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【創刊からの9年】Ⅰ 前大阪市長・橋下徹 「トランプはパンドラの箱を開けた」


GLOBEは来月200号を迎えます。2008年10月の創刊直後に米国でオバマ政権が誕生しましたが、今年1月に米国の大統領はトランプに代わり、世界各国で社会の「分断」が進んでいるようにもみえます。


ウェブオリジナルのインタビュー企画では、これまでのGLOBEに登場した著名人や、創刊前にGLOBEが意見を聞いた有識者に改めてインタビューし、それぞれの専門的観点からこの「9年」を語ってもらいます。

1回目は188号(2016年12月)の特集「トランプがきた」のインタビューに登場した前大阪市長、橋下徹氏に聞きました。

大阪市北区、伊藤進之介撮影


――ドナルド・トランプが米大統領選で勝利した1年前、橋下さんは特集「トランプがきた」のインタビューで「民主政治というのはただ1点、有権者の過半数の満足を得ていくというきわめてシンプルな話。これまでの政治に満足している人は継続を支持します」と発言していました。1年たった今、米国では人種差別問題が表面化し、社会の分断が進んでいるようですが、どう見ていますか。


1年前に、トランプを支持した人は継続して支持している人が多いと思います。選挙で掲げたことに挑戦している。みんながありえないと言っていた「TPP離脱」や「パリ協定離脱」も表明した。反対側からは文句が出ているが、トランプを支持した人々の支持は離れていないように見える。


政治家として、一番重要なのは、暮らしを安定させること。欧米では政治家を評価する一番の指標は雇用です。トランプのおかげかはわからない。むしろ、オバマ政権時代からやってきた結果なのかもしれないが、現実に米国の雇用は増えてきた。経済成長率も上がっている。


失業率がどんどん高まっているような世の中でない限り、国民が圧倒的な不満を抱くことはありません。一部インテリから見ればトランプの振る舞いに国民全体が怒り沸騰しているように感じるでしょうが、普通の有権者からすると、失業率が高まらない限り、政治への不平不満はそんなに膨らまない。



――安倍政権が圧勝した今回の総選挙とも重なる気がします。


安倍さんがやってきたことには問題がいろいろとあるかもしれない。でも、今までやってきたことが評価されたことも間違いありません。


失業率は下がり、就職率は高い。すべて安倍政治のおかげではないだろうが、現実の生活を考えれば、「おおかた、これでいいんじゃないか。ここで変えてどうする」ということでしょう。過去の暮らしとくらべてどうか、まあマシだったら今のままでというのが有権者の感覚です。


――1年前のインタビューでは「米国社会には分断はすでにあったんです。トランプはそれを正直に見せただけ」と語っていました。

成熟した民主国家においてひとりの政治家が社会を分断させることなんてできませんよ。政治家にそこまでの「力」はありません。


トランプの態度によって人種問題が先鋭化したところはありますが、それはもともと沸々とあった人種問題に「ふた」をして見えないようにしていたものを、トランプがその「ふた」を開けただけだと思います。


政治には、ふたつのやり方があると思います。問題にふたをしながら、やりくりしていくのか。問題を表に出して「どうやって解決する?」と問いかけるのか。


トランプはパンドラの箱を開けた。ここからが勝負です。ここでアメリカ社会が本気で人種差別問題に取り組むのか。それともこれまで通り、「人種差別はダメだ」という言葉だけで取り繕うのか。



――インタビューでは「エリート・専制政治の方が大衆迎合よりもよほど危険なことは歴史が証明しています。今回の選挙の敗北者は、メディアを含めた知識層です」とも語っています。1年たって、今の日本や米国の動きを見ていて、どう考えていますか。


「ポピュリズム」はトランプ当選後に、すごく議論されました。僕は、ポピュリズムという言葉は嫌いです。政治権力が軍事力で国民を押さえつけ、報道の自由が守られていない国では、政治権力主導の本物のポピュリズムが生まれてくると思う。しかし、権力分立が制度化され、報道の自由が守られている成熟した民主国家の場合には、仮にポピュリズムというものがあるとしたら、その原因はメディアにあると思う。


僕も府知事をやり市長をやり政党の代表もしたが、成熟した民主国家においてはひとりの政治家に国民全体を動かす「力」や「権力」なんてものはない。僕のふるまいで多くの票が集まることがあるとしたら、それはすべてメディアが媒介している。


メディアが僕を無視すれば、僕は票なんか集められないですよ。今のメディアはいわゆるポピュリズムを生む報じ方をしているし、その報じ方はおかしいという声が選挙後少しの期間、毎度のことながら上がるけど、メディアはその態度を抜本的には改めない。


成熟した民主国家においていわゆるポピュリズム的な政治を生み出すのはメディアです。ゆえにメディアが政治権力だけでなく、メディアをもチェックする、つまりメディア同士の相互チェックを徹底しないと、いわゆるポピュリズム的な扇動政治が生まれます。


成熟した民主国家を守ることも、また堕落させることもメディアがキーアクター。だからこそ報道の自由というものが重要なんです。しかし自由の裏には責任が伴っていることもメディアは自覚してほしいですね。民主政治を良くするのも悪くするのもメディアの責任です。

大阪市北区、伊藤進之介撮影


――インターネット全盛時代で、既存メディアの影響力は下がっています。


「下がっている、下がっている」とよく言われますが、ツイッターやブログ、SNS、ネット番組などと比べて、まだまだ既存のメディアの方が桁外れに力は上だと感じます。もし既存メディアの影響力が落ちているとすればそれはインターネットを十分に活用できていないのでしょう。既存メディアはもっとネットを活用して権力チェックそしてメディア同士の相互チェックをしてほしい。


――GLOBEは200号を迎えます。期待や注文はありますか。

僕が言及できる政治分野に限っていえば、「格好いい議論」で満足しないでほしい、と思います。知識層やインテリの間ではやっている小難しい抽象論、観念論で終わりにしてほしくない。


政治の目的は、いまを生きている国民・有権者の生活をちょっとでもマシにするということです。すなわち国民の不平・不満をすくい上げていくことが政治です。それは決してポピュリズムという言葉で蔑視されるものではない。インテリがよく口にするように、国民の不平・不満をすくい上げて政治的な原動力を得ていくことをポピュリズムというなら、むしろ政治の本質はポピュリズムですよ。


GLOBEにはきれいな言葉での小難しい議論だけではなく、もうすこし泥臭いところに踏み込んでもらいたい。人間の本性から湧き出てくる感情や本音の部分が、政治が言及すべきテーマの根底に横たわっている場合、その感情や本音についてポリティカル・コレクトネスによって「ふた」をするのではなくそれを白日の下にさらし、その上で「現実論」として解決策を考えていく。


小難しい抽象論は悩みがない分、課題を解決する力がありません。「現実論」は悩みの連続であるがゆえに課題解決に向けて一歩進むのです。このようにポリティカル・コレクトネスで糊塗されない「現実論」にメディアが踏み込んでくれると、政治はそれを参考にして、実際に課題解決に向けて動くことが出来ると思います。(聞き手・鮫島浩)


【当時の橋下氏へのインタビューはこちら】

1. 「民主政治である以上、有権者の過半数に『満足』を与えなければいけない」

2. 「有権者が政治家のきれいごとに、おかしいと思い始めてきた」

3. 「究極の選択から逃げていては、重要な課題を解決できない」

4. 「ポピュリズムというのは課題解決のための手段だ」

5. 「市民や府民の多くが支持してくれなかったら政治なんてやれなかった」


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