぎる。したがって、GBU-57大型貫通爆弾による攻撃を担当するのは、米空軍が20機保有しているB-2爆撃機ということになる。


もし北朝鮮軍が6基のICBMを準備していた場合、それぞれのICBM格納施設に対して少なくとも2機ずつ(完璧を期すならば3機ずつ)のGBU-57を搭載(1機あたり2発)したB-2ステルス爆撃機がグアムのアンダーセン航空基地から出撃して奇襲を敢行することになる。


もちろん、それらの攻撃目標が特定されなければ先制攻撃は実施されないため、ICBMが潜む強靱(きょうじん)な格納施設は、4発~6発ずつのGBU-57による集中攻撃を受けて灰燼(かいじん)に帰す。これによって、アメリカ領域内に対する北朝鮮の弾道ミサイル攻撃の可能性は消滅することになる。


弾道ミサイル関連装置の破壊

ICBM関連施設に対する奇襲GBU-57爆撃が成功したとしても、アメリカ軍による先制攻撃が開始された直後から北朝鮮軍による韓国や日本そしてグアムに対する報復攻撃が実施されることは避け得ないもの、と米軍戦争計画立案関係者たちは確信している。


北朝鮮軍による報復攻撃は、韓国に対しては北朝鮮軍が多数保有している「スカッド」短距離弾道ミサイル、軍事境界線近くに展開する北朝鮮軍の膨大な数に上る大砲やロケット砲、それに化学兵器散布なども可能な戦闘機(多くが旧式)をはじめとする航空機などを総動員して実施される。


日本に対する攻撃は、合わせて100基程度、あるいは200基にも上るといわれている準中距離弾道ミサイル「ノドン」ならびに短距離弾道ミサイル「スカッドER」が連射される。そしてグアムに対する報復攻撃は、中距離弾道ミサイル「ムスダン」が使用されることになる。


ICBM同様にスカッド、ノドン、スカッドER、ムスダンはいずれもTELから発射され、発射直前までは地下式格納施設でスタンバイしている。したがって、各種弾道ミサイルによる韓国、日本そしてグアムへの報復攻撃を極小化するためには、山岳地帯を中心に北朝鮮全土に多数建設されている地下式格納施設に潜み、報復用弾道ミサイルを積載している200輛以上にのぼると考えられているTELを破壊しなければならない。


この攻撃に投入されるのはGBU-28を抱いたF-15E戦闘爆撃機である。(GBU-57大型貫通爆弾の方が破壊力が大きいが、米空軍はGBU-57を投下するB-2ステルス爆撃機を20機しか保有しておらず、それらはICBM関連装置攻撃に投入されてしまう。ちなみにアメリカ空軍は200機ほどのF-15Eを運用している。)ただしB-2爆撃機のように航続距離が長くないF-15E戦闘爆撃機の場合(B-2の航続距離は11000kmであり、F-15Eの戦闘作戦半径は1270kmである)、日本ならびに韓国の米軍航空施設から出撃しなければならない。

GBU-28を投下するF-15E (米国防総省提供)


米軍情報部門が把握しているところでは、北朝鮮軍は少なくとも250輛以上の弾道ミサイル用TELを保有している。そのため、米空軍が保有しているF-15E全機の6割に当たる120機のF-15Eを奇襲攻撃に投入できたとしても、北朝鮮各地の地下式格納施設に潜む各種弾道ミサイル関連装置を一気に破壊し尽くすことは不可能であり、数度にわたる反復攻撃が必要になる。


このように、現在の米空軍F-15E戦力では、北朝鮮軍ICBM施設に対するGBU-57攻撃と同時に実施する各種弾道ミサイル施設に対するGBU-28攻撃でも、北朝鮮軍の弾道ミサイル(スカッド、ノドン、スカッドER、ムスダン)による韓国、日本そしてグアムに対する報復攻撃を封じ込めることは不可能ということになる。


恐怖の北朝鮮軍砲兵部隊

米軍の北朝鮮先制攻撃作戦立案担当者たちが、北朝鮮軍の弾道ミサイルによる報復攻撃とともに恐れているのは、軍事境界線付近に展開している大口径砲だけに限っても8000基以上、連装砲の数も含めると2万門以上に達するという、北朝鮮軍砲兵部隊による猛烈な報復攻撃である。


アメリカが北朝鮮を奇襲した場合、その直後から北朝鮮軍砲兵部隊は軍事境界線の韓国側、とりわけソウルとその周辺に対して砲弾とロケット弾をまさに雨霰(あめあられ)のごとく大量に撃ち込むことになるのは、確実視されている。それら莫大(ばくだい)な数の大砲やロケット砲は韓国に向けて発砲すると直ちに安全な半地下式陣地に潜み、弾薬の再装塡(さいそうてん)を行うという。


米軍情報筋の分析によると、北朝鮮に対する米軍の奇襲攻撃の直後1時間以内にソウル周辺地域には少なくとも1万発~2万発の砲弾とロケット弾が降り注ぐ。そして、その時点までに北朝鮮砲兵陣地の過半を沈黙させられなければ、さらに数万発に上る砲弾とロケット弾が降り注ぎ続けることになるという。



ソウル市内には、核シェルターをはじめ北朝鮮からの砲撃に備えて全市民が待避するための施設が完備されているため、ソウル市民の死傷者は巷(ちまた)で取りざたされているほどには発生しない、という楽観論も存在する。しかし、米軍関係者やシンクタンクによる推定の主流は、ソウル周辺だけでも少なくとも1万5千人ほどの民間人が死亡し、負傷者は10万人に上るという。そのような数の負傷者を収容し、治療できるだけの医療機関は整っていないため、負傷者が助からないケースも多くなる。


このような推定は、あくまで爆薬だけが充填された伝統的な砲弾やロケット弾が使用された場合の話であって、現実には、サリンやVXガスが充填された化学兵器弾が撃ち込まれる恐れが極めて高いものと危惧されている。その場合の惨状は想像を絶するレベルになる。



砲兵部隊への攻撃

国境地帯に北朝鮮軍がずらりと並べる大量の火砲のうち地上に据え付けられているものは、日本海に展開する巡航ミサイル原子力潜水艦(154発のトマホーク巡航ミサイルを搭載)あるいはイージス巡洋艦やイージス駆逐艦から発射されるトマホーク巡航ミサイルや、爆撃機や戦闘攻撃機からの爆撃で破壊することが可能である。


しかし、半地下式陣地に待避しつつ攻撃する膨大な数に上る火砲を壊滅させるには、上記のGBU-28地中貫通爆弾やGBU-57大型貫通爆弾などを投入しなければ戦果が上がらない。とはいうものの、それらの貫通爆弾はICBM関連施設や弾道ミサイル関連施設の攻撃に投入されるため、ソウル周辺を“火の海”にこそすれアメリカ領域攻撃とは無関係の北朝鮮軍砲兵陣地を攻撃するために割く余裕はない。


そこで作戦家たちが考えているのがGBU-43B大規模爆風爆弾(MOAB)の投下である。大型爆風爆弾の頭文字「MOAB」をもじって「全ての爆弾の母」とも呼ばれているGBU-43Bは、地中やコンクリートなどを貫通する能力はないものの、地表や極めて浅い地下の攻撃目標に対しては非核爆弾では最大の破壊力を持つ超巨大爆弾である。

GBU-43B大規模爆風爆弾(米国防総省提供)


MOABは、あまりにも巨大なためにB-1BやB-52といった大型爆撃機にすら搭載できないため、大型輸送機に搭載し、高高度からパラシュートを装着して落下させることになる。目標地点の1.8メートル上空で炸裂(さくれつ)すると、半径およそ1.14km以内の物体は完全に“消滅”し、半径およそ1.72km以内の鉄筋コンクリートビルなどは完全に破壊され、半径およそ2.09km以内の通常の家屋は崩壊し強固な軍事施設も大破される。そして人間の場合、半径およそ5.4km以内にいれば木っ端みじんに吹き飛ばされてしまう。


このような破壊力から推定すると、少なくとも125発以上のMOABを投下すれば、250kmほどにわたる軍事境界線に沿って展開している北朝鮮軍砲兵部隊を葬り去ることが可能だ。そこで、MOABによる集中攻撃を加えようというのが米軍作戦家たちの考えだ。


しかし、1発あたりおよそ17億円ほどと超高価なため、これまでに米空軍に納入されたMOABは15発に留まっている。そのうちの1発が2017年4月にアフガニスタンでIS陣地攻撃に使用されたため、現在アメリカ空軍が保有するのは14発だけである。したがって、北朝鮮軍砲兵陣地への攻撃は、MOABの投下に加えて、B-1B爆撃機とB-52爆撃機による絨毯爆撃、それに日本海からのトマホーク巡航ミサイルによる攻撃、ということにならざるを得ない。


いずれにしても、現状では多数のMOABを投下することによって北朝鮮砲兵陣地を一気に破壊し尽くすことは不可能とであり、ほぼ間違いなくソウル周辺地域には数え切れないほどの砲弾、ロケット弾が降り注ぐことは確実と考えざるを得ない。そして、米軍作戦立案担当者たちが危惧しているように、それらの砲弾やロケット弾の多くが化学兵器弾である公算は極めて大きい。したがって、国境地帯に展開する韓国軍や米軍の将兵はもとより、ソウルや周辺部の韓国市民、アメリカ国民や日本国民など外国人一般市民も含めた極めて多数の民間人も犠牲になることは避けられないのだ。


ペンタゴンによる被害推定

米軍の北朝鮮攻撃作戦立案担当者たちによって、韓国、日本、そしてグアムに対する北朝鮮軍による各種報復攻撃とそれによって生ずるであろう人的物的損害の推計がなされている。その推計結果を公表あるいは少なくともアメリカ連邦議会に対して提出するようにという連邦議員たちの提出要求に対して、ペンタゴンは推計結果が公開されてしまった場合における各方面に対する影響の大きさに鑑み提出を拒んでいる。


漏れ聞こえてくる“噂”によると、その推計では、北朝鮮が化学兵器(サリン、VXガス、イペリットなど)を使用するのはソウル周辺に対する砲撃だけではなく、韓国や日本に対する報復攻撃に用いる弾道ミサイルにも化学兵器弾頭が搭載された場合を想定しており、化学攻撃による惨状などに関しても詳細にわたって分析されているという。


米軍の先制攻撃によりICBMがことごとく破壊され、少なからぬ弾道ミサイル施設も破壊され、国境地帯の砲兵陣地や航空施設なども壊滅状態に陥ってしまった場合、北朝鮮軍がアメリカ軍の第二波、第三波攻撃にあらがうことは不可能に近い。そのため北朝鮮軍にとって、残存する弾道ミサイルによる反撃は、もはや戦局を好転させるためではなく、単なる報復のため、つまり半ば自暴自棄になったミサイル発射ということになるのだ。


ということは、攻撃目標は米軍基地でなくともどこでもかまわないということになるため、弾道ミサイルの射程圏内に位置する韓国や日本のほぼ全域の「いずれの場所でも」が弾道ミサイル着弾の危機に直面することになる。そして、報復の威力を極大化するために、通常の爆薬弾頭以上に悲惨な状況を作り出す化学兵器弾頭が発射される可能性も高いことになる。


もちろんアメリカにとっては韓国や日本に報復攻撃が加えられ、目を覆う惨状が現実のものとなることは望ましくはない。しかしながら、上記のごとくICBM施設を壊滅させることにより「限定的予防戦争」の主要目的は達せられるのであり、ICBM以外の各種弾道ミサイル関連装置に対する攻撃によって韓国、日本、グアムに対する弾道ミサイルによる報復攻撃をできうる限り小さくしさえすれば、アメリカ軍の作戦にとっては致命的な失敗ということにはならない。


あくまで「限定的予防戦争」の戦争目的は「アメリカ領内に対する北朝鮮によるICBM攻撃能力を叩き潰す」ことであり、そのためには韓国や日本が支払う犠牲には目をつぶらざるを得ないのである。あとは、北朝鮮による韓国や日本に対する“残虐な報復攻撃”を声高に非難すれば良いのである。




(次回は12月27日に掲載する予定です)



きたむら・じゅん

1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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