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【創刊からの9年】 激動の日本と世界 どう向き合ったのか



高揚から分断へ 「敗北者は知識層」なのか



世界は高揚していた。


GLOBEの創刊は2008年10月。直後にバラク・オバマが米大統領選に勝利し、09年1月はオバマの特集号(7号)を組んだ。


書き出しは「変革への夢と未来を彼に託して、47歳の、そして初の黒人の、第44代米合衆国大統領が誕生する」。3ページに「Change」の太い見出しが躍る。


フロント面を飾るのは、オバマではなく、大きな瞳のアフリカ系の少年だ。


撮影したのは朝日新聞写真部記者だった岩崎央(48)。「人々はどう感じているのか」と考え、全米を駆け巡った。少年はニューヨーク・ブルックリンにある黒人教会の日曜礼拝にいた。「オバマを誇りに思う」と話した。瞳が輝いていた。


写真を採用したのは、デザインを担う木村デザイン事務所の木村裕治。「今までと違う新聞を作る高揚と、オバマ誕生の高揚が重なった」と振り返る。


08年秋のリーマン・ショックで世界経済は危機に陥っていた。記事は自動車不況にあえぐオハイオ州の副知事がオバマに希望を託す様子を伝えている。


今年1月、大統領はドナルド・トランプへ代わった。オハイオ州の人々は昨年11月の「グローバル化という巨象」(187号)や翌月の「トランプがきた」(188号)に再び登場する。今度はグローバル化による国際競争に敗れ、トランプに希望を託す熱狂的支持者として。


「トランプ」特集では、トランプが育ったニューヨーク市クイーンズ地区をGLOBE副編集長の大島隆(45)が訪れた。



巨木に囲まれた高級住宅街と、小さな家がひしめき合う移民街が幹線道路を隔てて隣り合う。自身の育った高級住宅街を「あそこはオアシスだった」と語るトランプの発言を思い出し、大島は「彼には、どのように『オアシス』の外の世界が見えていたのだろう」と考えた。「白人ばかりだった昔と違い、今は高級住宅街にも様々な人が住む。米国は変わったはずなのに、時計が逆戻りする衝撃を受けた」と振り返る。


「オアシス」と、その外の世界を隔てるものは、見えない壁だ。


欧州では英国が欧州連合(EU)離脱に進み、フランスやドイツでも「自国第一」を掲げる政党が台頭。今年10月の「壁がつくる世界」(198号)では欧米の「壁」を記者が歩いた。


オバマ勝利に沸いた「希望」はどこへ行ったのか。


トランプ特集で前大阪市長の橋下徹は「(大統領選の)敗北者は、メディアを含めた知識層」と断じた。橋下は今年10月、改めて取材に応じ「政治で最も重要なのは雇用。メディアはトランプに怒り沸騰だが、失業が増えない限り多くの有権者の不平・不満は膨らまない」と語った。



社会保障に原発 揺れ続けた日本社会


政権交代は日本でも起きた。09年6月の特集は「民主党は頼れるか?」(17号)。「官僚は、世の中は、どう変わっていくのだろう」という書き出しに高揚感がにじむ。


民主党政権は翌年夏の参院選前に、マニフェストになかった消費増税を打ち上げる。10年6月の「覚悟の社会保障」(42号)は高負担への理解を得たスウェーデンをルポ。福祉政策に詳しい政治学者、宮本太郎の「スウェーデンには自分の負担が戻ってくるという信頼があるが、日本では、税金は政府に『とられる』ものだ」との分析を紹介し、社会保障の充実は政府への信頼がキーワードになると問題提起した。



だが、民主党は参院選で惨敗。ねじれ国会で衰弱し、12年末に下野する。


安倍政権は消費税率を8%へ引き上げたが、10%への引き上げは二度延期して衆参選挙で圧勝。今回の総選挙では2年後の消費増税を公約したが、宮本は「増税なしでもやっていける雰囲気を作ってしまった。国債発行は難しく、生活困窮者らへの支援から削減される恐れがある」と危惧する。


11年3月の福島第一原発事故は、この9年で日本が世界を揺るがした最大の事件だ。11年4月の「原発、揺れる世界」(61号)では脱原発へ舵を切ったドイツ首相メルケルの姿と、安全性を強調する当時のフランス大統領サルコジの姿を対比。その後も11年6月の「放射線、リスクを読み解く」(65号)、13年7月の「廃炉の時代」(115号)、今年3月の「国境を越える電力」(191号)などで事故後の社会やエネルギー政策を追った。


日本は「原発ゼロ」から「推進」に引き返した。現政権は再稼働を進めるが、避難指示が解除されても原発近くの住民は帰らない。避難者へのいじめも相次いで発覚している。


「原発事故」は今も終わってはいない。


09年の特集「民主党は頼れるか?」には、来たるべき政権交代に備えて本場・英国の議院内閣制を視察する菅直人に、取材した記者が「与党と政府が一体となった英国型の議院内閣制は『(選挙で)選ばれた独裁制』に陥る恐れがある」と疑問をぶつける場面がある。菅の答えは「先の先の話をしたってしょうがない」だった。


結局、民主党政権は官僚政治を打破するどころか取り込まれた。今振り返れば、官僚を抑え込み「選ばれた独裁制」に近づいたのは、むしろ現在の自民党政権だったのではないか。


民主政治のあるべき姿を求め、世界でも日本でも模索が続く。



取材を終えて


GLOBEでは創刊以来、世界各地に記者が飛び、日本の「明日」を考えるヒントを探してきた。これまでの特集を振り返ると、それぞれのテーマが今につながっていることがわかる。

2011年の東日本大震災の時、私は政治部デスクとして政権取材に当たっていた。原発事故について確かな情報が取れず「直ちに影響はない」という政府発表を流すしかなかった。一歩間違えれば東日本が壊滅しかねない状態だったことは、あとでわかった。


書かなければならない局面で何も書けなかったあの時の「不作為の責任」ほど重いものはない。その反省は、記者としての私の原点であり続ける。


この9年で、メディア界はネット全盛となり、新聞やテレビへの不信も広がる。そんな時代こそ埋もれた事実を発掘し、説得力を持って多くの人々に届けるジャーナリズムの原点を見つめ直したい。


鮫島浩(さめじま・ひろし) 1971年生まれ。小渕内閣から政治取材を始め、自民・民主の2大政党の攻防を追ってきた。特別報道部、知財室を経てGLOBE記者。


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