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酒井順子さんと考える 『ワンダーウーマン』と日本

グループのアイドルが日本で隆盛なのには深いワケが

インタビューに答える酒井順子さん=藤えりか撮影



シネマニア・リポート Cinemania Report [#66] 藤えりか


史上初の女性スーパーヒーロー映画として米国などで記録的ヒットを飛ばし、他の女性監督・主役の映画にも勢いを広げている米映画『ワンダーウーマン』(原題: Wonder Woman)(2017年)。さて、翻って日本は? GLOBE「シネマニア・リポート[#59]」パティ・ジェンキンス監督インタビューに続き、9月19日付朝日新聞夕刊に書いた記事にコメントいただいたエッセイストの酒井順子さん(51)に、さらに語っていただいた。(聞き手・GLOBE記者 藤えりか)



――米国では『ワンダーウーマン』を機に他の女性監督の映画もヒット、欧州でも女性の監督・主演の映画が増えていますが、日本はまだその波に乗れずガラパゴス化している、と言われています。


「今はフェミニズム第4波のようなものがきていて、海外の女優さんたちも結構発言していますが、日本にはまだその波が届いていないようです。そこには、女性の側の自己規制みたいなものがあるのかも。言ってしまったら仕事上で不利になる、あるいは人気がなくなるかもしれない、とか。(新著の)『男尊女子』(集英社)でも書きましたが、男女平等の思想を口にするとモテなくなるかもという恐れを持つ日本の女性は多いものです。同じような現象が芸能界にもあるのでしょう」


「もしかしたらアイドルグループの中にも、活動をするうちに、女性性を売るという自分達の活動について疑問を持つ人もいるような気はします。けれども、それは表に出せないでしょうし、芸能活動で発言するわけにはたぶんいかないのでしょう。特にグループとして活動している時においては」


「強さを前面に打ち出して人気を得る女性も、昔から存在はしています。けれど女性スポーツ選手のインタビューを見ていても、競技の面ではこんなに強くても家に帰ると普通の女の子です、という風に取り上げられるのがお決まりのパターン。実はお菓子作りが好きとか、こんなにキャラクターグッズに囲まれている、とか。強い女性に対して、必ず『でもこんなに女っぽい』という部分をくっつけたがる日本のメディアの視線はあると思います」


――『男尊女子』で、自らをあえて低く見せる「無知のフリ」が女性の間で脈々と受け継がれてきた点を指摘されています。

『ワンダーウーマン』ジャパンプレミアで、日本の宣伝大使を務めた乃木坂46のメンバーとポーズを決めるパティ・ジェンキンス監督(前列中央左)と、プロデューサーのチャールズ・ローヴン氏(同右)=8月、東京・歌舞伎町、嶋田達也撮影

「日本には、レディー・ガガのように自分の意見を外に出す歌手や女優は非常に少ないものです。そもそも、男女を問わず芸能人が意見を口にする文化がないわけですが、特に若い女性芸能人は『無知のフリ』をしている方が得策、というところがあります。その手のフリを一番しなくてはならないのが、女性のアイドルグループでしょう。この前のAKB48の総選挙でメンバーのひとりが結婚を発表しましたが、異端であってもせいぜい異性問題において。政治的発言などしてしまったら、彼女達の本分である『好きになってもらう』ことからは遠ざかってしまう」


「日本においては、そういったアイドルに対してお金を払ってもいいという男性たちがいるわけです。彼らはアイドルたちと交際するわけではなく、夢を買っている。実生活ではもっと厳しい現実に出あっているけれど、夢の世界では『かわいい』だけの子たちがいるんだ、と思いたい気持ちもわかります。それは女性の側も同じで、実生活で異性関係で苦労していても、ジャニーズアイドルは夢と楽しさだけをくれる、という消費の構造はまだ続くでしょう」


――ストレートに強いアイドルが出てきたら「夢」が壊されるということでしょうか。


「アイドルが汚れを知らない存在だった昔と違って、今は人間らしさみたいなものも人気の要因になっています。気の強さが売り、という人もいるでしょう。ただそれは、男性を凌駕するような強さではない。『男性は本当は女性の手のひらの上で転がされているんですよ』的な、『九州女』っぽい強さが求められているのではないかと思います。バカなふりをしているけどほんとは意外にちゃんと考えてます、といった強さの方が、受けはよいのでしょう」


「AKB48的なグループを見ていると、リーダーシップのある人がいたり、トークがおもしろい人がいたり、全体で一つの人格を形作っているように見えます。大勢いるからこそ、一人一人の欠点も分散されるようになっていて、アイドルに許される範囲は昔より広がってきてはいるのでしょう。同時に大勢いるからこそ、一人が負う責任が曖昧になってきていて、個人としての発言をする必要もない。うまいこと逃げ道ができているなと思います」

『ワンダーウーマン』より © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

――『ワンダーウーマン』は日本でも、公開最初の週末の興行収入は3位。それから約1ヵ月の間、上位10位入りを続けました。


「天照大神や神功皇后を考えても、日本人は古来、強い女を待望する気持ちをどこかで持っているのでは。『戦う女』が好きな面もありますし、受け入れられる素地も、待望する人たちも結構あるのでしょう」


「男女の力の均衡化が進む今、強い女性に守ってほしいと思う男性は日本にも増えてきていると思います。ですから『強い女性モノは受けないのでは』などと、あまり忖度しない方がいいのでは。ただ、そういう男性たちが自分の『弱さ』を外には出しづらい、ということはあるしれませんが、これからさらに時代は変わってくることでしょう」


――確かに、男女平等!と常日頃言う私も、男性に「僕のことを守って」と来られたら内心「えーっ」と思ってしまう部分も否めません……。

酒井順子さん=藤えりか撮影

「だから彼らは口をつぐむのでしょうね。ただ、イマドキの特に若者は妻にも稼ぎを求めるじゃないですか。その上に家事も子育てもしてほしい、と望むということは、女性からの庇護を求めているということ。無言のうちに『僕を守って』とアピールしているのかもしれません」









酒井順子(さかい・じゅんこ)さん

エッセイスト

1966年生まれ。高校在学中から雑誌「オリーブ」などでコラムを発表、広告会社勤務を経て執筆専業となる。ベストセラー『負け犬の遠吠え』で2004年、婦人公論文芸賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞。「負け犬」は流行語大賞でトップ10入り。2009~2010年度、朝日新聞書評委員を務めた。著書は他に、『おばさん未満』『紫式部の欲望』『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『源氏姉妹』『ananの噓』など多数。








藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者。

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi



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