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「男性」?「女性」? ジェンダー超えた俳優~『アンダー・ハー・マウス』


今作のクルーは、現場、ポストプロダクション合わせて総勢約30人のいずれも女性のみ。名のある役柄のキャストを見ても、婚約者ライル以外はすべて女性だ。全員女性クルーの映画は「おそらく世界初」だとマレン監督。狙いはこうだ。「今作の狙いは、恋愛や性愛に対する女性の視点をスクリーンに映し出すこと。嘘っぽくならないようにするためには、スタッフを全員女性にする必要がある、と考えた。製作プロセス全体を通して欠かせないことで、衣装や編集、音楽に至るまで、女性のタッチをもたらした。そうして作品に真実味が出た。全員が女性だったことで一体感も強く、勢いもあった」

『アンダー・ハー・マウス』よりエリカ・リンダー(右) © 2016, Serendipity Point Films Inc.

今作には性的場面も多いだけに、クルーに男性がいなかったことで、女性の役者陣全体としてもやりやすかったそうだ。「男性の監督の前でよくやるように、何か気取ったりする必要もなかった。ジャスミンとダラスの性的な場面もとても自然に撮れた。これまでの映画の多くは、こうした場面では女性に過剰に感じさせたりしてしまい、本来自然な場面がカットされてしまっていた」とマレン監督は言う。


名のある役柄では唯一の男性、セバスチャンはどう受け止めたのだろう。「彼は約30人の女性に囲まれての演技をとても気に入っていた」とマレン監督。セバスチャンは当初、脚本を読むやマレン監督に電話し、「泣いた。今まで読んだ中で最も美しいラブストーリーだ」と話したそうだ。「彼はとても柔軟で繊細な人。男性にはこんな小さな役しかないのか、と疑問を口にしたりすることもなく、たいていの男性とは逆であろう反応をした。女性が今作の焦点になっているのを称えて楽しそうだった。男性の役者では珍しいことね」

エイプリル・マレン監督=外山俊樹撮影

それにしても、映画に携わる女性はまだ世界的にも少ない。製作に必要なすべての分野で女性をそろえるのは大変だったのでは。「カナダの映画界は今、特に意思決定にかかわる要職での女性登用を進めているけれど、それでも見つけるのはとても難しいことだった。およそ半年かかった」とマレン監督。ちなみに一番困難だったのは、音響分野だったそうだ。そう言えば、ものすごく次元の低い比較をすれば、高校時代に吹奏楽部長だった私は文化祭のクラス劇で音響担当者を買って出て、級友一同に「男子がやるんじゃなくて?」と驚かれたことがあるが、確かにアカデミー音響編集賞の受賞者一覧を見ても、圧倒的に男性だ。「なぜだかわからないけど、この分野は女性があまりいない。他の分野もそんなにはいないけれどもね。ともかく、誰かを見つけてはツテを頼って次を探す繰り返しだった」とマレン監督は振り返る。


今月はドイツで同性婚が合法化となったが、カナダは早くも2005年に合法化している。「カナダはLGBTに対してきわめて柔軟で、もはや『普通』のこととして受け止められている。でも私の出身地ナイアガラ・フォールズのような小さな街では、隠したり、公言を恐れたり、それはよくないと考えたりする人もまだいる」とマレン監督は言う。

『アンダー・ハー・マウス』よりエリカ・リンダー © 2016, Serendipity Point Films Inc.

それだけに、男女双方の服をかっこよく着こなすモデルとして、世界のファッションショーのランウェイを颯爽と闊歩するエリカに、LGBTコミュニティーを超えた支持が集まるのだろう。同性愛者を茶化すテレビ番組がいまだに放送されて騒ぎになってしまう日本にもやって来たら、広く人気をかっさらいながら偏見など軽く吹き飛ばしてくれるのでは、と期待している。








藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi






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