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アフリカ移民2世のスターがあえてアメリカへ渡ったワケ~『あしたは最高のはじまり』


サミュエルは英国への移民。ロンドンでは2015年に撮影したが、その後の英国は欧州連合(EU)離脱を決め、メイ首相(60)は移民規制を掲げている。今ならサミュエルはどうなっていただろう。オマールは「よくわからない」としつつ、「移民は欧州だけではない」と強調した。「移民の多くが欧州をめざしているから『欧州の問題』とされがちだけど、これは世界的な問題だ。そもそもビジネスや貿易、金融や為替の問題になるとえらい人たちが集まって話し合うのに、移民についてはそこまでしない。どうしたらいいのかはとても難しいが、世界的な問題として世界中で話し合う機会を持つことで解が生まれると思う」

『あしたは最高のはじまり』より PHOTO : Julien PANIÉ

オマールは両親が西アフリカからの移民で、自身もイスラム教徒だ。父はセネガルからフランスへ渡り、当初はお金を稼いで母国に戻るつもりだったが、自動車工場で働くうち定住、モーリタニアからやって来て清掃の仕事をしていた女性と結婚。そうして生まれたオマールは8人きょうだいの4番目として、移民も多い郊外の公営住宅地帯「バンリュー(Banlieue)」で育った。兄の友人だった俳優に誘われてラジオの仕事を手伝うようになったのをきっかけに、コメディアンとして頭角を現し、映画に出るチャンスをつかんでスターダムを駆け上がった。


オマールは仏映画『Samba(原題)』(2014年)では、セネガルからフランスに移住し皿洗いとして働いていたところ拘束、国外退去を命じられて当局と闘う移民を演じている。セネガル移民という意味では父と同じだが、両親はこの映画を見て驚いたという。「両親は、移民をめぐる状況が昔よりいかに違ったものとなり、移民の負担や困難がいかに大きくなっているかを知って驚いた。彼らがフランスに来た時は、入国も法的地位を得ることも、仕事を見つけるのもそんなに大変ではなかった。今は移民は歓迎されない」

ユーゴ・ジェラン監督(左)と、『あしたは最高のはじまり』の撮影に臨むオマール・シー PHOTO : Julien PANIÉ

だからこそ、フランスで成功したオマールは「バンリューの希望」として欧州メディアに取り上げられている。


オマールはしかし、多くのフランス人俳優がフランスを拠点とし続ける中にあって、2012年にロサンゼルスへ家族とともに居を移した。自身が米国への移民となったわけだ。「第一には英語を学ぶためだった。数年前はこんな風に英語で会話なんてできなかったもの。それに、ロサンゼルスは俳優として新たな仕事のチャンスがたくさんある。『X-Men: フューチャー&パスト』や『ジュラシック・ワールド』に出たり、『インフェルノ』(2016年)でロン・ハワード監督(63)やトム・ハンクスと仕事ができたりしたのも、ロサンゼルスに住んでいるからこそだよ」

『あしたは最高のはじまり』より PHOTO : Julien PANIÉ

ただ、ハリウッドはチャンスも多い一方で、白人中心主義で多様性を欠くとも長年指摘されている。そう言うと、オマールは「だからこそ米国に来た」と答えつつ、「私は黒人としてではなく、ひとりの俳優として仕事を探したり人に会ったりしている。白人、黒人と分けるのは外から見ているみなさんであって、自分はまったくそうした観点で見ていない」と強調した。そのうえで、「フランスではいろいろ仕事をし、やれることはずいぶんやったという気持ち。米国では、フランスではできないことをしたい。『ジュラシック・ワールド』のような大予算の大作はフランスでは作れない。そうした大きな作品に出演してゆきたい。いろんな可能性を探り、今までと違う役柄や、違う仕事にも挑戦して自分を進化させていきたいと思っている。自分がまた変わる必要があると感じるまで米国にいようと思う」と語った。


オマールが渡米したのはオバマ米政権下。今のトランプ米政権は打って変わって移民に厳しい姿勢を取り続けている。そうした中で、すでに米国でも人気を博しているオマールがどんな活躍を見せてくれるか。楽しみだ。

オマール・シー © Naj Jamai




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藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者。

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi



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