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女性ポスト、増やせばビジネスにも~『ワンダーウーマン』


その言葉は、今作を見るとうなずける。ダイアナや叔母アンティオペ将軍をはじめとするアマゾン族は肌の露出の多いよろいを身に着けているが、島を外敵から守るために鍛え、果敢に戦うさまは、ひたすら自立した勇姿にしか見えず、性的なイメージを感じさせない。ロンドンに着いたダイアナは、女性が通常着る服を当座着るようスティーブに言われ、百貨店でさまざま試着するが、長いタイトスカートはいかにも動きづらく、いつものいでたちの方が合理的なのだと思わせる。この辺りは、そうしたスカートの不自由さを知る女性監督ならでは、ではなかろうか。


ジェンキンス監督は「今作が成功したことで、これが彼女のスーパーヒーローとしての服装だと受け入れられたのではないか」と話した。

『ワンダーウーマン』より © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『Cosplay World』(2014年)などの著書がある米国人ジャーナリスト、ブライアン・アッシュクラフト(38)は言う。「国連の大使に任命された時は、今回の映画『ワンダーウーマン』がどんなものか、まだ知られていなかった。公開後の今、任命されていたら、抗議はさほど起きなかったのではないか」


今作には、伝統的な性別役割を逆転させた場面も随所にある。

筆者の質問に答えるパティ・ジェンキンス監督=山本裕之撮影

ダイアナはロンドンでメガネをかけ、ドイツ軍に追われるスティーブを助ける。故クリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』(1978年)の設定を男女逆転させたオマージュだ。そう言うと、ジェンキンス監督は「そう! 偉大なるスーパーマンの栄誉を、ダイアナにももたらした。『ものすごく強い女性なんていない』かのように振る舞うのはもうやめる必要がある。とても強い女性を、柔和さも損なわずにスクリーンに登場させるのは大事なことだと思っている」と語った。


ただ、ジェンキンス監督はこうも強調した。「ダイアナが女性であることが気にならないよう努めたし、女性がこんな風に描かれるのを見たことがないとして、女性たちには特別な感じを与えた。けれど、女性寄りのアンチ男性の映画を作ったわけではない。男性を立ち入らせまいと背を向けてはおらず、ダイアナも男性に抗うわけではない。非常に万人向けの作品にしようとした」

『ワンダーウーマン』より © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

実際、男性にとっても考えさせられる。スティーブは大事な場面でダイアナをサポートあるいは任せるし、協力者の狙撃手チャーリー(ユエン・ブレムナー、45)は、いざという時に動けなかったりもする。男性だからといって必ずしも強くなくていい、個性を生かせばいいのだ、というメッセージが感じられる。そう水を向けると、ジェンキンス監督は「すべての登場人物が普遍的な存在となるよう、男性だから、あるいは女性だからこう行動する、という風にはしなかった。男女には間違いなく違いがあるけれど、男性も必ずしも強いわけではなく、弱くて傷つきやすい。同様に、女性も弱くて傷つきやすい面がある一方、強く、楽しくもある」と語った。


米映画界は、その男性社会ぶりが指摘されてきた。サンディエゴ州立大学「テレビ・映画の女性研究センター」によると、米国の昨年の興行収入上位100作品中、女性の主役は29%。女性監督に至っては、同250作品中わずか7%に過ぎない。アカデミー監督賞も、キャスリン・ビグロー(65)が『ハート・ロッカー』(2008年)で女性で初めて受賞して以来、女性の受賞者はいない。

パティ・ジェンキンス監督=山本裕之撮影

ジェンキンス監督は今回、ビグロー監督以来の女性の監督賞なるか、とも注目されている。米映画産業を分析する「Movio」によると、牽引役は女性や50代以上の観客。スーパーヒーロー映画といえば男性の観客が高い割合を占めていたが、今作の男女比はほぼ半々になっているという。ロサンゼルス映画批評家協会のクラウディア・プイグ会長は「女性初の米大統領誕生を見られず落胆した人たちが、女性の力強い物語を求め、女性であるジェンキンス監督を支持しているということだろう」と話す。加えて、女性蔑視発言をいとわないトランプ米大統領(71)への反発もあろうか。


米誌ワイアードによると、今夏の米国は『ワンダーウーマン』のほかにも、「女性監督による女性の映画」にヒットの波が広がっているという。女性のコメディー映画は女性のスーパーヒーロー映画同様、ヒットしないと言われてきたジャンルだが、ルシア・アニエロ監督によるスカーレット・ヨハンソン(32)主演のコメディー『Rough Night』(2017年)がヒットし注目されている。イラク戦争の女性兵士を描いたガブリエラ・カウパースウェイト監督のケイト・マーラ(34)主演作『Megan Leavey』(2017年)も、公開最初の週末に興行収入上位10位入りした。


こうした米国の動きに同調するかのように、『ワンダーウーマン』は先行して公開された中国や韓国でも、最初の週末の興行収入がいずれも1位と喝采で迎えられた。世界経済フォーラムによる「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」が今年、過去最低の111位となった日本はどう出るか。「そう、私もその点はとっても興味がある」とジェンキンス監督。他の多くの国・地域より2カ月以上遅れての公開、その成否をハリウッドも注視している。





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藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者。

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。読者と語るシネマニア・サロンを主宰。ツイッターは@erika_asahi



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