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人工知能の時代に、備えておくべき能力とは? 松井博 #10

AI将棋ソフト、ポナンザと対戦した佐藤天彦名人。97手で敗れた=2017年5月、兵庫県姫路市の姫路城


おそらくそれらは今はまだ黎明期にある人工知能だろうと考えています。最近人工知能で大きなニュースになったことといえば世界最強とうたわれた柯潔九段を囲碁の対局で破ったAI囲碁ソフト、AlphaGoや、将棋のプロ棋士をなぎ倒したAI将棋ソフト、ポナンザなどが挙げられます。AlphaGoもポナンザもこれまで人間の棋士が目にしたこともないような打ち手を次々と生み出し、事実上人工知能が人間を超えたとの印象を残しました。



今はまだ画像の自動判別や簡単な音声認識などといった極めて限定的なエリアでしか実用化されていませんが、おそらく今からほんの10〜20年くらいの間に、大抵のことは人工知能の方が人間よりも早く、より正確にできるようになっていくでしょう。「安全に運転する」「画像を正確に判別する」「文章をより正確に翻訳する」などといった目的がハッキリした作業であれば、それがたとえどんなに高度に知的な作業でも、おそらく人工知能の方がうまくできる日はそんなに遠くないのです。



考えてみれば、囲碁も将棋も極めて知的なゲームですが、それでさえ人工知能が人間を追い越してしまったのです。目的が限定された競争であれば、ありとあらゆる分野で人間が敗れ去るのは、おそらく時間の問題でしょう。



人間に残される優位性はなんだろうか?

人工知能が人間よりも素早く、的確に知的作業をこなせるようになった暁には、人間は一体何をすればよいのか?という議論がよくなされます。僕が考える「人間がすべき作業」は、課題設定です。例えば「文章の翻訳方法を学習しろ」と課題設定するのは人間ですが、実際に翻訳方法を解明し、翻訳作業をしてくれるのは機械になっていくのです。

人工知能はポーカーでも人間のプロを破った=2017年1月ペンシルバニア州ピッツバーグ


つまり、人間と人工知能の関係は、ちょうど経営者と従業員の関係に似たものになっていくに違いありません。経営者というのは別に経理から開発からマーケティングに至るまでなんでもできるわけではありませんが、部下に適切なゴール設定をすることで、それぞれの分野に長けた専門家から知恵を引き出し、新しい製品やサービスを世の中に送り出していくわけです。



逆に言えば適切なゴール設定ができない人は、機械に仕事を奪われていくことになると思うのです。課題を見つけ、適切なゴール設定をし、あとは人工知能にやらせる。分野を問わず、そんなやり方が一般的になっていくはずです。つまり人間の役割は、観察や体験から気づきを得て、そこから適切なゴールを抽出していくことになるのです。



ですから、今「頭脳労働」とされている職業に就いている人でも、自分では課題設定ができず、上司に設定された課題を解決しているだけの仕事をしている人は要注意です。こうしたテクノロジーが職場に浸透するのは、おそらくもうそんなに先のことではないからです。



課題設定能力をどう磨くか?

では、課題設定能力は一体どのように養えばよいのでしょうか? まずそれは「世界を理解する能力」を養うところから始まるように思います。自分の周囲を取り囲む世界を把握し、そこに物語や意味を与え、理解する能力です。そもそも「理解する」という行為は、日常の風景や出来事に自分なりのストーリーを与える行為なのかもしれません。



例えば、幼子にとって親や兄弟は世界の全てですが、まだ自分と親兄弟との関係を客観視したり、そこにストーリーや意味づけをすることはできません。しかし、やがて成長を重ねるにつれて、自分の家族だけではなく、それを取り巻く社会や環境にも目が行くようになりますし、自分たちのことを客観視できるような能力が育っていきます。そして、そこにある様々な関係性に意味やストーリーを与え、それを楽しんだり、あるいはもがき苦しんだり、関係を変えようと働きかけたりするにようになるわけです。

交通のあり方を大きく変える完全自動運転の実験もさかんになってきた=2017年7月、東京都港区


ただ、こうした能力は意識的に育てていかないと深いものとはなり得ません。周囲との対話も必要ですし、読書や映画鑑賞などを通じての自分とは異なる時代や境遇の疑似体験をすることも必要でしょう。そしてまた、「世界」を自分なりの方法で解釈し、意味やストーリーを与え、それをさらにまた言葉や映像や音楽にして表現していく訓練も大切です。なぜなら表現するという行為を通じて、そこから課題が浮かび上がってくるからです。



親や上司、あるいは友達などから言われたことを鵜呑みにしたり闇雲に信じるのではなく、自分なりに咀嚼し表現するという行為を繰り返すうちに、納得の得られない部分や、改善すべき点が明らかになっていくのです。そしたら次は、自分の持てるリソースを活用し、それらの課題を解消していくのです。自分で課題を設定できる人は、そうやって日々の問題解決を図っています。そう遠くない将来に人工知能が、この「持てるリソース」の仲間入りするでしょう。僕らが現在利用している自動車や電車や宅配便、あるいはスマホやインターネットなどといったリソースの中に、人工知能がすっぽりと収まるのです。



そして、ますます格差が広がる

誰もがネットというリソースを安価で利用できるようになった今、ネットを有効活用できる人と、ゲームやビデオとして時間を使ってしまう人との間で、大きな能力差が生まれつつあります。ネットを有効活用できる人は自分の交友関係、世界を把握する力、そして創造性をますます高めており、その一方でそうでない人は、確実に食い物にされています。



この格差は、人工知能の普及に伴って、おそらく取り返しがつかないくらいに劇的に広がるでしょう。世界を理解する力、そして、そこに意味を与え、課題を見出し、解決していく能力。lこれこそが、人工知能時代に備えて、僕らが養っていくべき能力なのです。





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松井 博

米国にて大学卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、米国アップル本社に移籍。iPodやマッキントッシュなどの品質保証部のシニアマネジャーとして7年間勤務。2009年に同社退職。カリフォルニア州にて保育園を開業。15年フィリピン・セブ島にて Brighture English Academy を創設。著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」する』など。



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