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アメリカ人は9.11映画を拒み始めたのか~『ナインイレヴン 運命を分けた日』


チャーリーといえば、『プラトゥーン』(1986年)に『ウォール街』(1987年)、『エイトメン・アウト』(1988年)、『メジャー・リーグ』(1989年)と、1980年代にはヒット映画に立て続けに出演、日本でもブレークした人気俳優だ。米テレビドラマシリーズ『スピン・シティ 』(1996~2002年)ではゴールデングローブ賞テレビシリーズ(コメディ・ミュージカル)部門で主演男優賞を受賞。だが一方で、妻への暴行容疑での逮捕や数々の暴言などが続き、トラブルメーカーとして取り上げられるようになる。主演した米テレビシリーズ『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』(2003~2015年)は、チャーリーがラジオ番組などで製作総指揮者を悪しざまに語ったことなどから打ち切られた。9.11についても2006年、「世界貿易センターは人為的な爆破で崩壊した」とする陰謀論をラジオ番組で展開、米国で大きな批判を浴びた。かつてのようなシリアス作品への出演は激減し、最近はコメディドラマ出演か、ゴシップ紙を賑わす常連としてのイメージが強くなっていた。

『ナインイレヴン 運命を分けた日』より © 2017 Nine Eleven Movie, LLC

そんな彼が、批判を再燃させそうな9.11の映画に敢えて主演するのはかなり勇気が要ったのではないか。そう言うと、ギギ監督は「そう。でも映画『ウォール街』でのチャーリーから連想し、彼なしではできないと思った。そこで、脚本にもう一度目を通してほしい、と伝え、直接会って話をした。彼はカムバックにふさわしい、取り組むべき物語に出あうまで長年待っていたそうだが、100%自信がなかった。でも次第に、これこそが、再び取り組むべき映画だと言ってくれた」と説明した。


案の定というべきか、今作の製作について報じられると、ツイッターや米メディアでは批判が巻き起こった。


「陰謀論を展開したチャーリー・シーンが主演なんて、冗談でしょ」といった書き込みも目立ったためだろう、チャーリーは9月の米国での公開前日、米誌ハリウッド・リポーターの取材に釈明した。「9.11についてのコメントは自分で考えたのではなく、賢い人たちが言っていた話をなぞっただけだ。不快にさせたとしたら、謝る」として、今作を通して米同時多発テロを振り返る意義を訴えた。

『ナインイレヴン 運命を分けた日』より © 2017 Nine Eleven Movie, LLC

ただ、批判を子細に読むと、チャーリー云々以上に、アメリカ人がこのテロの惨劇そのものをもはや直視したくなくなっている面もあるのかもしれない、と感じた。米誌ハリウッド・リポーターは「犠牲者を利用している」との批評を掲載。米紙ニューヨーク・デイリー・ニュースでは、テロで消防士の息子を亡くした女性が「私が見たいと思った9.11映画は、(テロ首謀者とされる)オサマ・ビンラディン殺害場面が出てくる『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)だけ」と実名でコメントしていた。


米同時多発テロから間もない2000年代は、こうした反応は少なくとも見当たらなかった、とチャーリーも米誌ハリウッド・リポーターに語っている。ハイジャックされた4機のうち、唯一目標に到達しなかったユナイテッド航空93便の機内の様子を丹念に再現したポール・グリーングラス監督(62)の『ユナイテッド93』(2006年)は批評家から絶賛された。世界貿易センターで救助にあたった警官たちを描いたオリバー・ストーン監督(70)・ニコラス・ケイジ(53)主演作『ワールド・トレード・センター』(同年)は、同時多発テロ発生時のニューヨーク市長、ルドルフ・ジュリアーニ(73)らを招いて大々的にプレミア上映され、ニューヨーク市警なども好意的に反応した。

『ナインイレヴン 運命を分けた日』より © 2017 Nine Eleven Movie, LLC

だが最近は、テロ当日の惨事そのものを描いたフィクション映画自体、あまり多く作られていない印象だ。どちらかというと、『ハート・ロッカー』(2008年)や『ゼロ・ダーク・サーティ』、『アメリカン・スナイパー』(2014年)など、イラク戦争をはじめとするその後の米軍の対テロ戦争を描いた作品が目立つ。アカデミー賞で作品賞と助演男優賞にノミネートされた『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2012年)では劇中、アスペルガー症候群の少年の父(トム・ハンクス、61)が世界貿易センターのビル崩壊で亡くなるが、テロ現場そのものはあくまで後景で、惨事を詳しく描出するわけではない。かつ、この作品にしてすでに、批評家の賛否も分かれていた。


つまり、発生まもない時期はまだ、当日何が起きたか知りたい人々の欲求にこたえる意義が今以上に大きかったのが、年を経るにつれ、アメリカ人にとっては自国の本土が攻撃された史上最大規模のテロの惨劇そのものは直視することなく距離を置きたい、だったら対テロ戦争や米軍について考えたい、と思うようになったということだろうか。そう言うと、ギギ監督は考えをめぐらせながら、「そうだね」と語った。

筆者のインタビューに答えるマルティン・ギギ監督=山本和生撮影

そのうえで、ギギ監督は言った。「それでも、私たちはこのできごとを忘れることはできないし、米同時多発テロを知らない未来の世代にとっても、何が起きたか感じ取ってもらうのは非常に大事なことだと思っている。自分が命を落とすことになろうとも他者に手を差し伸べたヒーローたちの最後の瞬間を描くことで、遺族が癒される場合もあるし、また将来の世代が正しい選択をするためにも、歴史を振り返るのは必要だ」






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藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者。

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi



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