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シャンパン片手に貧困語る左派への反発、浮き彫りに~『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』よりガエル・ガルシア・ベルナル(手前右) Ⓒ Fabula, FunnyBalloons, AZ Films, Setembro Cine, WilliesMovies, A.I.E. Santiago de Chile, 2016


シネマニア・リポート Cinemania Report [#71] 藤えりか


「シャンパン社会主義者」「リムジン・リベラル」という言葉が最近よく取りざたされる。「貧困や格差をなくそう」と理想を掲げながらシャンパンにリムジンで裕福に暮らす人たちを揶揄する表現だ。チリのノーベル文学賞詩人、故パブロ・ネルーダを描いた11日公開のチリ・アルゼンチン・仏・スペイン映画『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(2016年)では、生涯の大半を逃亡に費やした国民的詩人のそんな「矛盾」が浮き彫りになっている。ネルーダを演じたチリ人俳優ルイス・ニェッコ(54)に、スカイプで聞いた。


ネルーダは詩人として世界的に愛されてきた一方で、政治家としても活動した。1934年に外交官として赴任したスペインで内戦を目の当たりにして共産主義に接近、1945年にチリで上院議員となり、共産党入りする。今作『ネルーダ』の舞台は冷戦下の1948年。中南米の共産化を恐れた米国の圧力を背景に、当時のビデラ大統領(アルフレド・カストロ、61)が共産党を非合法化。ネルーダは、ビデラ大統領の命を受けた警視オスカル・ペルショノー(ガエル・ガルシア・ベルナル、38)らに追われる身となるが、追っ手をもてあそぶかのように酒場にも顔を出しては人気を博し、ペルショノーらを苛立たせる。ペルショノーは父はチリ警察創始者ながら母は娼婦、貧しい暮らしから這い上がってきただけに、理想主義の一方で酒や女性との遊びを好む享楽主義のネルーダを「左翼エリート」と敵視し、執着する。

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』よりネルーダ役のルイス・ニェッコ(中央) Ⓒ Fabula, FunnyBalloons, AZ Films, Setembro Cine, WilliesMovies, A.I.E. Santiago de Chile, 2016

ちなみにネルーダの妻デリアを演じたメルセデス・モラーン(62)は、ローマ法王フランシスコ(80)の半生を描いた『ローマ法王になる日まで』(2015年)で法王の恩師エステルを演じている。


今作でガエルが「大衆に愛された左派詩人を追う警視」を演じると聞いて、当初は意外に思った。彼は『モーター・サイクル・ダイアリーズ』(2004年)で若き日のチェ・ゲバラを、今作の監督でもあるパブロ・ラライン監督(41)の『NO』(2012年)ではチリのピノチェト独裁政権にノーを言うCMを作る広告マンを、『ノー・エスケープ 自由への国境』(2015年)では追われる不法移民をそれぞれ演じてきた。「大統領の手先」とはまるで逆だ。でも『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』を見進めるうち、最近インタビューしたガエルの言葉とも響きあうメッセージを感じた。


というのも、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の舞台は第2次大戦終結まもないチリながら、ネルーダに対峙するペルショノーはまさに、世界そして日本で今高まる左派やリベラルへの批判や、既得権益層への反発を体現している。政治犯を追う警視と、大衆に愛される逃亡詩人との対比はたいていは、後者に過剰移入しそうなものだが、ぜいたくを好むネルーダが身勝手な動きをすればするほど、複雑な生い立ちを跳ね返そうともがく警視ペルショノーの屈折に気持ちが傾く自分に気づく。かつネルーダは劇中、妻デリアにもボディーガードにもひどい言葉をぶつける。いわゆる「シャンパン社会主義者」の矛盾を突かれても仕方がない人物像をも、つまびらかにしている。

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』よりガエル・ガルシア・ベルナル(中央) Ⓒ Fabula, FunnyBalloons, AZ Films, Setembro Cine, WilliesMovies, A.I.E. Santiago de Chile, 2016

そう言うと、ネルーダを演じたルイスは、スカイプ通話の画面越しに語った。


「ネルーダは社会に常に抗い、挑発してきたが、多くの人にとってはいまだに謎の人物だ。チリでは誰もが学校で彼について教わるが、表面的な形だ。一方で彼はとても矛盾した人物で、確かにシャンパン社会主義者だ。でも彼のようなアーティストとしては当時はきわめて普通だった。ネルーダが交流した画家や作家も、ブルジョア的な暮らしをしながら社会主義を語っていたのだから」



(次ページへ続く)

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