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ポーランドの右傾化と、戦後の悲劇~『夜明けの祈り』

『夜明けの祈り』より © 2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINÉMA SCOPE PICTURES



シネマニア・リポート Cinemania Report [#57] 藤えりか


カトリック教徒が国民の多数を占める東欧ポーランドで昨年、欧州でまれに見る厳しい中絶禁止法案が激しい論争の末に否決された。当時公開されたこの映画も、否決を後押ししたのだろうか。


長年語られてこなかった、戦後まもなくポーランドの修道院で起きた悲劇を描いた仏・ポーランド映画『夜明けの祈り』(原題: Les innocentes/英題: The Innocents)(2016年)が5日公開された。折しも、ポーランドでは右派政権が司法や報道への介入を強め、女性の権利も圧迫されつつある。ポーランド人のスタッフとポーランドで今作を撮ったフランスのアンヌ・フォンテーヌ監督(58)に、東京でインタビューした。

『夜明けの祈り』より © 2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINÉMA SCOPE PICTURES

舞台は1945年12月、ナチス・ドイツの占領から解放されてまもないポーランド。フランス人医師マチルド・ボリュー(ルー・ドゥ・ラージュ、27)はフランス赤十字の医療施設で、ナチス・ドイツの捕虜となったり強制労働に徴用されたりしたフランス人の治療にあたっていた。そんななか、修道女がポーランド語で、助けを求めて駆け込む。フランス人保護に専念しろと上司にはきつく言われるが、マチルドは軍用ジープでひとり、カトリック修道院へ。目にしたのは、身ごもり、激しい苦痛に泣き叫ぶ修道女7人の姿。神に身を捧げると誓った修道女たちが残酷にも、ナチス追放後にポーランドに駐留するソ連兵にレイプされた結果だった。宗教道徳上も、また宗教勢力を敵視するソ連にも表沙汰にできないと考える修道院長マザー・オレスカ(アガタ・クレシャ、45)はひた隠しにするばかり。母体が危険にさらされても、中絶はもとより、肌を他者に触れさせる治療も許されずに苦しむ修道女たちをマチルドは見捨てられず、説得しながらひそかに治療に通った。修道院長の補佐役シスター・マリア(アガタ・ブゼク、40)とも親しくなり、次第に彼女たちの信頼を得るが、フランス赤十字のポーランド撤退によるマチルドの帰国が決まり、新生児にも思わぬ危険が迫る――。


実話がベースだ。モデルとなった医師は、パリでレジスタンス運動にも参加した故マドレーヌ・ポーリアック。そうして今作で描かれたように修道女の悲劇に手を差し伸べたが、1946年2月にワルシャワ近くで若くして事故死を遂げる。フォンテーヌ監督は一連の物語を彼女の日記で知ったという。「信仰とは何であるか」「女性や母性とは何なのか」と自分に問いかけながら、ポーランドの歴史学者を通じてリサーチを進め、マドレーヌの甥フィリップ・メイニアルにも会った。

アンヌ・フォンテーヌ監督=早坂元興撮影

ポーランドでもこれまでほとんど知られていなかったという。「調査に協力してくれたポーランドの歴史学者によると、国内3カ所で同じようなことが起きたとのことだった。何人かは殺され、何人かは中絶にも至った。でもポーランドは国としては隠したがった」とフォンテーヌ監督は言う。


フォンテーヌ監督や主演のルーらはフランス人だが、修道女役をはじめ、撮影クルーも大半がポーランド人。撮影もポーランドで2015年に終えた。


「その数カ月後でしたね、右派政権が誕生したのは」。フォンテーヌ監督は振り返った。「今作に携わったポーランド人も、私のポーランド人の友人もみんな、新政権の誕生に動揺し、憤っていた」

『夜明けの祈り』より © 2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINÉMA SCOPE PICTURES

ポーランドでは2015年8月、ナショナリズムを前面に掲げる右派政党「法と正義(PiS)」のアンジェイ・ドゥダ(45)が大統領に就任。同年10月の総選挙でも、「法と正義(PiS)」が8年ぶりに政権に返り咲いた。格差の広がりとともに難民受け入れへの不満も高まるなか、政権は司法や報道への介入姿勢を強めており、民主主義の根幹を揺るがすとして欧州連合(EU)は制裁の可能性も示唆している。



(次ページへ続く)

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