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多発する航空機事故と強制財政削減の影響

軍事社会学者 北村淳 #14



10月11日夕方、沖縄県東村高江の牧草地にアメリカ海兵隊CH-53重輸送ヘリコプターが不時着炎上する事故が発生した。付近の住民にも、ヘリコプターに搭乗していた海兵隊員にもけが人などは出なかったものの、CH-53ヘリコプターの機体の大半は消失した。


この事故は、アメリカ海軍安全センターの事故分類では『クラスAミスハップ』に分類される。アメリカ海兵隊では、ここのところクラスAミスハップに分類される重大事故が多発しており、アメリカ海兵隊やアメリカ海軍をはじめとする軍関係者のみならず連邦議会でも、航空機事故多発の原因に関する議論が活発になっている。


連発しているクラスAミスハップ

アメリカ海軍安全センターは、アメリカ海軍ならびにアメリカ海兵隊の航空機事故のうち、下記の4つの要件のうち一つ以上に当てはまる事故をクラスAミスハップと定義している(なお、アメリカ空軍でも海軍同様に、アメリカ空軍安全センターが独自定義によってのクラスAミスハップなどの事故分類を行っている)。ようするにクラスAミスハップとは最も深刻なレベルの重大事故ということである。

『クラスAミスハップ』の要件

(1)死者が発生

(2)永久全身障害者が発生

(3)航空機が全壊

(4)機体に200万ドル以上の損失が発生


沖縄で10月11日に発生したCH-53炎上事故のみならず、ここのところ世界各地において海兵隊機のクラスAミスハップが続いている。過去1年間に海兵隊機が作戦中あるいは訓練飛行中に起こしたクラスAミスハップは以下の通り(カッコ内は機体の損害額。このほかにも、整備中に発生したクラスAミスハップも数件発生している)

▼2017年9月28日、シリアで夜間作戦中のMV-22Bオスプレイが墜落。夜間で視界が劣悪な状況での着陸により墜落したものと考えられる。搭乗員一名が負傷し、機体は大破炎上した。($81,700,000)

▼2017年8月5日、オーストラリア沖でオーストラリア軍と合同演習中の海兵隊MV-22Bオスプレイが墜落した。搭乗していた26人中23人は救助されたが3名が死亡し、機体も失われた。($83,195,000)

▼2017年7月10日、米国ミシシッピ州でアメリカ海兵隊の空中給油・輸送機KC-130Tハーキュリーズが墜落し、搭乗していた16名全員が死亡した。($70,675,000)

▼2017年4月5日、アリゾナで訓練飛行中の海兵隊CH-53Eヘリコプターが砂漠に墜落、乗員は無事であったが機体は損壊した。(未算定)

▼2016年12月13日 名護市安部沖の浅瀬に海兵隊MV-22Bオスプレイが不時着。乗員は無事であったが機体は大破。($81,789.705)

▼2016年12月7日 高知県沖の太平洋上に海兵隊戦闘機FA-18Cが墜落。搭乗員は脱出したものの死亡。機体も失った。($76,500,000))

▼2016年11月16日 サンディエゴ沖上空で戦闘訓練中であった2機の海兵隊FA-18Aが接触し1機が墜落。パイロットは脱出して無事。($84,200,000)

▼2016年10月27日 サウスカロライナ州上空を訓練飛行中の海兵隊F-35B戦闘攻撃機が出火。搭乗員も機体も生還したが破損。($2,000,001、ちなみに、$2,000,000以上の機体損害額があった場合にクラスAミスハップに分類される)

▼2016年10月25日 トウェンティナインパームス基地に着陸しようとした海兵隊FA-18C戦闘機が墜落。搭乗員は脱出して無事であったが機体は損壊した。($74,000,000)

▼2016年10月16日 アリゾナの訓練場で夜間訓練中の海兵隊MH-53E重輸送ヘリコプターが建物に接触し墜落。搭乗員は無事であったが機体は損壊した。($57,512,520)

訓練中の海兵隊MV-22B(米海兵隊提供)


死亡事故多発の原因

アメリカ海兵隊では、2016年と2017年だけでも20件のクラスAミスハップが発生している。そのうち死者を出したのは6件に上っており、34名の海兵隊員の命が失われている。2016年度の海兵隊のクラスAミスハップ発生率は3.42(10万回の飛行あたり3.42件発生)であり、2017年度の発生率はこれまでのところ4.82と跳ね上がっている。


ただし、重大航空機事故は海兵隊機だけではなく海軍機でも多発している。アメリカ海軍安全センターによると、過去1年間(2017年10月15日まで)の間に発生したクラスAミスハップは、海軍機で16件(飛行中12件、地上4件、死者なし)、海兵隊機で12件(飛行中10件、地上2件、死者21名)となっている。


そして、このようなデータをもとに、「海兵隊は海軍そして空軍に比べて航空機事故での死者数が異常に多い」といった指摘がしばしばなされている。たとえば、「過去6年間の海軍機と海兵隊機の死亡事故を比べてみると、海軍の死者数が10名であるのに対して海兵隊は62名に上っている。もし、あなたの知り合いの若者が国のために陸や海の上空を飛び回るパイロットを夢見ているならば、海兵隊ではなく“より安全な”海軍を勧めるべきだ」などという話まで語られる始末だ。


しかしながら、海軍機の事故に比べて海兵隊機の事故のほうが死亡者数が6倍と跳ね上がるのは、航空機の使われ方に原因があり、事故件数が6倍だからと言うわけではない。


アメリカ海兵隊が最大の特徴としているのは、海上の揚陸艦などから揚陸艇や水陸両用車それにヘリコプターやオスプレイで海や空を経由して陸地に到達して作戦行動を実施する水陸両用能力(厳密には水空陸併用能力)である。とりわけ現代戦においてはスピードを要求されるため、海兵隊陸上戦闘部隊は、海兵隊航空機による移動や海兵隊航空機による支援が不可欠である。そこで海兵隊では、陸上部隊と航空部隊が密接不可分となったMAGTFという戦闘組織構造になっている。


このような組織的特質のため、海兵隊でも海軍同様に戦闘機や戦闘攻撃機なども使用されているが、多くの海兵隊員を搭乗させた中型輸送機MV-22オスプレイや大型輸送ヘリコプターCH-53、そして場合によっては大型輸送給油機などが多用されているのである。


そのため、海軍機での死亡事故は戦闘機や戦闘攻撃機などの事故(搭乗員は1人あるいは2人)によるものがその大半を占めるのに対して、海兵隊機での死亡事故は輸送機や輸送ヘリコプターの事故によるものが多くなっている。したがって、海兵隊では事故件数に比べると、どうしても死亡者数が多くなってしまうのである。


飛行停止命令

空軍や海軍に比べるとどうしても海兵隊機の事故では死亡者数が多くなる特質があるとはいえ、7月10日と8月5日に連続して発生した航空機墜落死亡事故で合わせて19名もの海兵隊員を失ってしまったため、アメリカ海兵隊総司令官ロバート・ネラー大将は、8月11日、全ての海兵隊航空部隊に対して、2週間以内に24時間の飛行停止・安全性再確認を行うよう命令を発した。


ネラー総司令官が発した24時間飛行停止命令は、すべての海兵隊航空部隊に一斉に飛行を停止させる命令ではない。2週間以内に海兵隊の全ての飛行部隊が、作戦任務(アメリカ海兵隊のドクトリンでは、海兵隊は365日24時間常に戦闘に備えている)に影響が生じないよう、それぞれの航空部隊で調整し交代で24時間の飛行停止を実施して、その間に徹底した安全性の再確認作業を実施せよ、という趣旨である。

トモダチ作戦では活躍した海兵隊CH-53E(米海軍提供)

この種の安全性再確認のための飛行停止措置は、重大事故が発生するとしばしば発せられる命令であって決して特殊な出来事というわけではない。ただし、通常は事故を起こした特定の機種あるいは特定の部隊に対して発せられるのであり、海兵隊が運用する全ての航空機と全ての部隊に対して発せられた極めて大規模な安全性再確認措置であるという点では異例と言えよう。しかしながら、このような安全確認がなされた後でも、3件のクラスAミスハップが発生(10月15日現在)しているのである。


事故多発の原因は強制財政削減措置

軍隊での航空機事故多発という事態を受けて、アメリカ連邦議会では「海兵隊をはじめとするアメリカ軍でこのように航空機事故が頻発するようになっているのは、かねてより予測されていた事態である」と指摘する声が上がっている。そして、このような状況を作り出した最大の原因は、オバマ政権による国防予算の大幅削減策の目玉であった「強制財政削減」にあるという。実際に、2012会計年度から2021会計年度の10年間で、連邦支出は1兆2000億ドル削減され、そのうちのおよそ半分は国防費であった。そのため、強制財政削減の即時撤廃を主張している連邦議員は少なくない。


強制財政削減の即時撤廃を主張するマケイン上院議員(上院軍事委員長)やソーンベリー下院議員(下院軍事委員長)をはじめとする政治家たちは、軍事費が強制財政削減によって逼迫したために、

(1)新型航空機の調達が滞り、長年にわたって使い込み、安全性が(新鋭機に比べて)低い航空機を使用せざるを得ない

(2)軍用機の整備点検費用が不十分となり、航空機に故障が生じやすくなる

(3)十分な訓練費用を確保できなくなり、パイロットの錬成度も低下する

といった深刻な悪影響が海兵隊に限らず米軍全体での航空機運用に降りかかっていると指摘している。


そして、強制財政削減はアメリカ軍の航空機運用だけでなく、アメリカ軍の戦力そのものを弱体化させている原因であるとして、一刻も早く強制財政削減を撤廃し国防費を“正常”な状態に戻すように主張しているのである。


アメリカ軍では、海兵隊機や海軍機の事故だけでなく、本コラムでも取り上げたように、軍艦の重大事故も頻発している。北朝鮮情勢がますます緊張の度合いを強めるに従い、航空機や艦艇の作戦出動や訓練の度合いも密にならざるを得ない。するとますます事故の可能性も高まりかねないのであり、ホワイトハウスはもちろんのこと連邦議会でもオバマ大統領の遺産である強制財政削減措置の撤廃に関する議論がより一層高まるものと思われる。


(次回は11月1日に掲載する予定です)



きたむら・じゅん

1958年東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、1989年に渡米。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学で博士号(政治社会学)を取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。海軍などに対する調査分析など米国で戦略コンサルタントを務める。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)、編著に『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)などがある。現在、米ワシントン州在住。


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