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錦織圭不在のATPファイナル 異例の初出場決勝

スポーツ記者 稲垣康介 #13

朝日新聞欧州総局(ロンドン)駐在のスポーツ担当編集委員、稲垣康介が現場から届ける臨場感あふれるコラム。スポーツが映し出される欧州の社会の「いま」を切り取ります。


故障者相次ぐ男子テニスツアー

あれっ、去年までと比べて部屋の奥に押しやられた感じ。ロンドンのO2アリーナのメディアセンターに足を踏み入れ、自分のデスクを確認した瞬間、序列の変化に気づいた。


男子テニスのシーズン成績上位8人だけが挑める今季最終戦、ATPワールドツアー・ファイナルの取材でのことだ。昨年までは錦織圭(日清食品)が3年連続で出場していたから、日本メディアが割り当てられた席は部屋の中心だった。しかし、その錦織は8月に右手首の故障で長期療養に入ったため、不在。出場選手の当該国のメディアではないので、やや後ろの席にご遠慮願ったということか、と感じた。実際、錦織が出場しないので、日本から取材にきた一般紙、スポーツ紙の記者、フリーランスのライターは一人も見かけなかった。私自身、取材したのはサッカー日本代表の欧州遠征をベルギーで取材した後の大会後半からだったから、至極、妥当な配置だと感じた。


日本だけではない。一昨年まで大会4連覇を飾っていたノバク・ジョコビッチの母国、セルビアの顔なじみの席は、別室になっていた。日本の場合、今年から日東電工(本社・大阪市)が英金融大手のバークレイズに代わり、大会の冠スポンサーになったことで、主催者側の「温情」があったのかな、と勝手に妄想を膨らませた。

会場のO2アリーナ。世界ランキング1位のナダルは大会途中で棄権した=稲垣康介

今大会に集った顔ぶれをみると、初出場が4人とフレッシュさを感じさせたが、それは一方では、今季の異常ともいえるトップ選手のけがによる離脱の影響が色濃くにじんでいた。昨年の大会で決勝を争ったアンディ・マリー(英)とジョコビッチをはじめ、錦織、昨年の全米オープン覇者、スタン・バブリンカ(スイス)やミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、ガエル・モンフィス(フランス)と昨年の出場者8人のうち6人はけがのため、シーズン終盤を前に今季いっぱいのツアー離脱を強いられた。さらに左肘のけがから復活し、今季は全仏、全米を制した世界ランキング位のラファエル・ナダル(スペイン)も、ツアー・ファイナルの途中でけがのために棄権をする羽目になった。


トップ選手の相次ぐけがに相関関係を見いだすのは難しい。もちろん、ツアーの過密日程が原因ではあるけれど、それは今年に限ったことではない。蓄積された疲労が2017年に多くの選手に一挙に出たことの合理的な説明はつかない。錦織を応援するファン心理としては、「今季後半は初のマスターズ大会優勝のチャンスだったのに」という思いがあるかもしれないけれど。


世界ランク6位と8位の頂上決戦

決勝戦を制したグリゴル・ディミトロフ(左)と準優勝のダビド・ゴファン=AP

前段が長くなったが、大会の決勝は世界6位のグリゴル・ディミトロフ(ブルガリア)が同8位のダビド・ゴファン(ベルギー)との顔合わせになった。初出場同士(ゴファンは昨年、途中で棄権者が出たので補欠出場)の決勝対決は東京で開かれた1970年第1回大会以来。特に、勝った方が年末の世界ランキング1位が確定した大一番で、マリーがジョコビッチの5連覇を阻んだ昨年と比べると、地味なカードとなった。


しかし、試合内容は充実していた。ディミトロフが7-5、4-6、6-3で振り切り、初優勝を飾ったが、ミスショットが少ない好ラリーの応酬は昨年の決勝を上回った。


試合後の記者会見。準優勝に終わったゴファンに「ビッグ4」不在の決勝に絡み、世代交代の到来に関する質問が飛んだ。「わからないよ。それぞれ違った世代がいる。フェデラーは僕より10歳ぐらい年上だし、次にナダル、ジョコビッチ、マリーの世代がいる」。さらに21歳以下の有望株の台頭を挙げ、「将来は厳しい争いになるよ。僕とディミトロフはほぼ同じ世代(26歳)で、ちょうど中間の世代。若手とベテランとの争いに勝つためにいる」と総括した。この12月で28歳になる錦織は、その少しだけ上の年代に当たる。

全豪オープンで、試合を制したロジャー・フェデラー(右)を祝う錦織圭=AP

そのゴファンに準決勝で敗れたロジャー・フェデラー(スイス)が会見の最後に、けがとの試練に立ち向かっているトップ選手へのエールと来季への期待を口にした。


「ケイ、トーマシュ、ミロシュのツアーへの復帰を願っているし、それが(1月の)全豪になったら、伝説的な復活になる。そして、今季、素晴らしいシーズンを過ごして今回のツアー・ファイナルに出て自信をつけた新鋭も加わる。そうなれば、最高にクールな一年のスタートになるし、僕はすごく心待ちにしている」。復活優勝を飾った今年の全豪で、フルセットの末に破った錦織圭の名前も、そこにはあった。


 


いながき・こうすけ


朝日新聞欧州総局(ロンドン)駐在のスポーツ担当編集委員。欧州で暮らすのは2001年から4年間のロンドン、アテネ駐在以来。著書に『ダウン・ザ・ライン 錦織圭』(朝日新聞出版)。世界のあらゆる情報が瞬時にインターネットで入手できる時代だからこそ、取材現場の臨場感が伝わるコラムをお届けできたらと思っています。



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