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置いてきぼりの日本への必要な処方箋 松井博 #12

1週間前に日本からシリコンバレーの自宅へと戻ると、近所にアマゾンのリアル店舗がオープンしました。今日はその店で受けた驚きと共に、そこで湧いてきた「このままでいくと、日本は立ち枯れてしまうかもしれない」と漠然とした不安感をお伝えするとともに、日本はいったいどのように現状を打破すればいいのか考えてみたいと思います。


ネットがリアルを定義する

新しくオープンしたアマゾンのリアル店舗=店舗の写真はすべて松井さん提供

オープンしたてのアマゾンのリアル店舗は一見するとどこにでもあるような書店でした。ですが、実際に店内に入ってみると、商品の展示方法がなんともユニークなのです。この店の品揃えはネットからのフィードバックによって構成されており、「アマゾンの評価が4.8以上だった書籍」「1万以上レビューがついた書籍」「シリコンバレーで最も購入されている書籍」などのように分類された本棚が立ち並んでいるのです。



これにはなんとも言えない衝撃を感じました。ネットというのはあくまで「リアル」の外側にあるものだと思っていたのに、この店ではまず「ネットありき」で、リアル店舗の商品構成や並べ方をつかさどるのは、あくまでネットなのです。



また、店舗の一角にはアマゾンが開発した音声認識をするAIアシスタント、アレクサを搭載した製品が展示されており、すぐそばにはアレクサを通じて音声で操作可能な家電製品各種が所狭しと並んでいました。サーモスタット、防犯カメラ、扇風機、時計、電気スタンドなどなど、その数には驚くばかりです。


商品棚にはアマゾンの関連製品がところ狭しと並ぶ

このアレクサを搭載した「エコー」というスマートスピーカーは前回も紹介しましたが、我が家でも半年ほど使っています。その音声認識能力はアップルのSiriよりもかなり高く、普通に音声で命じれば、大抵のことは一発で理解して実行してくれます。天候を確認したり音楽やニュースを聴いたりはもちろんのこと、最寄りのスターバックスにコーヒーを注文したり、シェアライド・サービス、ウーバーの車を手配することなどが音声一つで可能なのです。



またこのアレクサに対応した各種家電商品を使えば、音声一つで空調の温度や、照明の明るさや色を変えたりすることもできます。最初は奇をてらった単なるギミックだと思って遊び半分で使っていたのですが、やがて音声で命じることに慣れてくると、今度はいちいちスマートフォンを操作することがまだるっこしく感じられるようになってきたのです。Apple WatchにもSiriが搭載されましたが、僕らはそう遠くない将来、個々の機器の使い方を覚えることから解放されるでしょう。なんでも口に出してAIにお願いすれば、それが叶うようになっていくのです。



温泉旅行に行きたくなったら、それを口にすればいい。すると、AIアシスタントが休暇の申請から温泉宿の予約までもこなしてくれしてくれ、家の前まで迎えの車を手配してくれるようになる。それどころか、「コーヒーはいかがですか?」「そろそろ休暇はいかがですか?」とAIアシスタントの方が促してくれるようになる。これが今後のテクノロジーのいく先でしょう。

スマートスピーカーも大人気だ。

それらのサービスに付随する支払いはもちろん全て自動的に引き落とされ、対面で支払いをするシーンなどなくなってしまうのです。それどころか、預金残高をAIアシスタントが把握し、過剰な消費を戒める方向に発達していくかもしれません。荒唐無稽に感じられるかもしれませんが、現に、今ここにあるテクノロジーでどれも実現可能なのです。



かつて日本は最先端を走っていた

では振り返って日本の今はどんな状況かというと、90年代で足踏みをしているような状態です。僕はつい先々週まで日本にいたのですが、軽くタイムスリップしたような感覚さえありました。



日本では駅前のレンタルビデオ店、そこいら中にある便利なコンビニ、満員電車、現金優先社会、駅前に列をなすタクシー、低いままの物価……。今51歳の僕がまだ20代だった90年代とさほど変わっていなかったのです。変わったことといえば高齢者の数が目立って増えたことと、電車の中で雑誌を読む代わりにスマホを弄るようになったくらいでしょうか?



しかし、日本も最初から硬直していたわけではありません。1990~2000年頃までは、未来は日本と共にあったのです。僕がアメリカに移住した2002年、アメリカはメイドイン・ジャパンの製品で溢れていました。電化製品はもちろんですが、注目を浴びていたのはトヨタのプリウスです。ハリウッドのセレブ達がこぞってプリウスに乗り、それはそのまま「環境に優しい人間ですよ」というアピールになっていました。あるいは、まだ非接触型の決済システムなど世界のどこにもなかったその時代に、日本ではSuicaが導入され始めていました。

おすすめなどの書棚は、ネットでの評価をもとに構成されている。


その頃、僕が勤めていたアップルはまだ初代iPodを売り出したばかりで、社員数も今の10分の1足らずの小さな会社でした。ソニーやパナソニックなどといった日本の大手電機メーカーに追いつく未来など半永久的に来ないようにさえ思われたものです。当時 iPodの開発に従事していた僕は、日本製の携帯型のミュージックプレーヤを取り寄せては分解して調べていました。アップルはコンシューマー製品に関してはまるっきりの新規参入で、日本のメーカーから学ぶことがたくさんあったのです。本当に手探りで開発を進めていました。



金の鉱脈は、全員の足元にあった

やがて誰もが音楽をダウンロードして聴くようになる。僕らはそういう確信を抱いていました。そしてこれは僕らだけに限ったことではなく、世界中のIT技術者たちが一様に抱いていた感覚ではなかったと思います。問題は「誰が1番乗りになるのか?」だけだったと言ってもいいでしょう。そしてその実現の一番近くにいたのはアップルではなく、おそらくソニーであったと思うのです。



しかし、アップルが真っ先にiTunesストアというプラットフォームが確立させると、日本のポータブル音響機器は一気に駆逐されてしまいました。そして、このパターンはその後、スマートフォン、電子書籍と何度も繰り返されることとなったのです。当時世界の最先端を行っていた日本の携帯電話は、スマートフォンの登場であっという間に駆逐されてしまいました。電子書籍リーダーも日本のメーカーの方が先発だったのにも関わらず、今ではアマゾン一色と言っていい状況です。



次の波に、日本の影はない

テスラの新車種「モデル3」とイーロン・マスクCEO=17年7月、米フリーモント

おそらく同じことが、その他の分野でも起きていきます。自動運転やEVへのシフトでも、日本の自動車メーカーは各社は置いていかれるでしょう。こちらの先陣を切っているのはアメリカのメーカー、テスラであり、ハリウッドのセレブたちが乗る車もいつのまにかプリウスからテスラへと入れ替わってしまいました。この自動運転、EV、そしてライドシェアが三位一体となって新しいエコシステムが交通業界にも現れると思われますが、残念ながらそこに日本企業が積極的に関わって行くシーンは見られないのではないかと思います。



なぜ、こんなにも差がついてしまったのでしょうか?

おそらくその根本的な理由は、急激に進む少子高齢化にあります。人間誰でも、歳を取れば新しいアイデアが出なくなり、若者のすることが理解できなくなります。そして、僕ら日本人の平均年齢は今や46.9歳で、世界第2位なのです。また、日本と同じように硬直化して苦しんでいる先進国といえばイタリアとギリシャですが、それぞれ平均年齢が45.1歳で44.2歳で7位と8位に付けています。現在躍進中の韓国が39位で41.2歳、中国が67位で37.1歳、アメリカ合衆国は62位でまだまだ若い37.9歳です。



少子高齢化のせいにしても始まらない


ではもう日本にはチャンスがないのかというと、そんなことはありません。例えばヨーロッパ経済を牽引しているドイツの平均年齢はなんと46.8歳で日本とほぼ同じなのです。ドイツもまた、急激な少子高齢化に有効打を打てていない状況です。にもかかわらず、ドイツは躍進を続けています。この違いはどこから生まれてくるのでしょうか?



多様化を図る

一つは人材の多様化にあります。ドイツは移民の受け入れに伴い否応無く人種の多様化が進みましたが、巡り巡って結局は功を奏したのではないでしょうか?日本でも 2001年にカルロス・ゴーン氏が日産の社長に就任しましたが、ひとつの成功例として考えて良いでしょう。三菱ふそうトラック・バスも外国人社長ですし、トヨタもまた外国人を副社長に据えています。楽天なども積極的に海外の優秀な人材を採用しています。



日本人のオジサンばかりで経営陣を固めていても、突き抜けた考えなど出るはずもありませんから、また研究開発職なども日本人に限らず、様々なバックグラウンドの人材を入れる必要があるでしょう。



チャレンジしやすい風土を作る

「起業しやすい風土を作れ」という掛け声はもう30年以上続いていますが、未だに実現しません。日本では今でも企業が銀行からお金を借りようとすると代表取締役が連帯保証人にされてしまいますが、事業に失敗したら人生が破滅するような現行の制度では、積極的に挑戦する人など出るはずもないのです。ちなみにアメリカでは、この「個人が連帯保証人になる」という制度自体が存在しません。結果として貸しつける銀行の方も真剣にリスクアセスメントをした上で貸し出しますし、借りる方は一段気楽です。結果として、ずっと起業しやすい風土が出来上がっています。



外国人にとって魅力のある制度を構築する

また、今以上に国が衰えてから外国から優秀な人材を入れようとしても、衰えるだけの未来が待っている外国に、わざわざ来てくれるような奇特な外国人はいないのです。ですから外国人が住みやすく、働きやすい法制度を整備することは急務です。僕は最近フィリピン人の英語教師を3人東京に出向させましたが、手続きの煩雑さ、住まいの確保の難しさ、銀行口座の開設などには本当に辟易としました。これでは外国人が積極的に日本に住みたがることはないでしょう。優秀な人材を獲得したいなら尚更です。



人材の流動性を高める

人材の流動性を高めることも急務です。35歳を過ぎたら転職先がないという社会では、適材適所が行われることなどありえません。仮に向いてない仕事に就いていても、年齢を考えて職場にしがみつくようになるからです。また現実的に社員を解雇できない社会というのも問題です。絶対に解雇できないとなれば、そもそも正社員を採用すること自体をヤメてしまうからです。こうした昭和からずっと代わり映えしない制度は、結局のところ日本といの国力を大きく削いでいますが、なぜかこれが是正されることはありません。



仮にここで提案した3つが直ちになされたとしても、今の立ち遅れが解消されるまでには、10年以上の歳月を要するでしょう。それでもこれ以上差がつく前に手を打つべきではないでしょうか?


■お知らせ

松井博さんの「ITが創る未来のカタチ」は今回が最終回。次回からは装いを新たにして、米国で働き、フィリピンなどで語学学校を経営する松井さんの「英語」についてのコラムを連載します。どうぞお楽しみに!





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松井 博

米国にて大学卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、米国アップル本社に移籍。iPodやマッキントッシュなどの品質保証部のシニアマネジャーとして7年間勤務。2009年に同社退職。カリフォルニア州にて保育園を開業。15年フィリピン・セブ島にて Brighture English Academy を創設。著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」する』など。



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